Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f25e468cd860590bef1489383d80b921cd133910
<劣悪な環境に耐えられずに逃げ出したり、不当解雇された実習生に残された奥の手>
現代の奴隷労働とまで言われる日本の技能実習制度。ここで私があえて指摘しなくても、移動の自由を奪い、実質的に最低賃金以下で働かせる悪しき制度であることは、ニュースなどで見聞きしている人も多いと思う。【周 来友(しゅう・らいゆう)】 【動画】 日本で働いたベトナム女性は家族のため英国へ渡り亡くなった かつては中国人が大半だったが、いま最も多いのはベトナム人だ。従事する産業も、自動車や繊維の工場から農業や建設業界へと移り変わってきている。しかし、人権無視の問題は以前から変わらない。 日本には外国人向けの研修制度と技能実習制度があり、その全てが悪いとは言わない。私は1990年代後半、通産省(当時)が所管する海外技術者研修協会(AOTS、現在の海外産業人材育成協会)の研修に、通訳として関わっていた。研修生は来日後、最長1年間の一般研修を受け、その後企業で実地研修に従事する。その企業にAOTSが定期的に視察に訪れるという「まっとうな」研修制度で、研修を終えて帰国し、母国の発展に寄与している人材は少なくない。中国の黄菊(ホアン・チュイ)・元副首相(故人)もその1人だ。 そんな一面を知るからこそ余計に、技能実習をめぐる問題には心を痛めている。劣悪な環境に耐えられなくなった実習生が逃げ出したり、コロナ禍で業績が悪化した企業が実習生を不当に解雇したり、そんな実習生たちが家畜や農産物を盗むといった犯罪に手を染めたり......。実習生が受け入れ先企業の経営者や実習生を管理する組合の理事長を殺傷する事件もあった。 では、クビになったり、逃げ出したりした実習生はどうするのか。事実上「転職」は難しく、地下に潜るしかないように思えるが、実は奥の手がある。難民認定の申請だ。日本は難民をほとんど受け入れていないが、難民認定の申請は比較的誰でも行うことができるとされ、受理されると申請中のステータスとなる。そうすると、どんな仕事にも就けるし、母国への送金も可能だ。所在地を確認する電話がかかってくることもあり、もちろん母国に一時帰国はできないが、それさえ我慢すれば何とか生きられる。 この難民認定制度はこうした「悪用」ができないよう2年前に運用方法が見直されたらしいが、聞くところによれば今も「悪用」の実態は存在する。申請の総数こそ減ったが、最近では難民認定を申請するベトナム人やネパール人が増えており、その多くは元技能実習生のようだ。
<待ったなしの労働力不足>
悪用はもちろんよくないが、だからといって彼らを批判できるだろうか。昔は不法残留(オーバーステイ)の中国人も難民認定の申請をしていた。最終的に難民に認定されることはまずないが、申請者の多くが当時1年単位で更新できたこの「ビザ」を使って必死に働き、自分のビジネスを立ち上げたり、日本人の配偶者を見つけたりして日本に居場所を見つけていった。名前は言えないが、私はそうした「元・難民認定申請者」を何人も知っている。 いずれにしても、根本的な問題は技能実習制度にある。それを解決しない限り、難民認定制度の悪用もなくならないだろう。日本はカッコつけるのをやめ、外国から単純労働者を正々堂々と受け入れればいいのにと思う。「アジア各国との経済格差が縮小しつつある日本に今後も来てくれるか」「コロナが収束しないことには受け入れどころではない」といった議論もあるが、労働力不足は待ったなしだ。 日本のお偉いさんたちにも当然、その認識はあるだろう。だって、難民に認定するつもりもないのに申請は受理するという制度の運用は、実は日本のひそかな「思いやり」なんじゃないかと思えるから──。 とはいえ、不法滞在者の増加は社会の混乱にもつながる。日本社会の安定のためにも、制度改正は喫緊の課題だ。 <2020年12月15日号掲載>
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