Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/81c64834cc530243f83bbab77cf71c87ba68485d
● 世界的に広がる 合法大麻ビジネス 日本では非合法薬物として禁止されている大麻だが、世界はいま、「グリーンラッシュ」と呼ばれる「合法大麻」ビジネスが活況を呈している。 【この記事の画像を見る】 合法大麻は使途によって、病気の治療に使用される「医療用」、繊維や建材、食品などに使われる「産業用」、そして「嗜好(しこう)用」に分かれるが、北米や欧州、アフリカ、中南米、アジアなど世界各国はこれらを続々と解禁・合法化し、経済成長しているのである。 このような海外の状況に影響を受けたのか、厚生労働省は今年1月、有識者検討会を立ち上げ、医療用大麻の解禁と大麻使用罪の創設を含めた大麻取締法の改正を検討し始めた。そして6月にこれらを明記した検討会の報告書を発表し、来年の法改正をめざす考えを示した。 はたして日本も、医療用大麻を合法化するのだろうか。
この質問に答える前にまず、医療用大麻をすでに合法化している世界47カ国の中で、日本と地理的にも文化的にも近いアジアの韓国やタイなどの状況を紹介し、アジアの「合法大麻」市場の将来の可能性を探ってみたい。 ● タイでは700以上の診療所が 大麻治療を開始 2019年2月に東南アジアで初めて医療用大麻を合法化したタイでは、医師の処方箋があれば患者は大麻由来の医薬品や乾燥大麻を使用することが可能となった。 タイ国内では現在、758の病院・診療所に医療用大麻を処方する許可が与えられ、約700の大麻業者に生産・加工・販売のライセンスが付与されているが、同時に嗜好目的の乱用を防ぐための対策も行われている。 たとえば、医療用大麻を使用できる条件として、がん、てんかん、糖尿病、緑内障、パーキンソン病、リウマチ、統合失調症、高血圧、PTSD、中毒離脱症状など38の病気・症状を持つ患者に限定し、処方は政府の許可を受けた病院、診療所のみが行うことになっている。 これらはインターネットで検索できるので、患者は最寄りの診療所を見つけて予約することが可能だ。 実はタイでは1934年の麻薬取締法によって禁止されるまで大麻は薬として使われ、伝統代替医療でハーブなどと一緒に大麻の葉が使用されていた。そのため、現在も大麻に親しみを持つ人は少なくなく、紅茶や料理に大麻の葉を入れて写真を撮り、SNSに投稿して盛り上がっている患者もいるという。 タイ政府は医療用大麻ビジネスを経済成長にとって重要と位置づけ、将来的には大麻治療を国内のタイ人だけでなく、外国人観光客も利用できるように「医療用大麻ツーリズム」の準備を進めている。
政府の担当閣僚は、「タイは多くの外国人にとって有名な観光地だが、医療用大麻ツーリズムはもう一つの大きな魅力になるだろう」と話している。 開始まであと数年かかるとされるが、実現されれば日本の患者もタイへ行って治療を受け、病気が治ったり、改善したりという人が出てくるかもしれない。 タイではまた、新規の大麻産業を育成するための試みも行われている。 2019年10月、大麻業界専門のコンサルタント会社「エレベーテッド・エステート(EE)」はバンコクのリゾート地で、国内の大麻企業関係者と海外の大麻専門家や投資家などを招き、大麻ビジネス国際会議「カンナビス(大麻)・エキスポ2019:アジアのグリーンラッシュ」を開催した。 国内の大麻企業関係者にビジネスのノウハウを学んでもらい、同時に海外の企業関係者や投資家にタイでのビジネスチャンスを探ってもらうのが主な目的だという。 EEの創業者兼CEOのチョクワン・キティ・チョパカ氏は、タイが医療用大麻を合法化した意義についてこう話す。 「大麻の医療使用と研究を認める決定をしたことは、以前は違法だった薬物に対するタイ社会の受容と世界的地位の向上に向けた変化を表しています。大麻が“エッセンシャルな経済作物”となり、経済成長を促し、同時に研究・医療・娯楽の面で人々に利益をもたらすことは今やリアルの可能性です」 タイの医療用大麻市場は2024年に200億バーツ(約680億円)規模になると推定されている。
