2019年10月16日水曜日

災害が起きたとき 子どもがいる家庭はどのように被害を防いだらいいのか?

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191015-00010002-bfj-soci
10/15(火) 12:31配信
BuzzFeed Japan
今回の台風では長野県でも千曲川が決壊し、下流域を中心に大きな被害が出ています。

私の住んでいる佐久地域も、一部川の氾濫が起こり、下流域ほどではありませんが浸水家屋も出たり、停電や断水もあったりするようです。

一夜明けて町に出たところ、道路のいくつかが寸断され、川の一部と化した田畑を目の当たりにしました。見慣れた北陸新幹線も水没して、その被害の大きさに驚くばかりです。

被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

実は信州に住んでいると、台風や大雨の被害は非常に少ないのです。周辺の他県が雨マークでも、長野だけ降っていないこともあり、ネット上では「ATフィールド(あるアニメ由来の全方位防御シールド)」が張られているのではと冗談を言われるほどです。

アルプスの山々で風雨がブロックされているためと思われますが、それだけに、住んでいる身としてはまさか信州で水害がという思いです。思い返せば昨年水害が起きた岡山も「晴れの国岡山」でした。災害に際して自分のところは大丈夫と思ってはいけないのだと改めて実感しています。

さて、私達は「教えて!ドクタープロジェクト」という子育て世代向けの小児医療啓発プロジェクトを行っています。防災や災害時の対応にも力を入れてきました。

今回の水害はまだ現在進行形です。振り返りにはまだ早いのですが、小児をキーワードに、災害について少しまとめておきたいと思います。
【寄稿:坂本昌彦・佐久総合病院佐久医療センター小児科医長 / BuzzFeed Japan Medical】
SNSは災害時の情報集めに有用
災害時には情報が文字通り命綱です。テレビなどマスメディアの情報ももちろん大変有用ですが、局地的な情報を得るためにはSNSが非常に有効だと改めて感じています。テレビやラジオで報じられないきめ細やかな情報を知ることができるためです。

一方で、情報はネット上にあふれかえっており、目の前をあっという間に流れていきます。

「どんな情報が必要ですか?」と聞かれることもありますが、むしろ「情報発信」だけでなく「情報整理」が求められています。

SNSの#(ハッシュタグ)は非常に有用で、柳田清二佐久市長(@Seiji_Ya)も自ら「#台風19号佐久市」というタグを作って情報整理を促しました。

これで情報へのアクセスがシンプルになり、地元の住民の大きな安心に繋がっていると思います。これからのSNS時代の災害情報発信のひとつの形だと感じています。

SNSが災害時に有用だと考える点はもう一つあります。それはグループで相談ができる点です。

1人では避難が決断できないとき、他の人たちと相談することで避難に向けて背中を押してもらうことができます。居住地域が近い住民同士で相談できるよう繋がっておくことは、災害時にも役に立ちます。

また災害が起きたとき、病院との連絡方法がもっとも切実な問題となるのは医療的ケアが必要な患者さんです。電話が通じない状況下では、SNSが安否確認や、外来受診の可否の確認にも使える有用な選択肢になるのではと考えています。
停電と医療的ケア児の話
さて、停電が起こると、直接影響を受けるのが在宅医療で人工呼吸器や酸素濃縮器、吸引器を使用していらっしゃる患者さんです。

電源確保が課題ですが、内部バッテリーは時間が経つと劣化するため、表示されている時間いっぱい持つとは限りません。早めに病院にたどり着ければいいですが、道路が寸断されるとすぐにアクセスできないケースもあります。したがって小型の自家発電機などの準備が必要になります。

カセットボンベタイプの発電機を使う際に注意することは、カセットコンロと同じように室内で使用すると一酸化炭素中毒のリスクがある点です。発電機はバイクなどのエンジンと同じと考え、室内で使用しないことが大切です。

また、吸引器については、電気を使わないタイプを用意しておくと便利です。手動式と足踏み式があります。

私は以前ネパールの山間部の病院で1年ほど働いていたことがあります。そこはヒマラヤの麓で、電気の供給が不安定でしたので、新生児が生まれた際の蘇生などの場面では足踏み式吸引器を使っていました。吸引のリズムなどコツは必要ですが、慣れれば両手が使えますので便利です。

これら発電機や吸引器など「医療が必要な子ども達の防災対策」については、日本小児科学会のリンクにまとめがありますので参考にしていただければと思います。
避難所の子どもに必要なのは遊び場
被災地の避難所にはお子さんも避難することがあります。

今回、ちょうど週末で休みでしたので、近隣の避難所を訪問しました。担当の保健師さんから話を聞くと、「子ども達が興奮して遊び回ってしまうため、周りに迷惑をかけていないか気にされてしまう」ご家族もいらっしゃるとのことでした。

停電や断水が復旧していなくても安全が確認され次第早めに自宅に戻られるご家族も多く、避難所にいないからといって問題が解決されたわけではないと改めて感じています。

もちろん安全が確認できず、避難所に留まるご家族もいらっしゃいます。そのような避難所で子どもに必要な環境とは何でしょうか。

それは、少しでも『普段の様子』に近づける環境だと言われています。子どもにとって、「普段の様子で過ごせる」とは、「遊び場を作る」ことです。

ユニセフは避難所では子ども達が安心して安全に過ごせる場所が必要としており、その指針として「子どもにやさしい空間ガイドブック」を作成しています。

内閣府も避難所運営ガイドラインの中で、「キッズスペースの設置を検討する」と言及しています。

今回私も避難所を訪問する際、気になっていたのはその点でした。しかし訪問した佐久穂町「茂来館」の避難所は、もとからあったキッズスペースを避難者に開放し、子ども達の遊び場となっていました(写真)。

