2016年2月16日火曜日

ついに労働者の過半が外国人になったマレーシア

Source:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160215-00046026-jbpressz-bus_all

JBpress 2月15日(月)、ヤフーニュースより
 春節(旧正月、今年は2月8日が元旦)は中国の「専売特許」ではなく、世界中の華僑が1年の最大イベントとして盛大に祝う。国民の4人に1人が中国系という世界でも屈指の華僑(約700万人)を多く抱えるマレーシアでは、8、9日が祝日だった。

 新年を祝う飾り物の深紅と金色の超奇抜な巨大提灯や、商魂たくましい中国人らしく商売繁盛をもたらすと伝えられる竹や菊、金柑の木々が、家の軒先から町のいたるところにまで、華やかに彩を添える。

 春節の期間、中華系の多くが約1週間の休みを取るなか、マレーシアでは今年も100万台以上の車が"民族大移動"。首都圏の交通網が元旦前後、大幅に麻痺し、例年通り、大変な交通渋滞となった。

 そんな民族大移動だけでなく、家族や親戚、友人らが集まって豪華にレストランを貸しきって年越しや新年の会食風景も、春節には欠かせない伝統的行事だ。

■ 進行するマレーシアの現代病

 しかし、そんな中華系のために祝う伝統的な春節行事も、昨今は外国人労働者抜きには成り立たなくなってきた。背景には労働力不足があり、春節のこの時期、"マレーシアの現代病"が抱える病巣の深層が露となり、その病状の深刻さが浮きぼりになっている。

 春節を祝うマレーシアのお花屋さんは、新年の縁起物である竹や菊、金柑などの木々を買いに来る中華系の客で賑わう。

 特に首都のクアラルンプールに居住する中華系が続々と押し寄せる郊外にある何百軒もの店が連ねるスンガイ・ブローの花卸業者の軒先には、並べられた花々とともに、販売員の外国人スタッフが大きな声を張り上げ、客引きをする姿が目立つ。

 31歳のマヤさんは(仮名)「日本のアジサイもありますよ」と筆者に語りかけてきた。マレーシアでは春節時限定で、欧州などから輸入された種や苗から育ったアジサイを高値で(1鉢80リンギ=約2300円)売っていて、日本人にも人気だ。

 マヤさんは人懐っこい笑顔で人気のスタッフだが、もともとは出稼ぎメイドとして4年前にマレーシアにやって来たという。故郷のインドネシア・メダンには夫と7歳になる娘が暮らしているという。

 マレーシアでは違法とされる人材斡旋業者の口利きでやって来たという。「斡旋料として5000リンギを要求されたうえ、中華系の家庭での過酷な家事に耐えられず、逃げ出した」とこれまでのいきさつを話してくれた。
ASEAN(東南アジア諸国連合)の優等生で1人当たりGDP(国内総生産)で(ブルネイを除く)シンガポールに次ぐ新興国マレーシアには、母国の4倍から5倍もの高額な給与が得られることから、周辺国からの出稼ぎ労働者が後を絶たない。

 マレーシアの総労働人口約1400万人のうち(2014年)、正規の合法的出稼ぎ労働者は約200万人と言われる。非正規の違法労働者はその2倍以上の450万人近くまで膨れ上がっていると推定され、外国人労働者の数は春節を祝う約700万人の中華系マレーシア人の数に相当する勢いだ。

 数年前までは「4人から5人に1人」だったのが、今では実に、「ほぼ2人に1人」が、外国人労働者が占めるまでになっており、すでにマレーシアは世界で最も外国人労働者の占める比率が高い国の1つになっている。

 また、さらに驚くべきことに、マレーシア政府は今後3年間で、(ムスリム人の)バングラデッシュ人労働者を「合法的に150万人」、受け入れることを決めた。

 これにより、多民族国家の人口構成比(マレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%)が1957年の英国からの独立以来、60年ぶりに修正されるという歴史的事態に陥る。結果、外国人労働者総数は約800万人になり、中華系マレーシア人の人口をはるかに超え、マレーシアで「第2位の人口構成群」に躍り出る。

 さらには、中華系の合計特殊出生率が約1.4人と極めて低いことから、それらの外国人労働者が「マレーシア国籍」を得るまで、マレーシアでは外国人が自国民の人口を超える”異例”の事態が続くことにもなる。

 そのうち外国人出稼ぎメイドは70万人とも80万人とも言われ、「その約8割が違法なルートで入国し、全体の7割を占めるインドネシア人の9割が違法出稼ぎメイド」(メイド斡旋業者関係者)だという実態も指摘されている。

■ アジアで最高の初期費用

 マレーシアでは、正規で雇用主が支払う新規のメイド雇用に関する初期費用がアジアで最も高額で、現在、1万5000リンギ(約42万円)から1万8000リンギ(約51万円)にもなる。ところが、非正規ルートのメイドだと約1万リンギ(28万円)ほどで済む。

 さらに、正規ルートだと新規雇用申請から最短で雇用するまでに通常で3か月から4か月かかるが、非正規なら「数日から1週間」(業界関係者)で済むなどの事情が大きく影響している。

 また、正規ルートで来たものの、雇用契約途中で失踪し結果、ウエイトレスや場合によっては売春などに手を染めるケースも増えているという。

 フィリピン人のサリーさん(仮名)は、2年前に、合法的にメイドとしてマレーシアに来たが、エージェントの搾取に遭い、雇用期間半ばで逃げ出した。現在は、クアラルンプールのある韓国料理店で違法労働者として働いている。

