2018年12月18日火曜日

日本語学校の教育の質の担保を

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181215-00010000-wedge-soci
12/15(土)、ヤフーニュースより
 外国人留学生が日本で高等教育を受け、将来企業で活躍するためには、日本語能力の習得が欠かせない。留学生雇用に関する企業調査でも、日本語能力が留学生に求める資質の上位に挙げられることが多い。彼らの日本語能力の基礎を養成する役割を担っているのは日本語学校である。しかし、非漢字圏からの留学生の急増にもかかわらず、日本語学校の教育の質をチェックする仕組みが不十分であるため、様々な問題が生じている。

 日本学生支援機構によれば、2017年に日本語学校で学ぶ留学生は7万8000人に上り、留学生全体の3割を占める。12年から17年にかけて、留学生数が1・6倍に伸びる中、日本語学校で学ぶ留学生は3・3倍に増加した。その背景にあるのが非漢字圏からの留学生の急増で、日本語学校では6割を占める。ベトナム人留学生は15・1倍、ネパール人留学生は5・8倍に増加している。
 非漢字圏からの留学生は、中国、韓国などの漢字圏出身者に比べ、高等教育を受けるのに必要な日本語能力の習得に時間がかかることも、日本語学校での在籍率の高さにつながっている(能力や学習頻度にもよるが、漢字圏出身者は約1年、非漢字圏出身者は約2年といわれる。なお、日本語学校の在籍上限は2年間)。
 このような非漢字圏出身学生の急増は、日本語教育の現場に混乱をもたらしている。日本語教育学会元副会長の嶋田和子氏は、現場の日本語教師から「日本語の習得が遅く、初級を繰り返し学習する学生が増加した。初級が終わっても会話ができない学生が多い」「漢字に対して苦手意識を持つ学生が多い」といった非漢字圏出身者特有の学習課題に加え、「学習意欲が低い上、受け身の姿勢の学生が多い。そもそも目的意識の低い学生が多く、進路相談で苦労する」「出席率のためだけに通学している学習者や、脱力感の漂う学習者もいる」といった、学生の動機や学習態度に関する問題を指摘する声があると述べている。

 この背景には、アジアの中でも所得水準が低いベトナム、ネパールなどからの留学生の多くが、留学費用を借金して渡日し、その返済や生活費捻出のため、日本語学校で学ぶ間も、アルバイトに追われているという現状がある。
日本語話せぬ日本語学校卒業生
 このような状況は、日本語学校を「卒業」しても、日本語が十分話せない学生の出現につながっている。筆者が面談したあるベトナム人留学生は、ベトナムと日本の日本語学校で1年ずつ日本語を学び、専門学校に1年以上在籍しているにもかかわらず、日本語がたどたどしく、友人の助けなしには意思疎通が行えなかった。

 日本学生支援機構の私費留学生生活実態調査に基づき、日本語で授業を理解するのに必要とされる日本語能力(日本語能力試験N2以上/BJTビジネス日本語能力テストJ2以上)を有する学生の割合を調べると、非漢字圏出身者では、大学(学部)で学ぶ者の68%、専門学校で学ぶ者の43%にすぎないことが判明した。

 ある日本語学校教員は、「某専門学校の進学説明会では、日本語は一切使わず、外国語での説明のみ。アルバイトがしやすい環境であるというアピールが中心で、学習についての言及はほぼない」と話す。無試験で入学できる専門学校が多く存在し、一部の大学でも同様であるという。留学生はSNSなどで、一部進学先に日本語が必要ないことを先輩から聞いており、勉強しなくても問題ないと考え、学習意欲が低い者も少なくない。このような現状から、「日本語学校は日本語を教えるところではなく、ビザを売るところだ」と自嘲する日本語教師もいる。

 留学生の増加に伴い、日本語教師が不足する事態にもなっている。文化庁の調査では、法務省告示校(入学者に留学ビザが申請できる学校)における日本語教師の67%は非常勤である。彼らの報酬は45分授業について2000円前後にすぎず、優秀な人ほどすぐに辞め、他の業界に移ってしまう状況にあるという。

 10年に449校だった日本語学校(法務省告示校)は、18年8月時点で711校に増加した。うち298校が加盟する日本語教育振興協会では、加盟校の58%が株式会社・有限会社で、学校法人・準学校法人は28%にすぎない。株式会社が運営する日本語学校の中には、人材派遣業(学生をアルバイト先に派遣して紹介料)、不動産業(学生を保有アパートに住まわせ家賃収入)との兼業により、二重三重の利益を得ているケースもある。

 日本語学校に学校法人が少ないのは、学校教育法に専門学校について「我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く」という規定があることも一因だ。学校法人として認められない状態では、安定性、永続性、公共性という教育に必要な要件が十分に担保されない、と指摘する日本語学校関係者もいる。
上の図は、海外から日本に留学するルートと、日本語教育に関わる省庁を示している。日本学生支援機構の私費留学生生活実態調査に基づく推計では、日本語学校(法務省告示校)を経由して高等教育機関(専門学校含む)に進学する留学生の割合は6割に上り、日本の留学生受け入れ政策の重要な部分を担っている。

 国内の日本語学校(告示校、専門学校の日本語コースを含む)の所管は、法務省入国管理局であり、設立時に文部科学省の協力を得て告示校としての適格性を審査するが、その後は、学生の中途離脱率、不法残留率のチェックが中心で、教育の質を十分にモニターしていない。卒業時の日本語能力の確認も義務付けられていないため、無試験で進学できる先があれば、日本語能力を身につけないまま卒業するケースも出ている。また、N2以上の日本語能力を求める選別性の高い大学には、希望しても入学できない、という事態が生じている。

 日本語教育にかかる行政は、海外では外務省所管の国際交流基金が日本語教育の普及や日本語教師の養成を担当し、国内では、法務省が告示校を一義的に所管する他、日本語教育の促進や日本語教師養成を文化庁が、大学の留学生別科(大学入学前の日本語教育を実施、届出制)を文部科学省が担当し、所管省庁が細切れに分かれてしまっている。
教育の質を担保する制度設計を
 このような状態を改善するためには、日本語学校の教育機関としての位置付けを明確にし、大学のように、国が認証する評価機関によって、教育の質や実施体制を定期的に評価・点検する制度の導入が必要である。また、学生の卒業時の日本語能力など、教育成果の公表を義務付け、良い学校が評価され、悪い学校が淘汰(とうた)される仕組み作りを検討すべきである。教育の成果を競うようになれば、能力の高い日本語教師を、よりよい待遇で確保しようとする動きも加速するだろう。

 2年間の学習で日本語能力がN2レベルに達しない非漢字圏出身者が少なくない現状に鑑み、その原因が、本人の学習態度、言語習得能力、学校の教育体制のいずれにあるのかを解明するとともに、海外と国内の日本語学校が連携した形で、来日前からの日本語学習や適格者の選抜を促進する必要がある。

 先日、「改正出入国管理法」が成立し、来年4月から「特定技能」の在留資格での労働者の受け入れが始まる。新制度の下での2国間協定に基づく送り出し国として、ベトナムやミャンマーなどの名が挙がり、留学生同様、非漢字圏出身者が多数を占めると予測される。特に介護、宿泊など、高い日本語能力が求められる職種では、来日後も日本語学習の継続が必要となると見込まれ、日本語学校の役割はますます重要となる。教育の質を担保する制度設計は喫緊の課題である。
佐藤由利子 (東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系准教授)

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