Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/785817bfc2398695341f01f8e70489f2db445cf9
これが最後にはならないですよね…。 スイス南部の山村で、氷河崩壊による大規模な地滑りが発生し、村の大半が埋没しました。住民にとっては、自分の生活してきた場所や思い出がほぼ消えたってことですよね。 氷河融解には気候変動の影響が指摘されており、世界中で同様のリスクが拡大し、氷河湖の決壊による洪水被害の危険性も高まっています。 また、氷河の融解は水資源や農業にも影響し、数十億人の暮らしに直結しているといいます。
氷河崩壊によって一瞬で消えた村
5月下旬、スイス南部の渓谷に位置する人口約300人のブラッテン村で、氷河の崩壊による大規模な地滑りが発生しました。住民は事前に避難していたものの、村の9割が土砂と岩に埋まり、1人が行方不明になっています。 崩壊のきっかけは、Birch氷河上部の岩盤の不安定化でした。 近年、山の永久凍土が融解したことでむき出しになった岩石や土砂が氷河に重くのしかかっていたのですが、そのがれきの重みで氷河が動き出して一気に崩壊し、大規模な地滑りが発生したといいます。 映像には、村の建物の破片が茶色の土砂に混じり、谷の反対側まで押し流された様子が映っています。 アラスカ大学フェアバンクス校の物理学教授であるMartin Truffer氏によると、岩石の破片が断熱の役割を果たすことで氷河の融解を遅らせていたのですが、最終的に重さを支えきれなくなって崩壊したそうです。 同氏は、「山全体が崩れる寸前だとわかった段階」で、村民と家畜に避難命令が出されたと述べています。 地滑りの震動は、スイス地震学サービスによってマグニチュード3.1の地震として記録されるほどで、がれきは長さ2km、厚さ数十mにわたって広がりました。 土砂は谷を流れるロンツァ川を一時的にせき止め、茶色く濁った水がうねるように村を覆ったそうです。 村長のMatthias Bellwald氏は、被害の様子をこう語ります。 「ブラッテンは一掃され、破壊され、がれきに埋め尽くされ、完全に消滅しました。 多くの本やアルバム、手紙や文書に保存されていた記憶のすべてが失われました。ここはブラッテンのグラウンドゼロ(爆心地)です」 災害後に現地を視察したスイスのカリン・ケラー=ズッター大統領は、目にした光景を「終末的でした」と述べています。
氷河湖決壊の脅威
スイスの悲劇は決して例外ではありません。世界各地の氷河で、同様のリスクが高まっています。氷河が後退することで形成される氷河湖が突然決壊して発生する氷河湖決壊洪水は、「内陸の津波」と呼ばれるほどの破壊力を持ちます。 2023年に発表された研究結果によると、世界で約1500万人がこのリスクの範囲内で暮らしており、その半数以上がインド、パキスタン、ペルー、中国に集中しているとされています。 氷河湖決壊洪水はほぼ予兆なく発生するため、生命のリスクが高くなります。ペルーのコルディエラ・ブランカでは、1941年以降に雪崩や氷河湖の決壊など、30件以上におよぶ氷河由来の災害によって、1万5000人以上が命を落としています。 また、パキスタン北部でも、2022年だけで16件の氷河湖決壊が発生しています。ネパール、パキスタン、カザフスタンなど、アジアの高山地帯の住民は、氷河湖から平均で10km以内に住んでおり、洪水リスクが高いとのこと。
氷河融解が招く水と食料の危機
さらに、氷河の融解は、山で起こっていることではすまされないようです。国連機関のユネスコによると、世界の灌漑農業の3分の2は、山岳地帯の氷河後退や降雪量減少の影響を受ける可能性が高いとしています。 また、山岳地帯で暮らす10億人以上のうち、開発途上国の人々の約半数は、すでに食料不安に直面しているそうです。 東アフリカの一部地域では氷河の80%が消失し、アンデス山脈でも1998年以降に氷河の3分の1から半分が融解したといいます。 ヨーロッパでも、アルプス山脈とピレネー山脈でほぼ同じ期間に氷河が40%縮小しています。 世界各地の氷河に依存してきた地域の人々は、飲料水や農業用水の確保、ひいては食料安全保障において、20世紀後半までとはまったく違う地域社会への変化を迫られることになります。
温暖化を止めても氷河融解は止まらない
こういった現象の背景にあるのが、地球温暖化による氷河の不安定化です。 スイスの地滑りが温暖化の影響を受けていたかどうかについては、今後の分析を待つ必要がありますが、一般的に温暖化に伴って氷河の融解は進むと考えられています。 ブラッテン村と同じような氷河崩壊による災害は、ヒマラヤやチベット、ペルー、イタリアなど世界中で発生し、地域住民が命を失っています。 科学者は、化石燃料の燃焼によって排出された温室効果ガスは、すでに多くの氷河を消滅させるレベルに達していると警告します。 世界各地で氷河の後退が顕著になっており、アルプスでは1950年以降に氷河が半減し、スイスでは2022年と2023年の2年間だけで氷河の10%が消失しています。 つい最近発表された研究結果では、いますぐに温暖化が止まったとしても、世界の氷河の約40%が消失するとされています。もし現在のペースで温暖化が進むと、最大76%の氷河が解けてなくなるそうです。 気温上昇に伴って氷河の融解が進めば進むほど、スイスのブラッテン村で起こった悲劇が、また世界のどこかで繰り返される可能性が高まります。 でも、裏を返せば、私たちの選択次第で、将来的に発生する可能性のある潜在的な氷河の崩壊や氷河湖の決壊を未然に防いで、多くの人々の命が守られ、生活基盤になる水や食料を確保できるってことでもありますよね。 こうしている間にも、世界のどこかで氷河が崩壊へ向かって静かに解けていきます。温暖化対策、待ったなしです。 Source: The Guardians(1, 2, 3), CNN, AP Reference: NASA, WSJ News / YouTube, Taylor et al. 2023 / Nature Communications
Kenji P. Miyajima

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