 彼女は「バングラデシュから来た人など多くの違法労働者の友人がいるが、強制送還よりも怖いのが警察だ」と言う。警察官から暴力を受けたりかつ上げのような形で賄賂を要求されるというのだ。

 警察官に見つかって脅され、月給の2倍近い3000リンギを取られた人もいるという。違法労働者は警察官の汚職や賄賂の格好の温床になっており、違法業者と公的機関が裏で手を結んでいるとも指摘されている。病巣はマレーシア社会の構造的な問題にもなっており、傷口は相当深い。
 マレーシア政府はこうしたなか、2月1日、外国人労働者の雇用に付加される人頭税の値上げを発表した。

 これにより、製造、建設、サービス業分野では、年間1250リンギ(約3万6000円)から2500リンギ(約7万3000円)に倍増。外国人労働者が全体の80%以上も占める農業分野(輸出品第2位のパーム油原材料を生産するパーム農園など)では、現行の590リンギ(約1万6700円)から155%増の1500リンギ(約4万4500円)にまで大きく跳ね上がることになる。

 これにはマレーシア経営者連盟、マレーシア製造業連盟、マレー系商工会議所、マレーシア華人商工会議所、マレーシア・インド商工会議所など、国内主要の経営者、産業団体が強く反対した。その結果、ザヒド副首相が「関係団体と協議する」と発表し、事実上、実施が延期された。

 「ナジブ首相が具体的な実施時期や値上げ幅の再検討を指示した」(政府関係者)とされる。もっとも、「経済の改善を見て、人頭税が値上げされるべき」(マレーシア製造業連盟)と今後、政府と関連産業団体の間で水面下で”妥協線”が引かれ将来的に、段階別に人頭税が値上がる方向性となるだろう。

 資源輸出国であるマレーシアは原油価格下落による収入減に悩まされており、約90億リンギ(約2500億円)もの損失が概算されるなか、その穴を埋めるための財源を外国人労働者への課税強化に求めようというのが、元々のナジブ首相の狙いだった。

 この増税に伴い、当初、歳入40億リンギ(約1090億円)の拡大を予想。ザヒド副首相も「外国労働者の雇用環境が厳格になることを願っており、2020年の先進国入りを目指し、ロボットやバイオテクノロジーなどの高付加価値産業を奨励していく」と息巻くが、電子電気部品製品など輸出分野のトップを占め、GDPの約25%を稼ぎ出す製造業の人材確保が今後、企業にとって困難になるのは必至で、経済全体の成長を引き下げるマイナス要素をもはらんでいる。

 当初、突如とした今回 の人頭税値上げの”異例”の決定を受け、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)も反対し、マレーシア政府に課徴金の据え置きを求めていた経緯がある。

■ 進出する日系企業にも深刻な影響

 マレーシア投資の魅力の1つは、労働集約的な生産拠点としてであるが、多くの日系企業が、2013年の最低賃金の導入、原材料等のコスト拡大、さらには下げ止まらないリンギ安を背景に、人手不足の常態化に悩まされており、マレーシア政府が見据える方向性とギャップが一層、拡大するのは目に見えている。

 さらに、原油価格だけでなく、ナジブ首相の政府系投資会社1MDBがらみの信用不安をいまだに引きずっており(参考1,2,3、4)、通貨リンギ安の進行で、為替差損による実質賃金低下が顕著になっている。

 例えば、マレーシアに最も多くの外国人労働者を供給しているインドネシアの通貨ルピアの場合、以前は100リンギ=約40万ルピアだったのが、約33万ルピアにまで目減りしている。フィリピン・ペソなどでも同様な状況で、「世界一の違法労働者大国が人手不足に陥る危険性も指摘され始めた」(日系製造業界関係者)。

 今回の政府の人頭税に猛烈に反対したマレーシア経営者連盟のシャムスディン常任理事は、製造業界だけでなく「パーム農園などのプランテーションでもすでに人手不足が深刻化している」と話す。

 そのうえで、「これまでインドネシア人労働者に依存してきたが、インドネシアの経済成長に伴い、インドネシアでの人件費が高騰。今では彼らの雇用数も年々、減少傾向にあり、実際の問題は、外国人労働者の問題ではなく、リンギ安で経済がさらに低迷するなか、マレーシア人そのものの雇用ミスマッチに政府がどう真剣に取り組むかにある」とし、政府はむしろ、IT技術導入や自動車業界のようなオートメーション化など、企業に対する優遇政策を積極的に進めるべきだと政府を厳しく批判する。

 実際、外国人メイドを含み、外国人労働者が命綱の製造業、建設業などで就労するインドネシア人、バングラデシュ人、ミャンマー人、ネパール人などが、リンギ建ての本給が母国の通貨換算での目減りが拡大しており、マレーシアを離れ、香港やベトナム、マカオに、脱出するケースが増えてきているという。

 しかし、ザヒド副首相は「マレーシアも日本などのように外国人労働者がいなくても完全雇用でやっていくべきだ」と強気だ。

 一方、マレーシアが見本としたい将来の日本は、逆に、シンガポールやマレーシアのように単純労働者を海外から呼び込もうとしている。

 本来、日本はどうするべきか? 

 外国人メイドの連載の次回は、日本のあるべき姿について、考えてみたい。
末永 恵

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