2019年7月10日水曜日

老舗鋼材商社が外国人留学生の就職マッチングを始めた理由

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190703-00010004-wedge-soci
7/3(水) 、ヤフーニュースより

 4月から外国人労働者の受け入れが拡大した中で、森興産(本社大阪市中央区)という会社が、日本での生活に不慣れな外国人留学生に対してきめ細かい就職サポートを行っている。

 ステンレス流通が本業の森興産を含む豫洲グループが、海外進出して外国人材を雇用しようとした際に、日本の大手人材仲介会社に依頼してもふさわしい人材を獲得できなかった。このため7年前に日本に来た外国人留学生の人材育成、就職サポートを進める事業をグループホールディングス機能をもつ森興産の中で開始した。
「出口がない留学生」
 これまで関西を中心に、企業向け研修やウエッブサイトの制作などを手掛けてきた。留学生の就職支援ビジネスを推進してきた森隼人社長は「大学や専門学校は留学生を増やそうと入口は広がっているが、出口(就職)がない。現状では留学生のうち35%しか就職できておらず、残りの65%は就職できずに帰国せざるを得ない」と、日本に来た留学生の就職希望が叶えられていない現状を明かす。

 大学や専門学校は、学生に対して就職のためのガイダンスは行ってはいるが、日本語での説明のために留学生がその内容を理解できず、日本企業の就職習慣や就活方法が分からないため、就職の機会を失っているケースが多くあるという。
 外国人留学生をめぐっては、最近、東京福祉大学で過去3年間で1600人を超える留学生の行方が分からなくなるという、大学のずさんな管理体制が明らかになった。この大学では「研究生」という名目で、定員を超える多数の留学生を入学させていた。政府が2008年に策定した「留学生30万人計画」実現のために、外国人留学生を受け入れるのは良いとしても、急激に増加したこともあって、大学側が留学生の生活、就職指導まで行う余裕がないのが実態のようだ。

 地方の場合は入学した留学生に対するフォローが少ないため、留学生が孤立するケースもある。こうした状況にならないように、森興産では留学生をつながるネットワーク「WA.SA.Bi.」(ワサビ)を作り、留学生同士が友達を作り交流できる機会も設けるなどして、日本での生活、就職を支援してきた。
企業、行政、大学と連携
 さらに、森興産は外国人材が欲しい企業、行政、就職させたい大学・専門学校の産官学とネットワークを組んで連携し、就職に関するセミナーやイベントを積極的に開催している。中小企業や大学をこまめに回り、留学生の就職希望を聞いて、人材が欲しい企業への橋渡しをしている。

 同社が行政機関からの受託したケースでは、大阪府から外国人留学生向けの就職対策講座、近畿経済産業局から大阪府労働協会を通じて留学生向け就活セミナー、自治体国際文化協会が進めている日本と外国人との相互理解を深めるための外国語教育(JETプログラム)、異文化理解セミナー、就活セミナーの開催などがあり、主にキャリアアップや就職活動、ビジネスマナーなどについてアドバイスなどをしている。

 昨年5月1日現在の日本で学ぶ外国人留学生の総数は、日本学生支援機構(JASSO)によると29万8980人。この数年は着実に増えており、今年中には政府が目標としてきた年間30万人の達成は確実とみられる。就職しているアジアの国別では中国人が最も多いが、最近ではベトナム人が急増、ネパール人も増えているという。しかし、日本での生活習慣を全く知らないため、日々の生活や学業で戸惑うことも多い。

 法務省は生活者としての外国人を支援するため、地方公共団体に一元的窓口に係る支援制度の創設を求めて、11カ国言語に対応した窓口を全国に約100カ所整備するとしているが、3月末現在37カ所しか申請されておらず自治体側の対応が遅れている。このため、森興産のような民間の支援も必要になりそうだ。