● 東アジアでは韓国が 医療用大麻を合法化 タイとほぼ時を同じくして、韓国も医療用大麻を合法化した。 2018年7月、韓国の食品医薬品安全省(MFDS)は「治療の選択肢を広げるため」として、がん、てんかん、エイズ、多発性硬化症などの患者に大麻由来の医薬品の使用を認める決定をした。そして11月に国会が大麻の医療使用を認める麻薬取締法(NCA)の改正案を可決し、翌19年3月に合法化した。 韓国は大麻由来のてんかん治療薬「エピディオレックス」、多発性硬化症治療薬「サティベックス」、抗がん剤治療の吐き気止めやエイズの消耗症候群の治療薬「マリノール」「セサメット」などを海外から輸入し、患者に提供している。 韓国の合法化はタイと異なり、乾燥大麻の使用を認めていない。また、使用できる医薬品も限られているため、患者の支援団体などから、「もっと幅広い使用を認めてほしい」との要望が出ているという。 しかし、厳しい大麻禁止政策を続けてきた韓国が東アジアで初めて医療用大麻を合法化したのは「画期的」として、世界の合法大麻市場からは驚きをもって受け止められている。 ● フィリピンやマレーシアでも 合法化への動きが加速 タイや韓国で起きたことは他のアジアの国々にも影響を与え、合法化に向けた動きが活発化している。 フィリピンは2019年1月、議会下院がてんかん、多発性硬化症、関節炎などの患者に大麻使用を認める「思いやりのある医療用大麻法(CMCM)」法案を可決した。上院では否決されたものの、その後再提出され、審議は現在も継続されている。元大統領で下院議長も務めたグロリア・アロヨ氏をはじめ有力議員の多くが法案を強く支持しており、合法化される可能性は高いとみられる。
合法化による経済的なメリットも重要視されている。タガログ語と英語が公用語のフィリピンは、カナダや米国など英語圏のサプライチェーン(製品の調達・流通・販売など)と強いつながりを持つため、医療用大麻を合法化すれば国内だけでなく、海外との取引による収益増加が期待できるというのである。 また、マレーシアはアジアの中でも特に厳しい大麻禁止政策をとってきたことで有名だが、実は最近、閣僚が政策見直しを示唆する発言を行った。 2019年6月、ズルキフリ・アフマド保健大臣(当時)が「過去40年間に及ぶ薬物戦争(厳しい薬物禁止政策)は失敗だった」と認め、「薬物の非犯罪化と、医療用大麻の合法化が必要となるだろう」と述べたのである。 マレーシアは2018年にがん患者など数百人に大麻オイルと乾燥大麻を販売した男性に死刑判決が下され、当時のマハティール・モハマド首相が判決の撤回を求めるなど大きな論争を巻き起こした。 皮肉なことにこれをきっかけに大麻犯罪に対する死刑判決の廃止と危険薬物法(DDA)の改正による医療用大麻の合法化を求める声が一気に高まった。その結果、政府関係者や国会議員、イスラム教徒活動家などが大麻解禁についての議論を積極的に行うようになったのである。 医療用大麻の啓発活動などを行っているNPO団体「大麻に関するマレーシア意識向上協会(MASA)」のハリッシュ・クマール代表は、「医療用大麻の合法化は2~5年くらいの間に実現するだろう」と言う。 この他、インド、スリランカ、ネパールなどでも合法化への動きが活発化している。
