JATA(日本旅行業協会)は2月1日から2月11日まで、観光庁およびJATA会員の旅行会社25社の協力を得て、大学生を対象としたインターンシップを実施した。土日を除く9日間のプログラムで、旅行業界の現状、課題についての理解を深めると共に、旅行業界への就業意欲を高めて必要な人材を確保していくことを目的としている。JATAが実施するインターンシップは2014年に開始され、今回で3回目。
【この記事に関する別の画像を見る】 首都圏の観光系学部・学科がある大学を中心に、観光関連の学部を持たない大学を加え、13大学から45名が参加した。インターンシップは、集合導入教育をはじめ、業態や規模の異なる2社での職場体験をする独自のカリキュラムで進行する。昨年までは100人規模で行なわれていたが、参加する学生の質を高めるため、募集人数を大幅に絞ったという。また、参加学生の理解度向上や大学側との連携強化のため、指導教員に対して、学生ごとに推薦状の提出、インターンシップの事前・事後指導などを条件として、産学連携による学習効果の向上を図っている。
インターンのスケジュール
・2月1日:国土交通省観光庁観光産業課係長 小俣緑氏、JATA理事・事務局長 越智良典氏、JATA広報室長 矢嶋敏朗氏らにより、観光産業や旅行業全体について理解を深める座学
・2月2日:リードポテンシャル代表取締役 大嶋博子氏によるビジネスマナー研修
・2月3日~5日:インターンシップ1クール
・2月8日~10日:インターンシップ2クール
・2月11日:総括として、グループ討論と発表、実習の振り返りを行なう。
ファシリテーターはユナイテッドツアーズ総務部部長 高橋尚之氏
インターンシップ最終日の2月11日。締めくくりとなる総括のため、学生たちはJATA本部の会議室に集合し、4~5人の11グループに分かれてテーブルに着いた。このグループは、2日目に実施されたビジネスマナー研修のときと同じ組み合わせで、学生たちはすでにお互いを知っているため、朝からインターン先での話が弾んでいた。
進行役はユナイテッドツアーズ総務部部長 高橋尚之氏。総括のテーマを「共有」とし、「JATA会員の1000社以上ある会員のうちインターン先は1人2社、4~5人集まれば、8社の話が共有できる。また、同じ会社でも違う見方がある」と説明した。また、共有した情報や体験したことを「分析」することが、これからの就職活動のなかで活きていくと述べた。
「インターンをシップを通して感じた点」「イメージと合っていた点・違っていた点」など、ステップごとに学生たちはシートに記入、グループで情報を共有し発表するという流れで進行した。インターン先で出会った「すごい人」「すてきな人」を共有する時間に、ある学生が「インターン先で内定者が付き添ってくれたが、人事に言われていないのに、就職活動に必要なことをまとめた手作りの冊子を最後の日にくれた」と発表すると、会場中の学生が感嘆の声を上げた。
最後に、“社長からインバウンド(訪日外国人旅行者)向け新規プロジェクトの提案を依頼された”という想定で、グループごとに企画書を作る課題が出された。学生たちは、自分のアイデアを出したあと、グループのメンバーとアイデアを共有し、最終的な企画書としてまとめて上げていく。タイトル、コンセプト、対象ターゲット、商品・サービスの内容、ポイント・特徴など、A4用紙1枚のシートに簡潔にまとめ、それぞれ発表となった。
中国人富裕層をターゲットにした日本食体験の企画や、アジア圏の若者をターゲットにした日本のポップカルチャーを体験してもらう企画など、短い時間ながらしっかりと考えられた企画が発表された。なかには、ネパールでテレビドラマ「おしん」が人気であることから、ネパールからの観光客を対象とするターゲットを絞った企画を発表するグループもあった。
特徴的だったのは、それぞれのグループが発表している内容を、学生たちが一生懸命にメモしていることだった。ほかのグループの企画が、将来的に企画のヒントとして活かせるようにしているのだろうか、募集人数を絞って意識が高い学生たちを集めた効果がきちんと出ていることを感じた。
JATA事務局長の越智良典氏が登壇し、「興味深く企画を聞かせてもらった。今発表した企画に、市場分析、販売計画を付ければ、ちゃんとした企画書になる。短い時間で企画をまとめる経験は今後役に立つ」と、各グループの企画を評価した。
さらに「営業職を求めるという企業が多い。営業といってもお客様に合わせて企画を提案して買ってもらうという営業。相手のことが分かってないと提案できず、自分の持っている情報や知識がなくても提案できない。お客様のオーダーメイドを作るクリエイティブな仕事」と、営業の仕事について語った。
最後に、最近テレビドラマで話題にもなった“ファーストペンギン”の話となり、「自分も若いとき、よく失敗した。みなさんにもファーストペンギンになってもらいたい」とエールを贈った。
参加した学生に話を聞くと、インターンを経て、旅行業に対する漠然としたイメージから、明確なビジョンを持つように心境が変化した参加者が多かった。桜美林大学リベラルアーツ学群の学生は、「人と関わりたいので、好きな旅行とマッチさせることができればいいと思っていた。人と関わりたいと言っても、漠然としていたが、インターンシップで営業の同行をさせてもらった際、電話やメールではなく、人と直接関わって、相手の表情を見て仕事をしていきたいと分かった。旅行業になるなら営業をやりたい」と語った。
学生を受け入れる企業は事前に割り振られており、「インターン先の企業を選ぶことができず、興味がある企業に行って話を聞きたかった」(早稲田大学商学部学生)という意見がある一方、「法人旅行は視野に入っていなかったが、インターン先が法人向け旅行会社で、その業務形態を知って法人旅行がやりたくなった」(東洋大学国際地域学部国際観光学科学生)という声もあった。この学生は、自分が作った企画を多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたが、商品造成したものを販売する旅行会社に卸す個人旅行と違い、法人向け旅行は自分が作った商品をそのまま営業でき、その声をダイレクトに受けられるということをインターンシップで知ったという。
JATA広報室長の矢嶋敏朗氏は、「企業が、インターンシップといって単なる説明会を行なっていることが多い。いいところだけ聞いて帰るのはインターンシップではない。旅行業界全体が協力して、“いいところ”も“わるいところ”も見てもらい、それを持ち帰って学んでもらえるようにしている。JATAは、旅行業界によい人材が来てくれるよう、時間とコスト、手間をかけてインターンシップを実施している」と、取り組みについて語った。
インターンシップ実施による効果については、「観光系学部でもアカデミックなことばかりで現場を教えていない。また、旅行業に対するイメージがうまく伝わっていないため、進路として選択するのに躊躇している。インターンシップを実施することで一定数の学生には理解してもらえた。何割かは旅行業に入る。やらなかったら、迷ったまま来なかったかもしれない」と手応えを感じたようだ。
今回は、大学の教員の推薦状、事前・事後指導を条件とするなど、学校側との連携を強めた。受け入れ先企業については、受け入れ標準化や評価の体制、カリキュラムの内容など平準化が今後の課題だという。さらに、「高い意識と学校の担保があり、厳しい条件のハードルを越えて、学生たちはインターンシップに参加できます。参加した学生が就職時に、エントリーシートを通す、一次選考を通すといった優遇がされるようになるのが夢ですね」と、理想を語った。
【トラベル Watch,政木 桂】