Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c4698976554f31f05323575b73e9506b8740c937
ミャンマー人について「日本語の習得が速く、英語も話せる。ホスピタリティにあふれ、目上の人を敬う文化があり、日本人と気質が合う部分が多い」と語るのは、2019年7月にミャンマーを訪問した琉球銀行の川上康頭取(当時、現会長)です。 【この記事の他の画像を見る】 ミャンマー人の語学力や勤勉さに大きな可能性を感じた琉球銀行は、2019年の時点ですでに深刻な人手不足に直面していたホテル業界において、彼らが十分に活躍できる人材であると判断しました。
■「沖縄ホテルクラス」を開設 そこで、ミャンマーの現地日本語学校と業務提携を結び、来日前に沖縄特有の方言やホテル業務に必要な専門用語を学ぶための「沖縄ホテルクラス」の開設を目指しました。 しかし、残念ながら、提携後まもなく日本国内で新型コロナウイルス感染症が流行し、沖縄のホテル業界も厳しい経営状況に直面することとなりました。その影響で、この取り組みはその後、計画通りに拡大することは叶いませんでした。
そのような中、2023年3月に琉球銀行の紹介を通じて、ミャンマーから技能実習生のトンエイントゥさんとニンウェイルウィンウーさんの2人を採用したのが、沖縄県北部・本部町に位置するロングステイ(長期滞在)対応のリゾートホテル、「アラマハイナ コンドホテル」を運営する前田産業ホテルズです。このホテルは、沖縄屈指の観光スポットである沖縄美ら海水族館にも近く、観光拠点としても高い人気を誇っています。 「外国人の採用はそれまでにも行ってはおりましたが、全体の比率から見た実績としてはまだまだ低い慎重なものでした。琉球銀行の紹介ということで、その企業信用力によるところが大きかったと思います」と同ホテルの佐藤寿郎総支配人はミャンマー人を採用した経緯を振り返ります。
「ミャンマー人技能実習生が、お客様に宛てて手書きした日本語のウェルカムメッセージカードは、ほとんどの方が記念として持ち帰られます」と、誇らしげに笑顔で語ります。 外国人旅行者の利用が多いこともあり、同ホテルでは外国人スタッフの比率が50%近くに達しています。待遇については、国籍や出身に関係なく、日本人と同様に公平な基準が適用されており、インドネシア人のマネージャーやネパール人のアシスタントマネージャーなど、外国籍スタッフも管理職として積極的に登用されています。
■「外国籍の支配人を出さなければ」 「今後3年以内には、外国籍の支配人が誕生してほしい、いや、出てこなければならないと考えています」(佐藤総支配人) このように、昇進のロールモデルが示されることで、昇給やキャリアアップの機会が明確になり、外国籍スタッフにとっても働く意義や目標が一層はっきりし、より長く安心して働ける環境が生まれることが期待されています。 技能実習生については、「日本語が話せない」という固定観念もあり、当初は清掃業務を担当してもらう予定でした。ところが、来日直後から日本語での会話にほとんど支障がなく、すぐにフロント業務も任せることにしました。
「ミャンマーからの技能実習生には、日々驚かされています。これまで海外に出た経験がないにもかかわらず、来日直後からスマートフォンで必要な情報を調べ、自分でスーパーに行ったり、安く買える店を見つけたりと、非常に自立しています」(佐藤総支配人) 配属から2年が経過し、今では「いなくては困る存在」になっているといいます。自分でシステムから顧客データを抽出し、セットアップまで行い、技能実習生2年目ながら正社員と変わらぬ業務をこなしています。
「同僚の日本人スタッフらは、『ミャンマー人には、“失われつつある日本のサービス”や“人の温かみ”を感じることが多い』と話していて、これまでミャンマー人スタッフに対するクレームは一件もなく、正社員と同様の業務をこなしながら、日本人スタッフからも信頼され頼りにされています。 また、海外の人材は上昇志向が強く、スキルアップや将来の母国での活躍を見据えている点が特徴的です。目の前の収入や夜勤なども積極的に選ぶ傾向があり、日本人とは重視する価値観が異なると感じています」(佐藤総支配人)
外国人スタッフが活躍する背景には、正社員と同様に、外国人スタッフにも定期的な人事面談が実施されている点が大きいと考えられます。 ■活躍には定期的な人事面談が有効 この面談では、生活面や仕事上の悩みといった、外国人特有の課題についてもタイムリーに把握し、適切な対応ができるような仕組みが整えられています。これにより、外国人スタッフがその能力を最大限に発揮できる職場環境づくりが積極的に進められています。
