2020年8月21日金曜日

中国「食べ残し禁止令」は今秋の食料危機への注意報

 Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e997120ddf572af41a12c2ec06752d6b9e9703e3

配信、ヤフーニュースより

JBpress

 (譚 璐美:作家)  AFP通信(8月15日)によれば、中国の習近平国家主席が、食品廃棄の問題に取り組んで、「光盤(皿を空にする)」キャンペーンを始めた。 【写真】2007年7月の新疆ウイグル自治区ハミ地区で撮影された写真。環境を保護しながらバッタの大群に備えるため、遊牧民の男性が草原で無数のアヒルを放し飼いにしている  もともと中華料理は大勢で食べる文化的習慣があり、レストランでは「N+1品&スープ」、つまり、人数より1品多い料理とスープを注文するのが常識になっている。4人で食べるなら5品の料理とスープ、6人なら7品とスープという具合だ。  それを今回のキャンペーンでは「N-1品」、人数より1品少なく注文し、食べ残しが出ないようにしようと推奨しているのである。  2018年に中国科学院が発表した報告書によると、レストランで客の食べ残しを廃棄した量は、1人当たり毎食93グラム。大都市では毎年1800万トンが廃棄されているという。  だが、このキャンペーンは食料廃棄の問題というよりも、今秋以降、予測される食料不足に備えるための切実な問題提起なのだ。 ■ バッタ駆除のため10万羽のアヒルを投入?   中国では6月初旬から2カ月近く続いた豪雨の後、8月の台風シーズンに入って、長江、淮河、黄河など主要な河川流域で大洪水が発生した。とりわけ長江下流域の湖北、湖南、安徽、江西、江蘇各省は、中国の農産物の約24%を生産する穀倉地帯で、農作物が深刻な被害をうけ、今秋の収穫が大幅に減少すると予想されている。  それに加えて、蝗害も発生した。  蝗害は世界的に発生しているが、なかでもサバクトビバッタは、アフリカで大発生し、中東、南アジアで猛威を奮い、5月上旬に約4000億匹がインドに侵入。パキスタンで全農作物の約15パーセントに被害をもたらした。その後、インドからネパールまで東進しているが、中国への侵入はまだ確認されていない。国連食糧農業機関(FAO)は、もし中国に襲来すれば、その時点で個体数が500倍になっているだろうと推計した。

 中国の国家林草局は、サバクトビバッタの襲来に備えて、2月26日、バッタを食べるとされるアヒル10万羽を友好国パキスタンへ輸送する計画を立てたとされる。中国では伝統的に、蝗害対策としてバッタを食べるアヒルを活用する歴史があるから、それほど突飛な発想ではないようで、SNS上にも「パキスタンの町中を行進するアヒルの大群」という映像が流れたが、中国政府の正式発表がないため、真偽のほどはわからない。  だが、中国はサバクトビバッタを大きな脅威とみなしてきた。日本農業新聞(4月26日付)によれば、3月6日、中国の農業農村部(農水省)と税関総署、国家林草局は「応急措置案」を通達し、約2億円を投じて、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどと国境を接する25都市に、110~120の観測拠点を設置して監視体制を強めた。次いで5月1日、「農作物病害虫防治条例」を施行して、病害虫防除サービスとして駆除した病害虫の買い取りと専門組織の態勢を強化した。  全力で警戒する中、バッタが最初に大発生したのは6月28日、雲南省普洱市だった。だが、これはサバクトビバッタとは別種で、「黄脊竹蝗」(yellow-spined bamboo locust、黄色角竹バッタ)と呼ばれるトビバッタ類だ。  フランスの国際放送局(RFI、7月3日付)によれば、同市では延べ502機のドローンを飛ばして薬剤を散布し、専門家による拡大防止策を実施したが、バッタの活動範囲は約6700ヘクタールに及び、竹や稲を食べつくした。広西省の桂林市でもバッタの大群が襲来し、公式発表で被害面積は数百ムー(一ムーは約6.67アール)に及び、四川省成都市、湖北省孝感市でも被害が発生した。  さらに、中国自生種のバッタも発生した。今春、中国の東北部では干ばつが続き、農作物が枯れていたところへ、6月初旬から一転して高温多雨になり、洪水が発生。6月初旬、吉林省、黒竜江省などで蝗害が発生した。ちなみに「蝗(イナゴ)」といっても、正確にはバッタの一種で、6月中旬に湖北、雲南、廣西、湖南各省、7月上旬には広西省に広がって、稲やトウモロコシ、柑橘類などを食べ尽くした。  中国政府は全国に「食糧生産用地」を確保する方針を打ち出し、果樹や野菜の代わりに稲や小麦を植えれば、1ムー当たり3000元の補償を与えると約束した。今後、8月から9月の台風シーズンには、さらに大量のバッタが発生すると予測され、駆除は困難を極めている。 ■ 致死率100%のアフリカ豚コレラが流行  中国農業農村部は、「今年の食糧の生産量は、かならず6億5000万トンを実現しなければならない」と強調しているが、実は心配の種は穀物以外にもある。アフリカ豚コレラ(ASF)の再発である。  アフリカ豚コレラは人間には感染しないとされ、豚熱(CSF)とは別種のものだ。しかし豚への感染力は強く、猛毒性で致死率はほぼ100%。昨年、中国で大流行して、前年比4割に相当する1億頭以上が減少した。  日本農業新聞(2019年9月22日付)によると、中国の国家統計局の発表では、2018年末の豚の飼育頭数は4億2817万頭で世界一。それがアフリカ豚コレラの蔓延で、少なくとも1億6000万頭以上の飼育頭数が減ったと推察される(アメリカ農務省の分析では、1億8000万頭)。大量に死んだ豚の始末に困った養豚業者が、道端に放置してしまう例が後を絶たなかった。

中国の2018年の豚肉生産量は5403万トンで、年々輸入が増えているが、世界の豚肉貿易量は800万トンしかない。もし中国が輸入拡大して豚肉の大量輸入に走れば、世界中で豚肉不足が起きてしまう。  今年、そのアフリカ豚コレラが再発生しているのだ。しかも豚熱(CSF)、鳥インフルエンザも流行中だ。豚肉の生産量が40%以上減少したことで、鶏肉、牛肉の需要が高まり、食品全体の価格が2割から5割も高騰している。 ■ 海外からせっせと食料を買い集める中国  アメリカ農務省は、7月10日から16日までの間に、アメリカから中国へ輸出した豚肉、トウモロコシ、木綿、大豆、米などが、総額約319億ドル(3兆4715億円)に達したと発表した。トウモロコシに限ってみれば、7月10日、中国は13億6500万トンを購入したのに続いて、7月14日にも17億6200万トンを購入し、貿易取引額としては過去最高記録を達成した。それ以外にも、大豆、ソルガム、米などを、アメリカから“静かに”買い集めているという。  米中経済戦争のさなかにも関わらず、中国はせっせとアメリカから食料を輸入しているのである。もはや中国の食料不足は明らかだろう。  冒頭にあげた「皿を空にする」キャンペーンは、今秋にも迫り来る食料不足に危機感を抱く中国政府が実施した“苦肉の策”なのだろう。だが、飽食に慣れてしまった国民が、果たしてどこまで素直に聞くだろうか。国民の食欲を満たせなければ、政権が危うくなること必定だろう。  今秋以降、もし中国が食料危機に陥れば、緊急輸入をせざるを得ないだろうが、今、世界の農産物輸出国は、19の国と地域で輸出規制が始まり、なお増加中だ。  先進国のなかで、食料自給率が最も低い日本は早急に対策を講じるべきだろう。

譚 璐美

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