Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/486e5becc45fb13a2d6bc71c9e67bf5a67a0f93b
日本で暮らす在留外国人は376.9万人となり(2024年末現在)、過去最高を記録した。 しかし、増え続ける「外国人の隣人」に、誤解や不安を抱いている人もまだいるのが実情だ。そこで本連載では、さまざまな事情で母国を離れ日本で生活する人に話を聞き、それぞれの暮らしの実際に迫る。 第2回は、東京の大学に通うベトナム人留学生2人にお話を聞いた。 【写真】ベトナム協会主催の日本語作文コンテストで最優秀賞を受賞したリンさん。アオザイを着て賞状を手に撮影 ■はじめての日本、新宿駅で迷った思い出 「内定もらったんです!」 チャン・ティー・リンさんはなんとも素敵な笑顔で言う。ベトナムから日本に来ておよそ4年半、その間に磨いた日本語はとっても流暢だ。明るくハキハキした大学4年生は、日本の大学生の多くがそうであるように3年次から説明会やインターンシップなど就職活動をがんばり、内定を勝ち取った。来年からはベトナムにいくつもの工場を持つ企業で働く予定だ。
「私、ホーチミンシティにある大学の法学部に合格したんですが、進学しなかったんです。どうしても日本に留学したかったから」 高校のときの得意科目は歴史だった。とりわけ日本の歴史に惹かれた。戦後の焼け野原からわずか20年ほどで世界第2位の経済大国に躍進したことに、自分の国を重ねた。 「すごく憧れたんです。私の先輩もちょうど日本に留学していたんですが、フェイスブックやインスタグラムに桜の写真とかをたくさん載せていて、きれいだなあって」
日本語を学びつつ両親に相談し、2020年11月に来日。まずは八王子の日本語学校で学び始めた。 本連載では、さまざまな事情で母国を離れ日本で生活する方を対象に、取材にご協力いただける方を募集しています。ご協力いただける方はこちらのフォームからご応募ください。 トラン・トゥエット・ハさんが日本にやってきたのはもう少し前、2017年のこと。 「日本の江戸時代の建築とか、インテリアに興味があったんです」 どことなくアンニュイな空気をまとう彼女も、やはり言葉からと日本語学校に留学をした。学校生活の始まりは、同時にアルバイト生活のスタートでもあった。リンさんが言う。
「ベトナムの留学生、アルバイトする人すごく多いです。みんな生活費も自分で稼がないとならないですから」 日本には中国人や韓国人の留学生もたくさんいるが、こちらは親から十分な仕送りを受け取っている人が中心だ。しかしベトナムは日本や中国、韓国とは経済的にまだまだずいぶん差がある。 リンさんとハさんは学費こそ家族の支援を受けていたが、生活費はアルバイトで賄い続けた。留学生は週に28時間、アルバイトをすることが許可されている(夏休みなどの長期休暇中は週40時間)のだ。
■最初のバイト先は… 「最初にアルバイトしたのはヤマトです。日本語学校の紹介で」 ふたりとも口をそろえる。日本語学校には外国人留学生の労働力を求めている企業と提携しているところが多い。ネットショッピングの需要がどんどん増すいま、人手の足りない物流関係もそのひとつだ。次々と運ばれてくる商品を延々と梱包し続ける仕事だったそうで、なかなかにしんどそうだが「そこで1年3カ月くらい働きました」とリンさん。 「私も合わせてベトナム人が3人、フィリピン人と中国人がひとりずつ、あとは日本人。みんな優しくて、いろんな日本語を教えてくれました」
留学生のアルバイトの定番、コンビニも経験している。ふたりともセブンイレブンだ。未経験の僕から見れば、コンビニの仕事はレジだけでなく宅配便だの公共料金だの出入り業者とのやり取りだのさまざまな仕事があって、とうてい勤まりそうにない。 僕の事務所のそばのコンビニにもネパール人のスタッフがいて「レターパックライトください」「封筒の切手っていくらでしたっけ?」なんて言っても即座に対応してくれて感心するのだが、「そんなに難しくないです」とリンさん。
ハさんも「タイヘンなのは品出しくらいかな。お菓子とかカップラーメンとか、業者の人が配達してきたら補充するんですが、冷凍のは重くて冷たいんです。あとは大丈夫」だそうだ。 ■カスハラにも遭遇 種類がたくさんあるタバコはどうだろう。リンさんに聞いてみた。 「タバコは吸わないですから、名前を言われてもぜんぜんわからない。でも、すみません番号でお願いしますって頼んでいましたね」 しかし、中には意地悪な客もいる。
「テリアミントって言われて、番号でってお願いしたんですが……」 その客は決して番号を言わず「テリアミント!」と怒鳴るばかり。 「テリアミント、テリアミントって一生懸命に探しましたよ」 冬場には欠かせないおでんも、ベトナムでは見慣れない料理だ。 「最初は名前がわからなくて、豆腐って言われたらトーフトーフって探して。でもそのうち覚えました」とリンさんが言えば「肉まんとかは種類が少なくて覚えやすい」とハさん。
