2019年7月2日火曜日

「受け入れありき」の移民政策が着々と進んでいる大問題な実態

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190625-00206616-diamond-soci
6/25(火) 、ヤフーニュースより
 4月1日の出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(以下、「移民法」という)が施行されて以降、状況はどうなっているのか。現状と問題点について、指摘したい。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)

● 「移民」受け入れが 着々と進んでいる

 4月1日の出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(以下、「移民法」という)が施行されて以降、「国民の目」が届かないわけではないが届きにくいところで、外国人材すなわち移民の受け入れが着々と進められている。

 例えば、特定産業分野のうち外食業において、「外国人材」として日本で働くための事実上の資格試験である特定技能1号技能測定試験が、4月25、26日に早々と実施され、5月21日に合格発表が行われた。合格者は347人でその内訳は、ベトナム人203人、中国人37人、ネパール人30人、韓国人15人、ミャンマー人14人、台湾人10人、スリランカ人9人、フィリピン人8人等だ。

 ベトナム人が突出して多いのは、技能実習生としての受け入れ人数が最も多いのがベトナム人であることも背景としてあるのだろう。平成30年6月末の実績で、在留資格「技能実習」で日本に在留しているベトナム人の数は13万4139人であり、年々増加する傾向にある。

 ちなみに2番目は中国人で、同じく平成30年6月末の実績で7万4909人だ。

 なお、これらの数値はあくまでも在留資格「技能実習」に限ったもので、在留している総数では、ベトナム人29万1494人、中国人が74万1656人。多く在留しているイメージのあるブラジル人については、これらの国よりも少なく19万6781人である。
● 非常に高い 合格率のカラクリ

 この試験の合格率は75.4%であり、非常に高いといえる。

 これは同試験の受験資格の1つとして、『中長期在留者(出入国管理及び難民認定法第19条の3に規定する者をいい、「3月」以下の在留期間が決定された者、「短期滞在」、「外交」、「公用」のいずれかの在留資格が決定された者、特別永住者及び在留資格を有しない者等を除く)であること又は過去に本邦に中長期在留者として在留した経験を有する者であること』と規定されている点が背景の1つとして考えられる。

 つまり、簡単にいえば、既に日本に適法に在留しているか、過去に適法に在留していた経験があるかのいずれかが受験の条件ということ。言ってみればゼロからの受験ではなく、「下駄(げた)」を履いて試験に臨んでいるようなものだ。

 毎日新聞の報道によると、「農林水産省によると、試験は外食業界で2年ほど働いた人の半数が合格する想定で、合格者は飲食店などでアルバイトをする留学生が多いとみられる」とのことだ。

 ただしそうなると、本邦に在留している外国人であって外食業で働いてきた者を使い続けるために、ほぼ「結論ありき」で実施されたと見えなくもない。

 この特定技能1号技能測定試験の試験水準は、『「特定技能」に係る試験の方針について(平成31年2月 法務省入国管理局)』では、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について(平成30年12月25日閣議決定)」において、「1号特定技能外国人に対しては、相当程度の知識又は経験を必要とする技能が求められる。これは、相当期間の実務経験等を要する技能であって、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のものをいう」とされていることを踏まえ、「初級技能者のための試験である3級相当の技能検定等の合格水準と同等の水準を設定する」とされている。

 「3級相当の技能検定」とは、技能実習生向けの技能検定区分の1つであり、その試験の程度は「初級の技能労働者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度」とされている。曖昧この上ない。

 さらに、試験の方針では『「実務経験A年程度の者が受験した場合の合格率がB割程度」など合格者の水準を可能な限り明確化する』とまで記載されている。

 これでは試験の結果いかんよりも、設定した合格率の範囲で得点上位から合格させることになる。疑り深い見方をすれば、全体的に得点が低い場合であっても合格できることになってしまう。75.4%という非常に高い合格率の背後には、「下駄」に加えてこうしたカラクリがあったというだろう。
● 「移民法」の成立に合わせて 設立された団体?

 さて、今回の試験、これを実施したのは移民法を所管する法務省でもなければ外食業界を所管する農林水産省でもない。「一般社団法人外国人食品産業技能評価機構」なる、聞き慣れない団体が実施主体である。

 聞き慣れないのは、それもそのはず。この団体が設立されたのは本年1月21日。会員は外食、中食、食品製造等の関連団体だ。

 移民法の成立に合わせて設立されたであろうことは明らかである。

 一方、試験を作成したのはこの団体ではなく、一般社団法人日本フードサービス協会だ。同団体は外食産業の業界団体であり、誰でも知っているような外食店舗を展開する企業が会員として名を連ねている。