そこは避難所の生活スペースと完全に隔離され、とても素敵な空間でした。さらに素晴らしいと感じたのは、その一角にカーテンで仕切られた授乳スペースが作られていたことです(写真奥)。

災害時には、お母さんの心身に負担がかかったりすることで、母乳が一時的に出にくくなる方もいらっしゃいます。安全で、安心できるスペースがあることで母乳栄養を継続することができます。

ミルクを飲んでいる赤ちゃんも落ち着ける場所は安心に繋がります。母子が滞在する避難所には、このような区画があることはとても大切なことなのです。
水害後の片付けは子どもにさせないで
水が引いてくると、次は後片付けです。今回の台風被害でも長野県を含む各地で堤防が決壊し、床上浸水の家屋も少なくありません。大掃除が必要です。

その後片付けの際に注意が必要なことがあります。

それは、「水害後の子どもの掃除」を美談にしないでほしい、ということです。水害後は多くの有害物質が散乱しています。下水も混じっており感染症のリスクもあります。

したがって、感染症や有毒物質に対して感受性の強い子どもを堤防などの掃除に関わらせるべきではありません。これは米国小児科学会も声明を出していることです。

成人もボランティアで関わる際には、手袋やマスクなどしっかり準備した上で参加していただきたいと思います。
浴槽に水を張る時は溺水に注意
最後に、災害に備えるためにやるべきことについてお伝えしたいと思います。

台風19号が来る前に「浴槽に水を張るときは溺水のリスクに注意」ということをツイートしました。

断水に備えて浴槽に水を貯めるご家庭も多いかと思いますが、小さなお子さんがいらっしゃるお宅では、子どもが浴槽に溺れるリスクも考えなくてはいけません。

特に災害が迫っているとき、災害時は、大人も気持ちが落ち着かず、子どもへの注意が向かない時もありますし、何より24時間目を離さないなんて、子育てでは不可能です。

目を離しても溺れないように柵や浴室への鍵の取り付けなどで浴槽へのアクセスを制限したり、浴槽に貯めたりする以外の方法を考えていただければと思います。
あらかじめやっておくとよい準備
今回の水害を受けて、プロジェクトチームで急きょ意見交換をしました。そこで出た意見をまとめてみました。

まず、避難所の場所などを示す防災マップはPDFデータで自治体のウェブサイトに置かれていることも多いですが容量が重く、いざというときはアクセスが集中したりネット環境が不安定でダウンロードが難しかったりすることも多いです。

平常時に防災マップを入手しておくことが最初の準備かと思います。

そして、防災マップを入手された際には、必ず想定雨量を確認してください(気象予報で報道されます)。その雨量を超えるとほぼハザードマップの通りになる可能性が高いとされているからです。

また、災害時にリアルタイムで必要な情報を流してくれる自治体のSNSアカウントをフォローしておくのも有用です。

先ほどもお伝えしたとおり、マスメディアは県ごとの大きな行政単位での情報は得られますが、自治体、さらにその先の局地的で細かい情報提供はSNSが有用だからです。

SNS以外の情報源では国土交通省の「川の防災情報」、気象庁の「危険度分布」「Yahoo!河川水位情報」が役に立ちます。

避難のタイミングは、子育て世代は時間もかかるため、警戒レベル3で避難することが大切です。迅速に避難するためには、あらかじめ準備を済ませておく必要があります。
子育て世代の避難バッグ 何を入れたらいい?
そこで、避難バッグに入れておく準備についてご紹介します(表)。

準備する物品はなるべく普段使いのものがよいです。理由は「普段から置いてある場所が分かっていること」「大人だけでなく子どもも使い方が分かり、使うたびに指導しなくてもよいこと」が挙げられます。

そして、子どもが学童以上であれば、子どもの避難用バッグは親の監督の下、子ども自身に用意させることで、自分の持ち物として把握できるのでお勧めです。
その他、参考になる防災情報
なお、最近プロジェクトチームでは子どもの医療情報をまとめた書籍を出版することになったのですが、先月の台風15号による千葉の停電に際し、出版元であるKADOKAWAさんのご厚意により、防災の章(第4章)のデータを無料公開する許可をいただきました。

こちら(https://twitter.com/oshietedoctor/status/1177357319601917953)もよろしければご参考にしていただければと思います。

また、当プロジェクトの防災アドバイザーでもある、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんの講演内容をまとめたチラシ(https://oshiete-dr.net/pdf/201909bousai.pdf)もご紹介します。実践的でとても役に立つと思います。

以上、思いつくままに色々と書いてみましたが、今この時間も停電、断水の家屋で過ごされていらっしゃる被災者の方がいらっしゃることに胸が痛みます。少しでも復旧が進むことを心から願うとともに、被災地域の医療者として、引き続きできることを探していきたいと思っています。

【参考文献】
医療が必要な子どもたちの防災対策  日本小児科学会災害対策委員会
田中総一郎:災害と子どもたち,Neonatal Care 25:510-513,2012
井上美保子:災害と子どもの在宅ケア,チャイルドヘルスvol.17(2).121-123,2014
難病対策センター:災害時行動パンフレット
春名めぐみ,吉田穂波:あかちゃんとママを守る防災ノートより一部改変

【坂本昌彦(さかもと まさひこ)】佐久総合病院佐久医療センター 小児科医長
2004年、名古屋大学医学部卒業。愛知県や福島県で勤務した後2012年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。2013年ネパールの病院で小児科医として勤務。2014年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。所属学会は日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本小児国際保健学会。小児科学会では救急委員、健やか親子21委員を務めている。資格は小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。

現在は保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務める。同プロジェクトのウェブサイトはこちら(https://oshiete-dr.net/)。
坂本昌彦

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