2019年10月16日水曜日

地方創生のカギを握るのは「外国人労働者」かもしれない

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191010-00217148-diamond-bus_all
10/10(木)、ヤフーニュースより
 “外国人労働者”と聞くと、コンビニアルバイトや低賃金労働者をイメージする人も多いだろう。だが、中には母国の大学を卒業し、日本語を学び、日本での就職を志す人材も多くいる。しかし、企業の外国人採用の理解は一部のハイクラス人材を除いて進んでいないのが現状だ。その中で、外国人の就職支援会社ゴーウェルが進めるのは、人手不足に悩む地方企業と外国人とのマッチングだ。新しい雇用を生む支援会社の取り組みとは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)


● 外国人の就職率は3割、支援しても「焼け石に水」

 日本での就職を希望する外国人の数は、年々増え続けている。 2019年2月に文部科学省が発表したデータによると、外国人留学生の卒業後の進路希望で「日本で就職を希望する者」は64%を占めた。しかし、その中で実際に就職できたのは31%。つまり、日本で就職を希望しても、実際に職に就ける人は半数に満たないのが現状だ。

 約4000人の日本在住外国人が登録する、業界大手の就職支援会社がゴーウェルだ。ゴーウェルは、日本での就職を希望する外国人と、人手を欲する企業とのマッチングに注力している。

 「できる限り就職をサポートしていますが、まだ外国人採用に積極的な企業が少ない。支援してもしきれず、まさに“焼け石に水”状態です。日本での就職を希望する外国人は年々増加しているため、手を打たなければ1~2年後にはもっと深刻化するでしょう」(ゴーウェル代表取締役社長・松田秀和氏)
● 外国人が強制送還される「在留資格」の罠

 就職率が低い要因は、主に2つある。

 1つは「在留資格」の問題だ。在留資格とは、外国人が合法的に日本に滞在するために必要な資格のことで、細かな分類で合計33種類ある。職種や配偶者の地位などで種類が分かれており、滞在可否や滞在期間、また、滞在中にできる活動内容が変わる。この資格の取得条件が厳しく、日本で就労できずに帰国してしまう外国人が後を絶たないのだ。

 政府もこの問題を改善しようと動いており、2019年4月に改正出入国管理法を施行し、在留資格の制度にてこ入れをした。具体的には、これまで5年以上の滞在が認められていなかった単純業務(漁業、宿泊業、建設業、外食産業など14分野の特定技能)での就労で、追加5年間、つまり最長10年の滞在を可能にした。これにより、外国人労働者受け入れの門戸が広がった。だが、在留の障壁はいまだ高いままなのが現状だ。

 一番のネックになっているのが「在留資格取り消し制度」だ。これは、外国人労働者が在留資格に応じた活動を3ヵ月以上行わないで在留した場合、在留資格を取り消すというもの。3ヵ月以上就労できない状態が続くと、強制送還される。「転職したいけど、3ヵ月以内に職が見つかるのか」と不安を抱えて職の自由を失っている外国人も多い。

 もう1つの要因は、「日本企業側の理解不足」だ。パナソニックのような一部のグローバル企業やメルカリのようなメガベンチャーでは外国人採用に積極的だが、採用されるのはエンジニアやコンサルタントなど、ハイクラス人材が中心だ。それ以外の企業では、人種も文化も違う外国人の正規雇用はリスクがあると考え、採用に尻込みする企業の方が圧倒的に多い。そのため、ハイクラス人材以外の外国人は、人手不足が深刻なサービス業などでの非正規雇用しか枠が残されていないのが現状だ。

● 日本語能力があっても就職できない高いハードル

 外国人の就職活動において必ず必要になるのが、日本語能力試験の資格だ。日本国際教育支援協会と国際交流基金が主催する日本語能力試験は、N1~N5まで5段階に分かれており、一番難易度の高いN1は、新聞の論説や評論レベルの、複雑で抽象度の高い文章の読み書きが求めらる。日本人でも解けない問題があるほどだ。

 ゴーウェルには、2019年7月時点で約4000人の外国人の登録があり、その8割がN1、N2の取得者だ。さらに、法務省が定める優秀な外国人を優遇する制度「高度人材候補」に選出された外国人が全体の43%を占める。

 「登録を希望する外国人があまりにも多く受け入れきれないので、語学のレベルで縛りを設けて登録人数を制限しています。実際、どんなに優秀でもN1かN2レベルの学生でないと、採用をするかしないかという議論にすらならないのが現状です」(松田氏)
ゴーウェルには、毎日のようにサポートを希望する外国人が後を絶たないが、実際に登録できるのは、相談にきた中の10%に満たないという。就職支援会社へ登録するのにも制限が設けられている現状を考えると、外国人の就職がいかに難しいかがわかる。

● 生きるため、積極的に働く外国人

 ゴーウェルは、登録した外国人に対して定期的に、企業とのマッチングをする「1社限定説明会」を開催している。これは、新卒採用によくある、複数企業参加型の「合同説明会」とは異なり、ゴーウェルに登録する外国人を採用したい企業が1社単独で説明会をするというものだ。説明会のあとに個別面接を行い、その日のうちに内定まで出す。

 「1社説明会を行うにあたり、実施企業にマッチしそうな人材を、あらかじめ当社でスクリーニングをかけて参加者を募ります。また、内定をもらったらすぐに働ける外国人しか原則参加させないため、内定承諾率は80%を超えています」(松田氏)

