千葉市が検討している夜間中学の設置に逆風が吹いている。生徒となる外国人労働者の受け入れ拡大に伴い国は設置を進める方針を出したのに対し、コロナ禍で入国制限がされているためだ。市内には民間の自主夜間中学があるが、運営者は「役割が違い、双方が必要」と訴える。

 「そこは『に』でなく、『が』かな」。10月上旬の千葉市美浜区の高洲コミュニティセンター。「ちば自主夜間中学」の教室で、ネパール出身の男性が小学生向けの教材で助詞の使い方を学んでいた。

 同中学は毎週木曜日の夜に開かれている。貧困などで学校に行けなかった人や不登校の子ども、日本語がまだ十分にできない外国人など約60人が学習者として登録。うち半分が中国などからの外国人だ。

 指導役は約50人のボランティア。元教師や語学に強い元サラリーマンもいるが、外国人の多くは日本語で意思疎通が可能なので、日本語教師などの資格はなくても指導はできるという。運営する「ちば夜間中学をつくる会」の竹内悦子代表は「それぞれの学習目的や希望、ペースに沿った指導ができるのが強みです」と話す。

 自主夜間中学は民間で運営され、原則公的な支援はない。これに対し夜間中学は15歳以上で義務教育の未修了者や外国人などを対象に、中学校と同様の教育を提供する。文部科学省は2016年に成立した教育機会確保法に基づき、公立の夜間中学を全都道府県・指定市への設置を求めている。県内には現在、松戸市市川市が設置している。

 背景の一つにあるのが外国人材の受け入れ拡大だ。国は昨年4月、新たな在留資格「特定技能」を創設。外国人労働者の受け入れを広げた。新制度で来日する外国人は一定の語学力が求められているが、国内での学びの場として夜間中学の活用が期待されている。

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大で環境は激変している。訪日外国人客は昨年には3188万人いたが、今年4~8月はいずれも前年同月比で99%以上減った。国は初年度の特定技能の受け入れ件数を4万7千人と見込んでいたが、今年6月末時点で6千人に届いていない。

 千葉市教育委員会は8~9月、市内に夜間中学が必要か検討するためのアンケートを実施、現在集計中だ。「需要見込みやアンケート結果に基づいて、年度内にも一定の方向性を出したい」と話す。

 つくる会の竹内代表は「自主夜間中学は教育に加え、地域社会との融合の場という意味合いも大きい。松戸市で自主夜間中学と夜間中学が併存しているように、役割は大きく違う。夜間中学が必要な人がいる以上、別に設置をするべきだ」と話す。

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 昨秋から「ちば自主夜間中学」に通うレ・クアン・ダットさん(27)は、母国ベトナムで交通運輸の大学を卒業後、独学で日本語を勉強。日本の土木設計会社への就職を決め、2018年1月に来日した。「母国と日本を結ぶ仕事をしたい」という思いからだったが、現実は厳しかった。

 最初の会社は希望の設計業務とは違い、現場での仕事が中心。友人の紹介で入社した今の会社も周囲は中国出身者ばかりで、言葉を含めた日本社会を学ぶ夢とはかけ離れていた。そんなときに、自主夜間中学のことを知った。

 日本語能力試験の勉強に加え、10月には千葉市国際交流協会が開く日本語交流会でのスピーチに挑戦。日本の空港や橋といった施設に加え、母国にない日本の交通システムについて自身の思いを訴えた。スピーチ文や発音は自主夜間中学で添削、指導を受けた。

 「みなさんすごく優しいし熱心。新型コロナで休止になっていたとき(2月末~7月中旬)は、とてもつらかった」。千葉市が夜間中学を設ければ、そちらにも通学を希望するという。

 千葉市近郊の自治体に住む1級建築士の男性(77)は、大学まで進学したにもかかわらず、昨年から自主夜間中学に通っている。家は貧しく、伐採した木の運搬の仕事を手伝うようになると、学校に行かない日が増えた。東京の建設現場で働きながら高校に通い、先生の勧めで夜間大学にも行ったが、小中学校時代に勉強しなかった後悔がずっと残っていた。

 「専門技術は身につけ、自分の会社を持つことはできても、学ぶべきだったことを学ばずにきたことは格好悪いですから」(重政紀元)

 千葉市教委は14日、公立夜間中学体験セミナーを市生涯学習センター(同市中央区弁天3丁目)で開く。夜間中学のニーズ把握が目的で、入学を希望する人たちの参加を呼び掛けている。

 当日は、模擬授業の体験のほか、2019年度に夜間中学を開設した松戸市立第一中学みらい分校の教員による講演もある。時間は午後2時~3時半。問い合わせは千葉市教委企画課(043・245・5907)へ。