Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0057394c66ef022484870c774c43acfb52b218c0
配信、ヤフーニュースより
外傷性の脊髄損傷(脊損)の原因で最も多いのは平地で転ぶ「平地転倒」で、38.6%を占めていることが、日本脊髄障害医学会(島田洋一理事長)の全国調査で明らかになった。2位は転落、3位は交通事故。1990~92年の前回調査では交通事故、転落、平地 の順で、データを解析した秋田大大学院医学系研究科の宮腰尚久准教授(整形外科)は「平地転倒の多くは高齢者であり、順位の入れ替わりは高齢化の影響と言える。高齢者の転倒予防対策が脊髄損傷予防の大きな課題だ」と話している。 ▽100万人当たり49人 調査は同医学会の脊損予防委員会(委員長・須田浩太北海道せき損センター副院長)が2019年、全国3771の2次、3次救急施設に調査票を送り、2018年の1年間に急性期入院治療を行った外傷性脊損の患者について、年齢や受傷原因、まひの程度などについて質問。2804施設(74.4%)から4603人分の回答があった。 脊損患者のほとんどはこれらの救急施設に搬送されていることから、回答率、回答数を基に脊損の発生率は人口100万人当たり年に49人と推定した(日本の人口に単純に当てはめると年約6000人)。前回調査の同39~41人より増えた。受傷時の平均年齢は66.5歳、ピーク年齢は70代で、前回の平均48.6歳、ピークは59歳と20歳の「二峰」より高齢化していた。男性は女性の約3倍だった。 ▽10代はスポーツ原因 受傷原因は多い順に、平地転倒(38.6%)、転落(23.9%=3メートル以上の高所から10.2%、低所から13.7%)、交通事故(20.1%)。前回は交通事故(43.7%)、転落(28.9%)、平地転倒(12.9%)で、交通事故の割合が半減する一方、平地転倒が3倍になった。年代別に見ると、10代はスポーツ、9歳以下と20~40代は交通事故が多く、50代は交通事故と平地転倒がほぼ同じ、60代以上は平地転倒が最も多かった。スポーツが原因の受傷の内訳では、スキーが11.9%で最多だった。 損傷部位は首の頸髄が88.1%と圧倒的に多く、胸髄・腰髄が10.1%。まひの程度を示すフランケル分類では「D:歩行可能あるいはできそうである」(46.3%)、「C:歩行不能あるいはできそうにない」(33.0%)、「A:損傷部以下の運動及び知覚の完全まひ・消失」(11.0%)、「B:運動は完全まひだが何らかの感覚が残存している」(9.7%)だった。損傷部位とまひの程度の間には関連性がみられ、高齢者は平地転倒による比較的軽症な頸髄損傷、若い世代では高所からの転落で完全まひとなりやすい胸髄・腰髄損傷が多い傾向があったという。 ▽骨折なくても損傷 須田さんによると、脊損の原因は国や地域、社会情勢によって異なり、オートバイが主要な交通機関であるベトナムでは交通事故が多く、ネパールでは山岳での転落、高齢化が進み交通インフラが整った先進国では平地転倒が目立つ。26年ぶりの全国調査は「時代の流れで、日本も原因が変わっているはず」という予測に加え、2020東京パラリンピックの開催決定もきっかけになった。調査結果は予想通り、他の先進国同様に平地転倒がトップとなった。 高齢者は一般に、骨がもろく周囲の筋肉も弱っているため骨折しやすい。だが、今回の調査では骨折しなくても脊損が生じる「非骨傷性頸髄損傷」が多いことも分かった。その原因について宮腰さんは、日本人はもともと脊髄が通る脊柱管が狭いことが影響している、と説明する。「脊柱管は加齢による変性でさらに狭くなり、この状態で転倒によって軽微な外傷が加わると、骨折しなくても頸髄がダメージを受けてまひを生じると考えられている」というわけだ。 ▽啓発で受傷防止を 調査結果から啓発活動の有効性も確認できた。前回調査では、水泳の飛び込みによる脊損がスポーツを原因とする脊損の21.6%を占めていたが、今回は4.4%に激減した。前回調査を踏まえ「医学会が中心になって飛び込みによる受傷防止のキャンペーンを全国の学校に広めた成果」(宮腰さん)だった。 調査結果全般について、宮腰さんは「バランス訓練や筋力訓練により、高齢者の転倒が減ったという研究もある。運動療法だけでなく、転倒しにくい生活環境の整備、つえや歩行器の使用など、多様な転倒予防対策が必要だ」と指摘。須田さんも「一度損傷した神経を元通りにするのは難しいのに対し、予防は誰にでもできる。不幸になる人を減らすためにも、高齢者にけがをさせない啓発活動を進めたい」と話している。 【脊髄損傷】脊髄は首の骨や背骨の中を通る神経の束で、頭に近い方から頸髄、胸髄、腰髄。年間約5千人が新たに脊髄損傷となっている。初期治療とリハビリで一定程度は回復するが、重症の場合は手足が動かせず感覚もない状態になる。再生医療への期待が高まっている。
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