 説明会では、黒いスーツを身にまとった外国人が整列し、「よろしくお願いします!」と元気よくあいさつをする。話を聞く姿勢も真剣だ。

 「前向きで礼儀正しい人が多く、とても驚きました。質疑応答の時間には、積極的に質問が出て時間が足りなくなってしまうことがありました。面接をしても、日本人の学生にも引けを取らないくらいしっかりとした日本語の受け答えができるので、“外国人だから”という枠で考えず、当社で働くうえで必要なホスピタリティがあるかどうかで選考しています」(1社限定説明会を開催したレアル取締役の舟木卓氏)

 レアルは、京都でゲストハウスや不動産の運営を行う企業だ。伝統的な街並みがあり外国人観光客も多い京都での接客業ということで、人気の就職先だ。

 「これまで4回ほどこの説明会を利用し、合計8人の外国人を採用しました。故郷に家族を残して来日しており、私利私欲よりも仕送りを優先する人も多く、仕事に対する積極性は日本人以上のものがあると感じます。“生きるために前向きに働いている”という印象です。今のところ社内からはネガティブな意見も出てきていませんし、活躍してもらっています」(舟木氏)

● 日本に「強い憧れ」を抱く優秀な外国人たち

 実際にゴーウェルを利用している外国人は、どういう目的をもって就職活動しているのか。

 ベトナムから来たアンさん(26歳・女性)は、ベトナム大学を卒業して日本にやってきた。日本では日本語学校と専門学校でおよそ4年間勉強に励んだ。

 「ホテルで接客をするのが昔からの夢なのですが、世界トップレベルのサービスをする日本で働きたいんです。日本人のマナーや他人への思いやりの心に、とてもあこがれています。日本語は難しいし面接は緊張するけれど、日本人の良いところをたくさん吸収したい」

 キラキラと目を光らせる彼女の日本語は、とてもきれいだ。

 2016年に来日したインド人のサンディーさん(27歳・男性)は、専門学校で貿易ビジネスコースを学んでいる。「幼い頃から、インドで日本企業の活躍を数多く目にしてきました。どの企業も良いブランドを生み出していて、『日本が世界のビジネスのハブになっている』と肌で感じていたことがきっかけになって、私も日本で働きたいと思いました。国と国をつなぎ、人々を助ける仕事をしたい」

 「私の国では、高校を卒業すると海外に出て自立するのが当たり前なんです。中学生の時に、『ネパールを信じている国』の第1位が日本だと学んでから日本に憧れを持っていました。周囲ではビザの取りやすいオーストラリアに行く人が多かった中で日本を選びました」

 そう語るのは、ネパール人のタパチトラさん(25歳・男性)だ。2015年に来日して、コンビニでアルバイトをしながら4年間日本語を学んだあと、派遣会社に就職した。しかし半年で退職し、現在は転職活動を続けている。

 「派遣先は家電量販店だったのですが、レジしかやらせてもらえませんでした。もっと裁量のある仕事に就きたくて転職を決意しました。日本でずっと暮らしていけるように頑張りたい」
彼らは皆、高い学費と生活費を支払い、必死に勉強して日本に滞在している。中には借金を抱えていたり、故郷の村の期待を一身に背負い来日していたりと、複雑な事情を抱えている者もいる。

 話を聞いていて感じたのは、面接の作法や語学の資格がどのレベルまで必要なのかなど日本の就職活動事情を、ゴーウェルに来るまで全く把握していない学生が多かったことだ。

 「中国人や韓国人だと、すでに日本の中に出身国のコミュニティがあるので情報を得やすいのですが、非漢字圏の国だとコミュニティも小さく、自国語で入手できる情報があまりないんです。日本の就職について何も知らない状態で相談しにくる外国人が多いです」(松田氏)

● 外国人と地方創生のマッチング

 ゴーウェルのような就職支援会社を実際に活用するのは、人材不足に悩まされている中小企業や、外国人向けのサービス業・観光業が多い。特に、松田氏は「深刻な労働力不足問題を抱える地方企業には最適だ」と主張する。

 「外国人留学生は、学校の多い首都圏に固まっています。そのため、地方の企業が、外国人採用という選択肢を知る機会自体がないんです。知ってもらうことさえできれば、爆発的に雇用が増え、地方創生にも役立つと考えています」(松田氏)

 実際に、愛媛県の伊予銀行や九州の地域特化型投資ファンドを運営しているドーガンと業務提携するなど、ゴーウェルが地方の金融機関や自治体と連携し、地方企業へ人材紹介を行うケースも増えている。

● 日本企業がもつ外国人への潜在的な思い込み

 一方で、日本企業の外国人採用への理解は、想像以上に進んでいないのが現状だ。

 「外国人も日本人と同じように就職活動しているのに、採用する気がない企業がほとんどです。リスクを取りたくないため『派遣として雇いたい』と相談されることも多い」(松田氏)

 確かに、外国人には日本人特有の“空気を読む”文化はないため、阿吽の呼吸は通じない。しかし、彼らの学びへの意欲は並大抵のものではない。日本へ強い憧れをもち、世界的に見ても難しい言語を習得し、就職しようとしているのだ。外国人だからというだけで、不安視するのは早計だ。

 「就職できたとしても職場で理解が進んでいないと、外国人労働者への差別が横行することもあります。 “外国人だから”としてしまう、根底にある意識を変えていく必要があります」(松田氏)
ダイヤモンド編集部/塙 花梨

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