Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/cea57c6814a4d2382f69050db401a953d9269d75
勝者以上に、これほどのインパクトを残す“グッドルーザー”は珍しい。「倒れそう、でも倒れない」と実況が絶叫した壮絶な打ち合いの結末は、カットに伴う多量の出血によるドクターストップ。レフェリーが両手を広げ、ゴングを要求した瞬間、倒れそうで倒れなかった男がついにリングに大の字になって倒れ、天井を仰いだ。その顔は無念をかみ殺すかのように歪み、左眉からは鮮血が滴っていた。 【映像】無念…“流血”大の字 決着 12月13日に両国国技館で開催された「K-1 WORLD GP 2020 JAPAN~K-1冬の大一番~」。ここまで9連続KOと“KO街道”を驀進する木村“フィリップ”ミノルとアビラル・ヒマラヤン・チーター(ネパール)の一戦は、壮絶な打ち合いの末に2ラウンド2分50秒、木村の強打によって眉上をカットしたアビラルがドクターストップによるTKO負けを喫した。一方の木村は連続KO記録を二桁の「10」に乗せた。 木村の強さもさることながら、この一戦でひと際ファンの注目を集めているのが、敗れたアビラルの“グッドルーザー”ぶりだ。1ラウンドには木村からダウンを奪うサプライズを見せた。その後は一転して木村の猛打に晒され、2つのダウンを奪い返されるも、心は決して折れず、木村に向かっていく不屈の精神力に視聴者の盛り上がりは最高潮に達した。 若干21歳のアビラルは、ネパールの傭兵部隊グルカ兵の血を引き、父親はK-1に参戦経験もあるデーブ・クマール・ギミーレ。17歳のときに来日し、所属する志村道場が主催する愛知県のキック大会「HEAT」で今年、ミドル級王者になったばかり。試合前には、ローカル・チャンプとK-1王者という構図の一戦に「噛ませ犬」という心無い声も聞かれていた。 しかし、試合開始とともに大方の予想は覆ることに。ABEMAでゲスト解説を務めた魔裟斗はゴングが鳴ると同時に「木村は慎重に行った方がいいですよ。行きすぎない方がいい。右の打ち下ろしとヒザに注意です」と指摘したが、そんな魔裟斗の言葉が早くも現実のものとなる。
1ラウンド、ボディやガードの上から猛攻を仕掛ける木村だが、アビラルはひるむ様子なく前に出る。すると、185センチの長身から打ち下ろす右フックを被弾した木村の顔が一瞬顔、歪んだ。そこにすかさず右ストレートを打ち込んで木村からダウン奪ってみせた。ダウンした木村を上から仁王立ちで見下ろすアビラル。一方、腰をおろし、早々のダウンに驚いた様子で相手を見上げる木村。両者の様子は対照的だ。 しかし、ダウン後の木村のリカバリーもさすがだ。再開後、アビラルのヒザにカウンターでフックを合わせてダウンを取り返すと、アビラルは左眉上をカットして出血。これでペースを取り戻した木村は、左右の強打で猛攻を仕掛けて2度目のダウンを奪い、その強さを見せつけた。 「波乱はなし」 そんな様子が視聴者にも広まり、中には「終わった」「これはストップしよう」と諦めの声まで上がり始めた。が、ここからアビラルが驚異の粘りを発揮する。 3つ目のダウンで試合を終わらせようとアビラルに容赦ない連打で襲い掛かる木村。渾身の左フックにアビラルの脳が揺れ、本来なら終わるシーンのはずが、アビラルは倒れない。それどころか、前に出て打ち合っていく。「気持ちが強い」「この男やばい」「鳥肌が止まらん」など、視聴者の反応にも変化が。
2ラウンド、開始から木村の強烈な右ストレートがヒット。会場に鈍い音が響いたが、アビラルは倒れる素振りをみせない。「効いてない」とばかりにニヤけながら両手を広げるアビラル。豪打のチャンピオンを前にひるまない21歳が、血を流しながら観客を煽ると、会場からは拍手が沸いた。 とはいえ、戦況に変化はない。2ラウンド終盤、木村の追い打ちのボディ、殺気みなぎるフックにも耐え抜いたアビラルの様子に実況を務めた矢野武アナウンサーは「倒れそう、でも倒れない。何たるアビラル!」と絶叫。しかしこの時、1ラウンドにカットした左眉上からの出血が悪化し、限界を迎えていた。ラウンド中、再三行われたドクターチェックにより、このラウンド10秒を残して無念のゴングを聞いた。その瞬間、倒れなかったアビラルが、悔しそうにリングの上に大の字になって倒れ込んだ。 試合後に魔裟斗は「攻撃力以上にアビラルのタフさと心の強さを見ました」と激闘ぶりを讃え、視聴者からは「もう1回やってほしい」「久々にハラハラした」「こんないい選手がいたのか」「チーターのファンになった」など、興奮気味の声が殺到。鳴り止まない観客の拍手は、リング中央でアビラルが四方に深々と頭を下げ、木村と健闘を称え合うと、より一層大きく館内に響き渡った。 勝者以上にこれほどのインパクトを残すグッドルーザーは非常に珍しい。ファンの興奮や反響は意外なところにも表れており、試合前には30人ほどだったツイッターのフォロワーが、一晩にして1000人を超えた。アビラル・ヒマラヤン・チーター…K-1にまた一人、新たなスター候補が誕生した。
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