Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/4bbe8466b5cea8702d5b478531ac54ae0a6dbfde
人工飼育した希少なシカと鳥を野生へ
首都バンコクからおよそ300㎞。タイ東北部チャイヤプーム県のほぼ中央に位置するプーキアオ野生動物保護区。東京23区のおよそ2.5倍の1560㎢の広さをもつこの保護区には、111種の哺乳類、419種の鳥類、45種の両生類、110種の爬虫類、76種の魚の生息が確認されている。 【画像】絶滅危機を脱しつつある「ホッグディア」 この保護区で8月29日、人工飼育した絶滅危惧種などを野生に帰すイベントを取材した。希少動物の絶滅を防ぎ豊かな森をつくろうとするタイでの取り組みを紹介する。
野生下で絶滅したタイのターミンジカ
40年ほど前、野生では絶滅したとみられるタイ型のターミンジカ(Cervus eldi siamensis)。世界的にみても、ミャンマーやカンボジアなどにわずかにのみ生息している絶滅危惧種で、2004年の調査では100頭以下と推測された。タイで絶滅した理由は、農地の開拓などで生息地が減ってしまったこと、食用の肉や医薬品用の角、鹿革を採るために乱獲されたことなどが考えられる。江戸時代、朱印船貿易でもタイから鹿革が多く日本にも輸入されていたという。 このため、いまタイでは、繁殖施設でターミンジカを人工飼育し、野生に帰す取り組みが行われている。プーキアオ野生動物保護区内にある繁殖センターは、タイに25カ所ある繁殖施設の1つで、現在シカや鳥を中心に87種類2025頭の動物を飼育している。中には、トラやクマ、ヘビやサルなどのように密猟や違法な売買、それに飼育できずに飼い主が手放した動物なども保護されている。 ターミンジカは去年、繁殖施設で飼育された10頭がシーサケット県の野生動物保護区に放され、すでに野生での繁殖が確認されている。取材したこの日(8月29日)には、さらに7頭がプーキアオ野生動物保護区に放されていて、繁殖が期待されている。
ほぼ絶滅したホッグディアは生息数回復へ
バングラデシュやパキスタン、それにネパールなどの草原や湿原などに生息するシカ、ホッグディア(axis porcinus)も絶滅危惧種の1つだ。タイ環境省などによると、1960年代中頃、タイでは野生のホッグディアは絶滅寸前だったとみられている。国際自然保護連合によると、中国やラオス、それにベトナムやミャンマーでは絶滅したという。 しかし1983年、動物園などで飼育していたホッグディア4頭をプーキアオ野生動物保護区に放したのを皮切りに、タイ政府は繁殖施設で育てたホッグディアを野生に帰す取り組みを進めた。2011年にはタイ全土で786頭が野生に帰され、その結果、野生での繁殖も確認されるようになった。取材したこの日も20頭が野生へと放され、元気よく草原に駆け出して行った。タイ環境省によると、ホッグディアの現在の生息数の正確な数字はないが、野生での繁殖も確認され、絶滅の危機を脱しつつあるという。
生態系に注意して動物を野生へ
人工飼育した動物を野生に帰すとしても、生態系に影響が出ないようバランスを考える必要があるという。また、1種類の動物だけが増えるようなことも避けなければならないそうだ。さらに絶滅危惧種については、近親交配を避けるため個体のDNAが近接しないよう配慮しているという。タイ環境省は、タイの繁殖センターにいるターミンジカとカンボジアのターミンジカを交配させることも検討している。
観光客減少で野生動物の目撃例増加
繁殖センターや保護区の職員によると、新型コロナウイルスの影響で保護区を訪れる観光客が減ったことで、シカなど野生動物を身近に目撃する機会が増えたという。コロナ禍で野生動物にとって、生息しやすい環境が広がったと言える。 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、タイ政府はこれまでにも、失業者への現金給付や企業への低利融資、観光振興策などさまざまな経済対策を実施している。経済対策を優先させることで、野生動物を保護する取り組みへの予算が縮小される可能性もあるかもしれない。野生動物の保護は一朝一夕にできるものではない。予算を削減したとしても、継続的に進めることが豊かな生態系を維持するためには必要で、野生動物が住みやすい環境を整えてほしい。 【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】
武田 絢哉
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