Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/69a8d348fa02d6e9c35714fea7340ce33626dc07
漢民族からチベット人への暴力に加え、チベット人から少数民族への暴力も横行。75年にわたり、じわじわと進められた同化政策でチベットはこうなった──
昨年12月、中国のアムド地方(青海省)のゴロク・チベット族自治州タルラク県で村長のゴンポ・ナムギャルが死亡した。刑務所から釈放されて3日後のことだった。伝統的な葬儀の準備中に、遺体に残酷な拷問を受けた痕が見つかっている。 【動画】ダライ・ラマ謝罪、少年の唇にキスし「私の舌を吸って」──性的虐待と批判浴びる ゴンポ・ナムギャルはチベット語の保護運動に参加して逮捕された。彼は中国が20世紀半ばにチベットに侵略して以来、75年近くじわじわと進められてきた同化政策の犠牲者だ。 チベット人はチベット語の維持に努め、標準中国語の強制に抵抗してきた。しかし今では、子供たちはほぼ中国語のみで教育を受ける国営の寄宿学校で学び、自分たちの言語を失いつつある。チベット語の授業は週に数回だけで、言語を維持するには不十分だ。 私はチベットでもほとんど注目されていない、チベット語以外の少数言語の苦境について研究している。チベットの言語をめぐる政治状況は驚くほど複雑で、中国当局からだけでなくチベット人同士の間でも、肉体的なものも含めたさまざまな暴力が続いている。 私は2005~13年にチベット高原最大の都市ジリン(チベット語名、中国名は青海省省都の西寧)で暮らし、大学で教鞭を執り、地元の非政府組織を支援した。その後の研究の中心は、チベット高原東北部のレブゴン(中国名・同仁)渓谷の言語をめぐる政治だ。 08年の北京オリンピックの開幕直前に、チベット人は中国の支配に対して大規模な抗議運動を始めた。弾圧の主な対象は言語と宗教で、人々の抗議は大量の逮捕、監視の強化、チベットのアイデンティティーの表現や移動の自由に対する制限などを引き起こした。 混乱は何年も続き、09年以降、150人を超えるチベット人が抗議の焼身自殺をしている。
共同体意識が破壊される
チベットは言語的に多様な地域だ。チベット語のほかに60以上の言語が使われており、チベット人の約4%、およそ25万人が少数言語を話す。 中国政府の政策により、全てのチベット人は標準中国語を学んで使わなければならない。チベット語しか話さない人は仕事を見つけるのも難しく、支配的な漢民族からの差別や暴力にさらされている。 一方、チベット語教育への支援は徐々に削減されてきた。最近も学生が休暇中にチベット語の個人レッスンを受けることが禁止された。 少数言語を話すチベット人は中国語だけでなく、同級生、教師、医師、官僚、上司など同じチベット人と会話するためにチベット語も学ぶ必要がある。 レブゴンの住民はマネガチャ語を話すが、次第にチベット語に置き換えられている。現在はマネガチャ語を話す家庭の約3分の1が、子供にチベット語を教えている。 政府は、マネガチャ語のような少数言語の使用や学習の機会を一切提供していない。また、他のチベット人によるマネガチャ語の話者への差別や暴力も黙認している。 このような同化政策は、チベット全土の言語の多様性を崩壊させている。少数言語が失われるにつれて、人々の精神的・肉体的健康が損なわれ、社会的なつながりと共同体意識が破壊されていく。 チベットの中国支配への抵抗は、1950年の人民解放軍の侵攻にさかのぼる。59年にチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命し、抵抗運動は国際社会に認知され、世界規模に広がった。世界の多くの政府がチベットの民族自決を支援している。 例えば、24年に米連邦議会は両者の対話を促す「チベット・中国紛争解決促進法」を可決した。 ただし、外部からチベットの闘いを支援する努力は、最も脆弱な人々──少数言語を話す人々を置き去りにしている。 マネガチャ語を話す人々も自分たちの言語を維持したい。彼らは同化の圧力を拒み、互いにマネガチャ語で話して、ネットにマネガチャ語で投稿し、他のチベット人からの差別に反発している。 チベット人がマネガチャ語など少数言語を話さなくなることは、チベットのアイデンティティーと文化を抹殺しようとする中国政府の試みに加担するということだ。 たとえチベット語が中国で何らかの形で生き残ったとしても、少数言語が1つでも失われれば、75年前に始まった中国とチベットの闘いで中国共産党が1つ勝利を収めたことになる。
ジェラルド・ロシュ(豪ラトローブ大学講師)


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