● 急成長が期待される アジアの医療用大麻市場 国際的な大麻関連業界向けのコンサルティング会社「プロヒビッション・パートナーズ(PP)」は、「アジアの医療用大麻市場は2024年までに58億ドル(約6380億円)になる」と予測している。 その大きな理由とされているのは、アジアで急速に進行している高齢化による医療費増大の問題である。つまり、高齢者特有のさまざまな病気の治療に効果的とされる医療用大麻を合法化することで、各国は医療費を抑制でき、同時に合法大麻市場の成長を期待できるというわけだ。 米国の経済ニュース専門チャンネルのCNBCは、「アジアで勢いを増す医療用大麻市場」(2019年7月14日)と題するリポートのなかで、世界一高い日本の高齢化率や医療費増大の問題について触れ、「日本は医療用大麻の巨大な消費市場になる可能性が高い」と報じた。 もちろん日本が医療用大麻を解禁した場合の話だが、その可能性が高くなってきたことは冒頭でも述べた。 CNBCはまた、約14億の人口を抱える中国についても今後高齢化が急速に進むことが予想され、将来の医療用大麻の巨大市場になる可能性があることを指摘した。 中国はこれまでアヘン戦争のトラウマもあって、精神活性作用のある成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を含む医療用大麻の使用を禁止してきた。 しかし、CNBCの報道によれば、最近、医療用大麻への関心が高まり、政府の支援を受けて研究調査が積極的に行われているという。そして、2018年11月に香港で開催された「カンナビス(大麻)投資家シンポジウム」に中国の投資家が多く参加していたそうだ。 アジアの医療用大麻市場の急成長が期待されるもう一つの理由は、マレーシアのように厳しい大麻禁止政策を進めてきた国がそれを見直し、医療用大麻を合法化するケースが増えると予想されていることである。
● 日本でも厚労省が 医療用大麻の解禁を検討 日本でも厚生労働省が医療用大麻の解禁を含む大麻取締法の改正を検討し始めたことは先述したが、そのきっかけとなったのは2019年4月に行われた参議院の国会質疑である。 そこで、医師でもある秋野公造議員(公明党)が大麻由来のてんかん治療薬「エピディオレックス」の日本での使用の可能性について質問したのに対し、厚労省の担当者が「研究者である医師が厚労大臣の許可を受けて輸入した薬を治験の対象とされる薬物として患者に用いることは可能だ」との見解を示したのである。 イギリスの製薬会社「GWファーマシューティカルズ」によって開発されたエピディオレックスは韓国や米国など世界30カ国以上で承認されている。 日本の大麻取締法は大麻由来の医薬品の使用や輸入、治験を禁止しているため、この治験を行うには法改正が必要となる。このようななかで、せっかく法改正を行うのであれば、医療用大麻の全面的な解禁を検討してほしいという声が患者や医療関係者などから出ている。これまでのところ、厚労省はエピディオレックス以外の医薬品を認めるかどうかについてはっきりさせていない。 先述した韓国ではサティベックスやマリノールなども認めているが、日本はどうするのか。また、医療用大麻を合法化した47カ国の多くが認めている乾燥大麻の使用を認めるのかどうかも焦点となるだろう。 医療用大麻はさまざまな病気の治療に効果的とされているが、患者(あるいは病気)によっては乾燥大麻でないと効果を得られないというケースも少なくない。だから、多くの国で医薬品とともに乾燥大麻も認めているのである。 大麻取締法改正のもう一つの柱は、すでに禁止されている所持や栽培に加え、使用そのものを規制する「使用罪」の創設である。 これについては、「大麻解禁が進む世界の流れに逆行する」「使用罪を加えることで乱用を抑制できるという法的根拠が乏しい」「大麻に対する社会的スティグマを助長する」などの反対意見が多く出ている。 また、仮に使用罪が創設されると、精神活性作用のあるTHC入りの医薬品や乾燥大麻の使用を認めるのが難しくなり、医療用大麻の合法化が限定的になってしまう可能性が高くなる。 厚労省には人々の病気の治療や健康増進に役立つような政策を進めてほしいが、まずは、来年の通常国会に提出される予定の大麻取締法の改正案がどういう中身になるのか、注視していく必要がある。 (ジャーナリスト 矢部 武)
矢部 武
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