アラマハイナ コンドホテルは、沖縄美ら海水族館まで車で約7分、2025年7月25日に開業予定の新テーマパーク『ジャングリア沖縄』までも車で約25分と、非常に恵まれた立地に位置しています。 しかしながら、「これらの近隣施設に過度に依存してしまうと、ホテル運営の軸がぶれる可能性があります。そのため、私たちは目先の動向に左右されない、持続可能な経営を目指しています」と佐藤総支配人は語っています。 現在、『ジャングリア沖縄』周辺では新たなホテルの建設ラッシュが続いており、従業員の確保は一層困難になっているようです。外国人スタッフが多く働くホテルとして周辺の宿泊施設にも知られており、最近は特に、他のホテルから外国人採用について相談を受けることも多いそうです。
「今後、ホテル運営においては外国人スタッフへの依存が避けられない状況になると見込まれています。そのため、今のうちから外国人が働きやすい環境づくりを積極的に進めています。現在、3年後の開業を目指して大型ホテルの建設も進行中で、海外人材の登用にも力を入れていきたいと考えています。 『一度、外国人を採用したものの、うまくいかずに失敗してしまい、それ以来慎重になって採用に踏み切れない。どうしたらよいか?』という相談を、よく受けます。
私たちもかつて、「日本に行きたい」という気持ちだけを理由に来日した外国人や、日本語の勉強に消極的な外国人を雇用してしまった経験があります。そうした経験から、何より大切なのは、派遣元を慎重に選ぶことだと感じています。最初の入り口を誤ってしまうと、いくら職場環境を整えても、後からの改善は難しくなります。 ■外国人スタッフの特性を強みへ昇華 また、日本人スタッフが大多数で、外国人がごく少数という状況では、どうしても「外国人は〇〇だから……」と、日本人を基準に語学力や働きぶりを比較してしまいがちです。
しかし、外国人スタッフが職場の中で一定以上の割合を占めるようになると、それが“当たり前”となり、むしろ強みになるのではと感じています。 例えば、宿泊されるお客様にとっても、普段の生活でミャンマー人と接する機会はほとんどないでしょう。ホテル内でミャンマー出身の従業員と直接、触れ合うことができれば、それが貴重な旅の思い出になるのではないでしょうか」 佐藤総支配人は、「受け入れの仕組み」と「働きやすい環境づくり」の両面から、外国人スタッフの特性をホテルの強みへと昇華させ、将来を見据えた取り組みを進めています。
「技能実習生が沖縄地区の売り上げアップの原動力になったのです」 パナソニックリビング中四国・九州株式会社の米村大輔人事部長によると、人材不足を補うために採用された技能実習生は、単なる労働力としての戦力にとどまらず、新たな市場を切り開く役割も果たし、その結果として売り上げの向上に大きく寄与したといいます。 沖縄は海に囲まれ、台風が頻繁に接近する地域であるため、古くからコンクリート建築が主流です。その結果、木造建築の物件は少なく、木造住宅の施工に対応できる建設会社も限られています。
■建設業にも思わぬニーズ このような背景から、木造住宅を中心に展開するパナソニック リビング中四国・九州は、商品を受注しても施工や設置を依頼できる地元の協力企業が不足するという課題を抱えていました。 そこで、自社で工事ができる体制を整えようと試みましたが、沖縄の建設業界には特有の課題がありました。大工という職種は、サラリーマンとしての雇用が一般的ではなく、多くが個人事業主として活動しているため、日本人の大工を正社員として1人雇用するだけでもコスト的に非常に厳しい状況に直面しました。
そのような背景から、外国人の採用を検討する中で、積極的に外国人を雇用している企業への調査を実施した結果、ベトナム人やネパール人も候補に挙がりました。しかし、最終的にミャンマーの技能実習生が最も適していると判断しました。 そこで、ミャンマー人技能実習生2人の採用を決定し、2021年1月にタン・ナインさんとニー・ニー・アウンさんの2人がミャンマーから沖縄へやって来ました。 「社内で初めて外国人を採用するにあたり、技能実習生の採用には言葉の壁に対する不安がありました。しかし、オンライン面接を通じて実際に対話してみると、日本の若者と変わらず、しっかりとコミュニケーションが取れることがわかりました。各部署の担当者が順番に来日前からオンライン面談を実施し、社員全員がミャンマーの技能実習生と事前に接する機会を作ったことが、大きな成果を生みました。これにより、実習生が日本での環境にスムーズに適応できる土台が整えられたと感じています」