 これらの団体は、移民法成立直後に行われた「平成30年度農業支援外国人適正受入サポート事業(外食業分野における外国人材の適正な受入れ体制の構築)」の公募で、試験の実施準備団体、試験の作成団体としてそれぞれ選定されている。

 公募期間は平成30年12月25日から翌31年1月21日まで。勘のいい読者であればもうお気づきだと思うが、試験実施団体の設立日と平成30年度公募事業の締切の日が同じである。普通に考えれば、団体が設立された日に締切になる公募事業に応募することなど、不可能とは言わないまでも困難であり、極めて不自然だ。

 そして、平成31年度(令和元年度)の公募は、30年度の締め切りからわずか2週間程度しかたっていない2月6日から行われ、同月26日に締め切られ、それぞれ試験実施団体および試験作成団体として選定されている。

 もちろん、事業の継続性や安定性の観点から、前年度に実施した事業者が引き続き選定されるということはありうるし、そのために形式的に公募を行うこともありうる。

 しかし、前年度の公募開始からの一連の流れを考えれば、とにかく早く外食業への移民の受け入れを実現したい、できるだけ早く「外国人材」という名札をつけた移民を受け入れて、働いているという実績を作りたい、その結論に導くための形式的なもの、別の言い方をすれば、「結論ありき」の出来レースであると見られても仕方あるまい。
● 何のための 制度や手続なのか

 そもそも、今回の特定技能1号技能測定試験の実施に当たっては、受験者に学習して「いただく」ために、ご丁寧に日本語およびベトナム語の両言語でテキストまで用意されている。

 これらのテキストは試験作成団体である日本フードサービス協会のサイトからダウンロードでき、当然のことながら無料である。

 テキストには(1)接客全般、(2)飲食物調理、(3)衛生管理の3種類があるという手厚さ。これでは試験というより、より多くの移民受験者に合格してもらうための、カタチだけの「試験モドキ」、「一応やりました」という単なるアリバイ作りであると揶揄(やゆ)されても仕方あるまい。

 外国語の教材がベトナム語のみ用意されていることからも、ベトナム人アルバイトや技能実習生が引き続き就労できるようにするためであることは明らかだ。

 これでは何のための制度や手続きなのか分からない。

 むろん、この試験に合格しただけでは特定技能一号外国人として外食産業で就業することはできず、日本語能力試験にも合格する必要がある。

 しかし、その日本語能力試験についても、先の基本方針においては、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することを基本としつつ、特定産業分野ごとに業務上必要な日本語能力水準が求められる」とされている。

● 「観光客に毛が生えた程度」のレべルと 評せざるをえない

 試験の方針では「基本」の水準については、(1)ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる、(2)簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる、および(3)自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる、等の尺度をもって測定することが考えられるとしている。

 端的に言って、これでは「観光客に毛が生えた程度」のレべルと評せざるをえないだろう。

 日本語能力試験は、国内にあっては日本国際教育支援協会が実施する日本語能力試験(N4以上)であり、国外にあっては独立行政法人国際交流基金が実施する日本語基礎テストである。

 その認定の基準も、前者については、「読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」、「聞く:日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」であり、後者については「ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる。自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる」である。
いずれも日本において、「特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる」という日本語の能力には程遠いと言わざるをえないだろう。

 既に特定技能1号技能測定試験は第2回試験も決まっており、6月24日から28日にかけて東京、大阪他主要都市で実施される。おそらく、それ以降も引き続き実施されることになるだろうし、その結果、拙速と言いたくなる速さで移民が流入してくるだろう。

● 百害あって一利なしの「愚策」 直ちに見直すべき

 その先に待っているのは、何か。

 まず容易に想定されるのは「当たり前」の違いや円滑な意思疎通が困難であることによる現場の混乱等であり、そうしたことにより、希望に胸を膨らませて就業した移民たちは、多くの壁にぶつかることになるだろう。

 それに加えて商習慣、生活習慣、文化、宗教等のさまざまな壁があり、これらは一朝一夕で越えられるものではない(そもそもそれを越えようという意思や考えはないかもしれないが…)。

 残念ながら、こうしたことはほとんど話題になっていないし、問題視し、国会で質疑している国会議員を、少なくともこの通常国会においては見たことがない(おられるのであれば、ぜひ積極的な情報発信をお願いしたい)。

 加えて、移民たちは日本側や日本企業側の都合で、不要になったら帰ってくれるわけではない。彼らは生活の根拠を母国から日本に移しているのであり、彼らは生活をかけ、「人生をかけて」日本に来ているのである。

 気がついたときには「既に手遅れ」となる前に、日本社会にとっても日本人にとっても、そして移民たちにとっても百害あって一利なしの「愚策」は直ちに見直すべきであろう。
室伏謙一

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