2019年10月16日水曜日

0歳児に必要な定期接種は5種類13本 「そんなに受けて大丈夫?」と聞かれますが…

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191012-00010000-yomidr-sctch
10/12(土) 、ヤフーニュースより

坂本昌彦 「教えて!ドクター」の健康子育て塾
 12年ほど前、私は、とある病院で駆け出しの小児科医として働いていました。ある晩、生後11か月くらいの赤ちゃんを連れたお母さんが、救急外来にやってきました。朝から赤ちゃんは発熱していて、水分も取れないとのことでした。顔色も良くありません。診察中もかなりぐったりしていて、眠りがちです。

 「ひょっとして」と思い、大急ぎで入院の手配をし、赤ちゃんの背中に針を刺して髄液を調べる髄液検査を行いました。出てきた髄液は濁っており、検査の結果、ヒブ(Hib:ヘモフィルスインフルエンザ菌b型)による細菌性髄膜炎でした。細菌性髄膜炎の治療は一刻を争い、遅れると命に関わったり後遺症を残したりすることもあります。急いでステロイド薬と抗菌薬による治療を始め、翌日、赤ちゃんは小康状態となりました。
赤ちゃんの病状に緊迫 翌日「先生の笑顔を初めて見ました」と
 ほっとして、赤ちゃんの病室へ行き、お母さんに検査データの結果を伝えると、お母さんは安堵の表情を浮かべました。そして、「昨日入院してから、先生の笑顔を初めて見ました」との言葉が返ってきました。

 私は、最初に赤ちゃんを診察して以来、自分の顔がずっと強張(こわば)っていたことを知りました。そのためにお母さんを不安にさせてしまったことに対する申し訳なさと、まだまだ注意が必要とはいえ、「何とか乗り切れそうだ」という安堵の入り交じった気持ちになったのを、今でもはっきりと覚えています。

 その翌年から、この細菌性髄膜炎を予防するためのヒブワクチンが、日本でも発売されました。同じく細菌性髄膜炎の原因のひとつである肺炎球菌ワクチンとともに、2013年度から定期接種となり、その結果、現在、日本で細菌性髄膜炎にかかる小児の患者さんは大幅に減少しています。私も、冒頭のようなケースを経験することが、ほとんどなくなりました。本当に素晴らしいことです。日々の診療の中で、予防接種の絶大な効果を感じています。
同時接種には多くのメリット
 ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンに限らず、お子さんにとって大切なワクチンはたくさんあります。19年9月現在、0歳のうちに接種する定期接種のワクチンがいくつあるか、皆さんはご存じでしょうか。

 答えは「5種類13本」。ヒブと肺炎球菌が各3本、4種混合3本、BCG1本、B型肝炎が3本です。この数には、任意接種のワクチンは入っていません。

 「13本打つには13回も通院しないといけないの?」と思われそうですが、同時接種という方法があります。これは2種類以上のワクチンを1回の通院で接種することです。同時接種には、「必要な免疫を早くつけられる」「予防接種スケジュールの調整が簡単になるため、接種忘れの防止になる」「通院回数が減ることで、風邪などを病院でもらう可能性が減る」など、たくさんのメリットがあります。親の負担も軽減します。同時接種でワクチンの効果が下がったり、副反応が強く出たりすることはなく、日本小児科学会も同時接種を推奨しています
接種せず病気にかかるリスクの方が大きい
 小児科外来では、「こんなにたくさんのワクチンを接種して大丈夫なの?」と聞かれることもあります。小さな赤ちゃんにたくさん注射するのだから、不安になるのは当然。子どものことを考えているからこそ、不安になるわけですよね。その気持ちを傾聴し、疑問に答えていくのも小児科医の大切な役割です。

 確かに、予防接種には、「接種部位が腫れる」「熱が出る」などの副反応が時々みられます。しかし、重い副反応が出ることはまれです。

 一方、ワクチンが開発された病気の多くは、「治療法がない、または難しい」「かかると重症になるリスクがある」というものです。CDC(米国疾病予防管理センター)の統計をもとに作成された資料を見ると、ワクチンの効果でジフテリアや麻疹など、多くの重い病気の患者数が90%以上減っていることが分かります。副反応のリスクより、接種せず治療法のない病気にかかるリスクの方がずっと大きいため、私たちは、ワクチンを接種することをお勧めしています。
ロタウイルスワクチンも定期接種化へ
 それは任意接種も同じです。現在、小児に対する任意接種のワクチンとして、インフルエンザワクチン、おたふくかぜワクチンなどがあります。任意接種は、「打たなくてもいい余分なワクチン」ではありません。インフルエンザにかかると脳炎・脳症などのリスク、おたふくかぜには髄膜炎や難聴などになるリスクがあります。これらの重い合併症を予防するためにも、ぜひ接種をご検討していただければと思います。

 任意接種といえばもう一つ、「ロタウイルスワクチン」の話もしないといけません。

 ロタウイルス感染症を予防する有効性は非常に高く、とても優れたワクチンです。世界保健機関(WHO)も、ロタワクチンは十分に安全で、ロタウイルスによる重症胃腸炎や死亡を減らす効果があり、世界中の全ての国の予防接種プログラムに導入すべきだと推奨しています。先日、このワクチンが、早ければ20年度にも定期接種化されるというニュースが飛び込んできました。任意接種だとお金がかかることが問題なのですが、定期接種化で金銭的な負担がなくなれば、接種される方も増え、今後、ロタウイルス感染症の患者はさらに減っていくのではないかと期待しています。
赤ちゃんのお母さんから手紙が
 さて、冒頭の細菌性髄膜炎の赤ちゃんですが、その3年ほど後、お母さんからお手紙が届きました。

 手紙には、「娘は幼稚園に無事入園しました。今も元気に通っています」と書いてありました。この手紙は、今でも家の中で大切に保管してあります。今では当たり前になったヒブワクチンですが、その手紙を読むと、ハラハラしながら治療していた当時の緊張感がよみがえってきます。

 初心を忘れず、これからもワクチンの啓発を進めていきたいと思っています。
坂本昌彦(さかもと・まさひこ)
 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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