と、渡名喜庸治沖縄支店営業部長は当時を振り返ります。 ■ミャンマー人は礼儀正しく気遣いができる 「彼らの第一印象は、礼儀正しく、日本人と同様に気遣いができる点が非常に際立っていました。しかし、大工職は安定した技術力と専門的な技能が求められるため、日常的なコミュニケーションも重要です。そのため、日々の業務だけでなく、積極的に会話の機会を増やすよう心掛けました。 とくに、1期生はミャンマー人2人だけという少人数であったこともあり、休日には一緒に遊びに出かけたり、夜には食事に誘ったりと、仕事以外でも交流を深める取り組みを積極的に行いました。こうした努力が、彼らとの信頼関係を築く大切な一歩となりました」
「2期生として新たにミャンマーから、カウン・ミャッ・サンさんとテッ・ルイン・ウィンさんの2人を受け入れましたが、1期生とは異なり、部署の社員とのオンライン面談を実施しなかった点は反省すべき点でした。 その結果、1期生と比べて日本語能力がやや不足し、同郷の仲間同士で固まりがちな傾向が見られるようになりました。1期生のときは、日本の生活や仕事について、日本人が日本語で伝えていたので日本語能力も向上していく環境にありましたが、2期生のときは1期生がミャンマー語でそれらを伝えたこともあって、日本語力向上が遅れているということもあると思います」
1期生はすでに3年の経験があり、日本語でのコミュニケーションに問題がなく、馴染みのある大工からも高い評価を得ているようです。 とくに、日常的な会話力が高く、3時の休憩時間には日本人の職人たちと自然に溶け込み、一緒に過ごす場面も多く見られます。さらに、理解力が高く、細かな指示がなくても業務を的確にこなせるようになっており、現場での信頼も厚い状況になっています。 現場でのミャンマー人技能実習生の仕事ぶりが評価され、既存の顧客にとどまらず、新たな取引先からも問い合わせが増えてきました。もともと沖縄県内では木造住宅の建設が少なく、その約8割は県外の建設会社が手掛けていた状況でした。
■新規取引先、事業拡大のチャンスも しかし、県内に木造建築ができる会社が存在するという評判が広がり、これまで手が届かなかった新たな顧客層からも声がかかるようになり、結果としてニッチな市場に新たな活路を切り開くことに成功しました。 1期生のタン・ナインさんとニー・ニー・アウンさんの2人は、仕事が速く、人柄も良いと評判です。初めは言葉が足りない部分もありましたが、ニー・ニー・アウンさんはすでに日本語能力試験で最も難しいとされる大学入学レベルのN1を取得しており、タン・ナインさんも専門学校入学に必要なN2取得に挑戦中で、日常会話は十分なレベルに達しています。
そのため、仕事において日本語で困ることはほとんどなく、現在は技能実習5年目に入りました。今後は特定技能に切り替えた上で残り、将来的には正社員として長く働いてほしいと、会社は期待しています。 「4人とも穏やかで、それぞれ性格は異なりますが、1期生・2期生ともに現場でのミャンマー人の評価も高く、そのため3期生も引き続きミャンマー人を予定しています。 仕事や勤務地のマッチングは非常に重要であり、1期生・2期生の経験を踏まえ、この点は今後も大切にしていきたいと考えています。1期生の2人はいずれも技能実習が終了しても引き続き勤務してくれていますが、2期生については県外での仕事を希望しているようです。これについては仕方のない部分もありますが、企業としてはより長く勤務してもらいたいため、そのあたりのマッチング制度をさらに充実させていく方針です。
日本人にもリクルーター制度があり、先輩社員が求職者の資質を見極め、面接や内定につなげる仕組みがあります。これを私たちも取り入れたいと考えています。また、やはり現地での直接採用の重要性を感じており、3期生の採用にあたってはミャンマーの中心都市であるヤンゴンへ赴き、人材の面接を実施する予定です。 沖縄とミャンマーは、気候や食文化だけでなく、人々の性格も似ている部分があります。例えば、おおらかで優しい人が多く、ガツガツした競争よりも調和を大切にする文化が共通しています。そのため、ぜひ沖縄でミャンマーの皆さんにも活躍してもらいたいと考えています」
会社では、自動車免許についてもサポートしており、ニー・ニー・アウンさんは1年目に会社の支援で免許を取得し、タン・ナインさんは3年目で取得しました。今後はタイムズレンタカーなどの活用も視野に入れ、特定技能に移行して長く働いてもらえるよう、定着支援を強化していきたいと考えています。 「沖縄県は本土と異なり、生活面での課題もありますが、それを逆手に取り、沖縄だからこそできるメリットを打ち出し、ミャンマーの方々が安心して長く活躍できる環境をつくりたいと思います」
陶功城沖縄支店長は、期待を込めてこう語っています。
西垣 充 :ジェイサット(J-SAT)代表

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