 昨年、電子部品大手の村田製作所からのオファーを受けて、森興産が就職イベントを企画、運営し、20人以上に内定が出たという。これまでは関西系の企業への留学生の就職仲介が多かったが、今後は東京地区でも積極的にサポート活動を展開する考えだ。
5人に1人が在留資格取れず
 留学生が、日本で就職する場合、留学生ビザから就労ビザへと在留許可を変更する必要がある。しかし、実際に許可が出たのは、昨年10月現在では2万7926人が申請して2万2419人で、許可率は80.3%。つまり、内定も決まり、企業も学生も就職を望んでいるにもかかわらず、在留資格変更ができない人が5人に1人もいる。

 在留資格の変更ができない理由は、企業側の受け入れ問題や、学生側が学生時代に週28時間を超えた不正就労をしていたことなど様々あるが、学生として学んだことと、これから働く職業の内容とがマッチしないことで不許可になることもある。

 留学生は来日するに当たり、借金をしている学生が多いという。中には現地ブローカーなどに100万~150万円も払って、借金を背負って日本に来ているケースもある。このため、大学や専門学校に在学中もアルバイトなどに働かざるを得ない学生が多く、少しでも稼ごうとして気が付かないうちに週28時間の限度を超えてしまうこともある。また、卒業した後も日本で働き続けることで借金を返済しようと考えている学生も多く、日本で就職できないとなると、この返済が滞ることになる。そうなると、お金欲しさに認められていない風俗営業などの仕事に走ったりして、強制退去を命じられたりすることにもなりかねない。

 最近は、働いて稼がなければならない学生と、低賃金で人手を確保したい雇用主の事情につけ込んで、偽造された在留資格カードが出回っているという。気が付かないうちに雇用者、学生がこうした違法行為に陥っているケースもあるようだ。管理庁は悪質な仲介業者が違法行為に関与していることについて「在留審査の際に保証金を徴収されていないかどうかの確認を行う。また外国人を送り出す国と日本との間の2国間(現在9カ国)の政府間文書の作成に基づいて情報共有を実施するなどして、悪質なブローカーの排除の徹底と入国審査基準の厳格化を行う」としている。
アプリで労働時間を管理
 在留資格変更が不許可になるケースで多くあるのが、留学生がアルバイトの掛け持ちなどをしていて、本人が気付かないうちに週28時間という限度を超えてしまうケースだという。コンビニと宅配のアルバイトを掛け持ちしていると、雇用主は自分の所の労働時間しか見ていないため分からないことが多い。

 こうしたことを防ぐため、森興産では大学や専門学校に、掛け持ちしているすべての労働時間を管理できるモバイルアプリの導入を働き掛ける。これにより、学校側で留学生個人に紐づけた週単位の合計労働時間を把握し、28時間を超えた場合は、留学生に対してアラートメールを送り注意を促すようにするという。

 留学生が企業に就職した場合のミスマッチを防ぐためにインターン制度の重要性が指摘されている。日本の大学では留学生にインターン制度を導入しているところは少なく、森興産が外国の大学との関係を築くことで留学生の日本企業とのインターンを増やし、ミスマッチを減らしたいとしている。
変わるべきは企業側
 森興産としては、日本で就職を希望する留学生に対しては、大手の人材仲介会社では手の届かないようなきめ細かいサポートを継続する方針だ。森社長は「まず変えてほしいのが企業側の留学生に対する意識だ。日本の経営者は外国人をどの国も同じでひとくくりに考えがちだが、国によって文化も習慣も違い、外国人は安く使えるという認識だけでは、安定的に雇用することはできない」と主張する。

 特に中小の場合は、外国人人材を雇用することに慣れていないためミスマッチが起こりやすいという。だが、やる気にさせると、中核人材に育つこともあり、現に留学生を採用してそれまでやってなかった海外事業を任せるまでに育った中小企業もあるという。

 外国人留学生が就職した企業の戦力になるかどうかは、ひとえに企業側の姿勢に懸っていると言えそうだ。
中西 享 (経済ジャーナリスト)

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