2020年3月25日水曜日

「改竄できない」スマホ決済 ネパール、日本のベンチャーに白羽の矢

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200323-00000501-san-bus_all
3/23(月) 7:10配信、ヤフーニュースより
産経新聞
 世界最高峰のエベレスト(8848メートル)などヒマラヤ山脈で有名な山岳国ネパールが、国を挙げてキャッシュレス決済の普及に乗り出した。そのプロジェクトに、金融とITの融合「フィンテック」を手掛ける日本のベンチャー企業が主体的に手を貸していることはほとんど知られていない。なぜ、日本の一ベンチャー企業が海外の国家プロジェクトにかかわれたのか-。

【図でみる】ブロックチェーンとEXCの違い

 ■脱最貧国

 ネパールは人口1人当たりの国内総生産(GDP)が1034ドル(約11万円、2018年)で、国際通貨基金(IMF)加盟189カ国・地域の中で166位と最貧国の一つだ。

 国内に約170の金融機関があるが、強盗事件が多いことやヒマラヤ山脈を抱えて国土の高低差が大きいことから、防犯体制や現金輸送などに多額のコストがかかるATM(現金自動預払機)の普及は進んでおらず、国民の約4割は銀行口座を持っていない。

 金融インフラが未発達なため観光業、農業を除く国内産業は育っておらず、最貧国から抜け出せない。その一方、携帯電話の普及率は100%を超え、「1人1台以上」ある。全人口約2800万人の6割はインターネットを利用する。

 産業発展と生活水準向上の必要性を痛感していたネパール政府は、ここに目を付けた。ネパール政府・中央銀行が19年、スマートフォン決済を柱とする新しい金融インフラの構築に力を貸してほしいと声を掛けたのは、日本のフィンテックベンチャーであるGVE(東京都中央区)だった。

 ■著名投資家

 ネパールの未来を占う国家プロジェクトの“設計者”として、なぜ、グローバル企業ではなく、日本のベンチャー企業に白羽の矢が立ったのか。

 実は、同社の房広治代表(60)は、欧米など主要金融市場で名をとどろかせた知る人ぞ知る著名投資家だ。

 房氏は英オックスフォード大留学中に投資銀行に就職。日本人初のM&A(企業の合併・買収)アドバイザーとして活躍したほか、欧大手投資銀行の日本法人代表も務めた金融マンだ。

 04年に独立し、自らファンドを立ち上げて巨額資金を運用していた。

 転機は12年。友人であるミャンマーの指導者、アウン・サン・スー・チー氏が長年の自宅軟禁や刑務所から解放され、27年ぶりに再会。その際、スー・チー氏から「ミャンマーの経済改革を支援してほしい」と頼まれたのだ。

 房氏とスー・チー氏の付き合いは、房氏のオックスフォード大留学時代にさかのぼる。房氏は当時、スー・チー氏の自宅に下宿し、交流を続けてきた。

 ミャンマーから依頼された国家プロジェクトの一つが、国が発行する「デジタル通貨」の開発だった。ミャンマーは銀行口座の保有率が10%未満とネパールより低い一方、スマホ保有率は人口の7割に達しており、「スマホを活用したデジタル口座を国民一人一人に与えたい」というのがスー・チー氏の願いだった。

 ■ブロックチェーンの安全性に疑問符

 房氏はもともと、ITへの造詣が深かったが、中銀が運営するデジタル通貨は、不正アクセスで個人情報が盗まれたり、デジタル通貨が抜き取られたりする事態をなくし、「100%安全でなければならない」と考えた。

 暗号資産(仮想通貨)の取引には、データ改竄(かいざん)が事実上不可能とされる先端技術「ブロックチェーン(BC)」が主に使われている。米フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ」や、中国が発行を目指す「デジタル人民元」もBCが使われる見込みだ。

 BCは、ネット上で複数の取引記録を共有し、互いに監視し合いながら正しい記録を鎖(チェーン)のようにつないで管理するため、理論上はデータ改竄されにくいはずだった。

 だが、18年に日本発祥の仮想通貨「モナコイン」の取引記録がサイバー攻撃ですり替えられ、海外の交換業者に損失が出る事件が発生。BCは仕組み上、一時的に2本のチェーンが併存することがあり、より長いチェーンを正当とみなすのがルールだ。攻撃者はこれを悪用。水面下でブロックを大量につなぎ、一定の長さになった時点で既存のチェーンにつなげた。攻撃者にとって都合の良い取引記録を記したチェーンを正当なものと交換業者に思い込ませ、モナコインをだまし取ったとみられる。

 さらに、19年秋には、米グーグルが次世代の超高速計算機と期待される量子コンピューターの性能について、スーパーコンピューターが1万年かかる計算を200秒で完了したと発表し、BCの暗号が簡単に解読されてしまうとの見方が浮上した。

 ■EXCのメリット

 房氏は、日本の電子マネー「Suica(スイカ)」の基盤技術になっている非接触型ICカード技術「Felica(フェリカ)」を開発した元ソニーの技術者、日下部進氏に協力を求めた。房氏が、中高校、大学の先輩である日下部氏を頼ったのは、「フェリカは実用化して20年以上たつが、ハッキングなどで大きな被害を受けていないから」だったという。

 そして、スマホを使ったキャッシュレス決済やデジタル通貨の基盤となる安全性の高い技術「EXC」を完成させた。

 EXCによる決済は、BCと異なり、中銀がネットワーク上のサーバーの役割を果たす。中銀と民間銀行▽民間銀行と顧客▽民間銀行とクレジットカード会社-など取引ごとに同一のプログラムを導入する手法のため、中銀が一括管理する手間を省略でき、コストも抑えられる。

 さらに、3つのデータベースでセキュリティー上の安全性を実現した。具体的には、(1)どの口座にいつお金が入り、出ていったかを記帳する「アカウントデータベース」(2)取引を時系列順に番号を振りながら記帳する「取引データベース」(3)マネーロンダリング(資金洗浄)対策のために、デジタル通貨にも紙幣のような通し番号をつけて追跡可能にする「コインデータベース」-だ。

 房氏は「量子コンピューターでも3つのデータベースの暗号を同時に解読して書き換えるのは不可能だ。BCより安全性が高い」と胸を張る。

 GVEはEXCの特許を申請し、18年に日本で成立。欧米などでも国際出願している。

 ただ、ミャンマーはイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題などで混乱していたこともあり、プロジェクトは立ち消えに。

 その後、ネパールからEXCを使ったキャッシュレス決済の相談が舞い込んだのだ。国際協力機構(JICA)も資金を提供する。

 ネパール政府とGVEは22年の事業開始を目指す。決済をデジタル化できれば、デジタル通貨導入の議論も後押ししそうだ。

 房氏はこう意気込んだ。

 「新型コロナウイルス感染拡大で多くの人が触れた現金を使いたくないという声は多く、キャッシュレス決済やデジタル通貨化の議論は深まるはずだ。EXCは遠隔治療の電子カルテにも応用できる」(経済本部 藤原章裕)

0 件のコメント:

コメントを投稿