Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/a4069acbb9eb5dce849ec3939fd781a9e0d57efd
福岡市に2022年春、市立夜間中学が設置される。夜間中学の「公立空白地帯」だった九州・山口・沖縄では最も早い開設だ。さまざまな事情で義務教育を十分に受けられなかった人たちの「学びの場」誕生を関係者は歓迎するが、他の地域ではなかなか設置が進んでいない。 福岡市教育委員会は今年4~5月、市のホームページなどで夜間中学のニーズ調査を実施。196人から通学の希望が寄せられ、このうち163人が10~40代だった。市教委教育政策課の平川陽一郎課長は「一定のニーズがあると分かったので最短のスケジュールで設置したい」と話す。40人程度が実際に入学すると想定。設置に向けた市教委施設の改修など関連予算約3300万円が13日の市議会で可決された。 「まずは作ることが大切。一歩前進だ」。義務教育を履修できなかった人たちの学習をボランティアで支援する自主夜間中学「よみかき教室」(福岡市)の共同代表で、元中学教諭の大塚正純(まさずみ)さん(68)は話す。有志の教職員で教室を始めたのは1997年。現在は博多区の市立中学を使い週2回、10~80代の約30人が学んでいる。戦後の混乱期に勉強の機会を得られなかった高齢者や不登校の生徒、外国籍の若者など、利用者はさまざまだ。 昨夏から教室に通うネパール出身の20代男性は、仕事を求めて父親や親戚を頼り来日した。「あめがふっていました」「としょかんがやすんでいました」。市内の飲食店で働く傍ら通う教室では、自分で探したドリルを教材に発音や書き取りを繰り返す。母国では日本の義務教育に相当する教育を十分受けておらず、大塚さんから夜間中学の話を聞くと通学を希望した。 中学時代に不登校を経験した男性(24)は、3年前から教室を利用し、現在は大学進学を目指し定時制高校でも学んでおり「人生を立て直したいと思った時、よみかき教室に受け入れてもらい、人間的にも成長できた」と感謝する。周囲にも不登校経験者は多く「公立の夜間中学があれば通いやすいと思う」と話した。 公立夜間中学の課程を終えれば中学卒業資格が得られる他、自主では限りがある授業内容も広がる。17年に公立夜間中設置を求める9700人あまりの署名を添え、市議会に請願した大塚さんは夜間中学を「暗い海にある灯火(ともしび)のような存在」と表現する。その上で「社会で生きていくための切実な願いに応えられるよう、我々のような団体と知恵を出し合って運営していくことが大切だと思う」と話した。【土田暁彦】 ◇菅首相「今後5年間で全ての都道府県・指定都市に」 公立夜間中学を巡っては、設置を促す教育機会確保法が2016年に成立。菅義偉首相は21年1月の衆院予算委員会で「今後5年間で全ての都道府県・指定都市(政令市)に少なくとも一つの設置を目指す」と表明した。 文部科学省によると、公立夜間中学は12都府県に36校(21年4月現在)あるが、多くは東京や大阪に集中し、九州・山口・沖縄はゼロ。福岡市以外に設置方針を表明しているのは、長崎県と福岡県大牟田市にとどまる。長崎県は早ければ23年度の設置を目指し場所などを市町と協議中。大牟田市は19年11月に「21年度以降に開校」と表明したが、新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、20年に実施予定だったニーズ調査を今月始めた。 全国には40程度ある民間の自主夜間中学も福岡、沖縄両県にあるだけで、福岡大の添田祥史准教授(成人基礎教育)は「自主夜間中学がない地域では、公立をイメージしにくいのではないか」と設置が進まない理由を推測する。ただ、10年国勢調査によると未就学者(在学したことがない、または小学校中退者)は約12万8000人いる他、不登校の若者への対応も課題になっている。添田准教授は「未設置は行政の責務を果たしていない。学びたいと思いながら人生を終えた人の思いを想像し、若者への対応など課題を再認識してほしい」と話した。【土田暁彦】 ◇公立夜間中学(中学校夜間学級) 法令で「二部授業」と位置付けられ、戦後の混乱で昼間に通学できない学齢期の子どものために設置されたのが始まり。近年は不登校の生徒や外国籍の人の増加もありニーズが高まっている。通常の中学と同様に授業料や教科書は無償、全9教科を教え週5日、原則3年間通う。授業以外に運動会などもある。
0 件のコメント:
コメントを投稿