Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b0406f2855bed3b6409684c94e644664c530ec12
8月にオープンしたエスニック食材店
2021年8月18日(水)、新大久保の「イスラム横丁」と呼ばれる一角にオープンしたパキスタン系のエスニック食材店「ナショナルマート」(新宿区百人町)が、早くも大人気となっています。外国人だけでなく、日本人のお客もおおぜい訪れ、現地のスパイスや調味料などを手に取っています。 【画像】8月にオープンした「ナショナルマート」 「日本人の女性おひとりでも、気軽に入れる店にしたいと思っているんです」 と話すのは、ナショナルマートを運営する和新トレーディングの取締役、味庵(みあん)・ラムザン・シディークさん。日本に帰化したパキスタン出身の男性です。 確かに店は清潔で入りやすく、日本語の表記も充実しています。 この近辺のエスニック食材店はごちゃごちゃした店構えで、南アジア系のひげ面のおじさんたちがたむろしており、それがローカル感を醸し出していて楽しいのですが、そんなアジア的な空気に慣れていない日本人のなかには気後れする人がいたのも確かでした。それに比べると、ナショナルマートは女性のスタッフもいるし明るくて広々としています。 そしてひときわ目を引くのはファストフードのコーナー。パキスタン風のピザやバーガー、ビリヤニ、ダルチャワル(豆カレーごはん)などの軽食やスナックが売られています。 テイクアウトでも、その場で食べることもできますが、これは新大久保に数あるエスニック食材店でも珍しい業態です。ファルーダという南アジアスタイルのパフェもあって、こちらも好評。
パキスタン、インドのスイーツが大人気
そして多くの日本人女子のお目当ては、ショーケースにずらりと並んだパキスタンやインドのスイーツ。 ナッツとドライフルーツをたっぷり使ったラドゥー、小麦粉と砂糖とミルクでつくった生地を揚げて甘いシロップに漬け込んだグラブジャムン、カッテージチーズからつくったチャムチャムなど、カラフルでかわいらしいお菓子がたくさん。どれもおいしく、そして危険な甘さですが、 「ブラックコーヒーと本当によく合いますよ」 と味庵さん。 ほかにもパキスタン直輸入で濃厚な甘さのマンゴーや、自社ブランドのタンドリーチキンやバーガーのパテなど、ほかにはない商品がいろいろあります。ハラル(イスラム教の戒律で食べることを許された食品)の食パンもこちらで製造したもので、これは週末になるとイスラム教徒の人々に飛ぶように売れるのだとか。 滑り出し順調といった様子のナショナルマートですが、近隣は同じようなエスニック食材店の超激戦区。狭いエリアに20軒を超える ・ネパール ・インド ・パキスタン ・バングラデシュ の食材店、ハラルショップがひしめく場所です。新大久保はいまやそんな街でもあります。 ナショナルマートのオープン翌週にも、また違うエスニック食材店がオープンしているのです。どうしてパイの奪い合いにもなりそうなこの場所に、あえて出店したのでしょうか。
卸会社がマーケティングのために実施
「新大久保にはね、勉強のために来たんですよ」 味庵さんはそう言います。 和新トレーディングはエスニック食材店や、それにインド・パキスタン料理レストラン「シディーク」なども手がけていますが、もともとは問屋。パキスタンからスパイスやマンゴー、お茶、ジュースなどを輸入して、エスニック食材店に卸しています。 「新大久保でこういう店をつくって、何が売れるのか、どんな商品が人気なのか、リサーチして貿易に生かしていきたいんです」 いわばマーケティングの一環。エスニック食材店が密集し、日本在住の外国人も、スパイスや異国の味に興味がある日本人も集まってくる新大久保にナショナルマートという窓口を開き、そこでトレンドを見極めて、輸入業の一助にしていこうという考えなのです。 実際、新大久保に集まっているほかの食材店も、店単体で商売しているというよりは、やはり卸も兼ねているところが多いようです。小売りをすることで世の需要をうまくキャッチする目的があるのです。 「それに新大久保はいまでは、イスラム教の国やアジアの国の大使館関係者が買い出しに来る街でもあります。大使自らやってくる国もあるくらいなんです」 確かにイスラム横丁のあたりでは、ときどき青い外交官ナンバーをつけた高級車を見ます。当然、店を構えていれば彼らVIPとつながりも生まれるし、ビジネストークの機会にも事欠かないというわけです。
エスニック食材の見本市となった新大久保
イスラム横丁には1980年代から、エスニック食材店がちらほらと現れるようになったそうです。その一角にミャンマー系のイスラム教徒がモスクをつくったことで、イスラム教徒が集まる場所になったと言います(諸説あり)。 急増するのは2000年代に入ってからで、特にこの5年ほどで一気に「アジアローカル度」が増しました。 お客は首都圏の広いエリアに住む南アジア、イスラム系の外国人、日本人や外国人のレストラン関係者、それにやはり市場調査にやってきた外国人の商売人もいるし、昨今のスパイスカレーブームで一般の日本人も急増、それをコロナ禍の「おうちごはん」の風潮も、食材店ビジネスを後押しします。 こうしてたくさんの人が行きかうようになれば、味庵さんのような「戦略の場」としても機能するようになるわけです。 「いま1500くらいの商品がありますが、まだまだ足りないと思っています。女性の着る民族衣装もいまはわずかなスペースしかありませんが、もっと広げたい。パキスタンのローカルフードも増やして、日本人にも知ってもらいたいですしね。新しいことをやるのが好きなんですよ」 という味庵さんのナショナルマート、今後、新大久保の中心的な店になっていきそうです。
室橋裕和(アジア専門ライター)
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