「そういえば揚げ物もあった。具をフライヤーに入れてボタンを押すだけなんだけど、油の匂いがついちゃう」なんてリンさんが思い返す。 ハさんはフライヤーの掃除に手がかかるのだと話す。「古い油と新しい油を入れ替えて……」と、もはやベトナム人ふたりが僕そっちのけで日本語で会話しているのである。 それだけ言葉を覚えるのにも「コンビニのバイトは勉強になります」とふたりは口をそろえる。リンさんにとっては、日本語学校とは勝手の違う、普通の日本人が話す生きた日本語を実地で聞き、話す、いい機会になったようだ。
「コンビニでは、いらっしゃいませ袋はいりますかありがとうございますってすごい速さでパンパン話すじゃないですか。学校では習わない、日本人とのやり取りに慣れたと思います」 それに働いているうちに常連客とも顔なじみになり、なにげない会話を交わすようになる。 「いつも来るお客さんがすごいくしゃみしてたから、風邪ですかって聞いたんですよ。そしたら、いやカフンだって言うんです」 リンさんはこのときまだ「花粉症」なる我が国の国民病を知らなかった。その常連客はわかりやすい日本語で、花粉症がいかなるものかていねいに教えてくれたそうだ。
「それをメモして、家に帰って調べました」 そう話すリンさんも今年の春から花粉症を発症してしまったクチだ。僕のまわりでも日本が長い外国人はけっこうやられている。 「風が強い日は鼻がかゆくて、くしゃみがひどくて」 ハさんは7年以上も日本にいるがまだ大丈夫なようで「日本人の友達は2月くらいに注射とかするんだって」とリンさんに教えている。 ■「独り立ち」は4回目の勤務で ちなみに外国人が最初にアルバイトに入った場合、セブンイレブンでは店舗にもよるのだろうが研修というか教習のようなことを3回、行うそうだ。初日は店長や経験のあるアルバイトについて、教えてもらいながら業務を見学するだけ。
次は半分くらいの時間が見学で、半分は自分でも少しずつ実際にレジに立ってみる。そして3回目はすべて自分で仕事をこなすが、つねにほかのスタッフが目を配らせフォローしてくれる。そして4回目の勤務で独り立ちというわけだ。 「はじめは緊張したけど、慣れたら楽しいよね」 しばらくすると売り上げの計算も任されるようになる。レジと連動している事務所のパソコンで行うそうだが、それほど難しくはないそうだ。 コンビニ時代の思い出を語り合うふたりだが、先ほどのタバコの話のように困った客も来る。ストレスがたまっているのか店員に当たる、「電車に遅れる、さっさとしろ」と怒鳴る、日本人でないとわかったとたんに横柄になる……。リンさんがいちばんイヤだと感じたのは、商品をレジの台にポイッと投げる客だ。
「ゴミじゃないですよね。投げたあとはスマホ見てるだけ。どうしてそんな態度なのか、私がなにかしましたかって、アルバイトはアルバイトですけど、ちゃんと働いているって、いつも思ってました」 ■飲食店のバイトも掛け持ち ふたりとも飲食店でのアルバイトも経験している。リンさんはつけ麺の店だ。日本語学校を卒業し、優秀な成績で都内の大学に進学してからのこと。 「大学の先輩が教えてくれたんですが、ホールのお仕事でした。日本人の若い人たちと働くのは本当に楽しかった。みんなから『タメ口』を教えてもらったり。いまでもLINEで連絡を取ってます」
ハさんはデザイン系の専門学校に進学したが、これまでに4つの飲食店で働いてきたそうな。 「お寿司屋、ベトナムのフォー専門店、それとタピオカ、韓国料理の店です」 タピオカ屋と韓国料理店はどちらも新大久保。社長は韓国人で、アルバイトは日本人だったりベトナム人だったり。コミュニケーションはもちろん日本語だ。厨房ではネパール人コックが腕を振るい韓国料理をつくっているレストランも多い。新大久保とはそういう街なのである。
こうしたアルバイトは日本語学校のほか、ベトナム人の先輩や友人からの紹介で探すが、ふたりはアプリも駆使している。日本人が使っているものと同じ、人材会社のものだ。アプリに登録し、興味のある仕事で「外国人OK」の案件を見つけるのだ。そして会社に連絡を取り、面接に行く。このすべてを、もちろん日本語でこなす。 ふたりの語学力や人柄あってこそいろんなアルバイトに受かるのだと思うが、加えていま日本は少子高齢化による人手不足が深刻だ。外国人に、それも留学生にすら頼らなければ、成り立たない産業、企業がたくさんある。
「いろんなアルバイトをして、いろんな経験をしました。学校で勉強できないことをたくさん、アルバイトで学びました。それがいちばん良かったなあって思うんですね」 リンさんはほとんど日本人のように、そうしみじみとつぶやいた。 バイトに勉学に忙しい彼女たちだが、休日はどのように過ごしているのか。後編「もっと働けたら」ベトナム人留学生が漏らす本音では、日本各地で取り組む”ある活動”や、それぞれのシェアハウスなどの住宅事情について聞いた。
室橋 裕和 :ライター

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