2025年7月31日木曜日

謎に包まれてきた諏訪大社の神事の世界に分け入る。「原始からの形がそのまま残っているのではないか」

 Source:http://qnews.yahoo.co.jp/expert/articles/1d4b1d0932f703cdb1a2e7e6b3b5de57ccda4f40

水上賢治映画ライター
「鹿の国」より

 日本最古の神社のひとつとされる諏訪大社のことは、おそらく報道番組はもとより文化系番組や旅番組など、なにかしらの形で目にしたことはあるのではないだろうか?

 ただ、そこでどのような神事がとりおこなれているかを知っている人は限られるのではなかろうか。

 ドキュメンタリー映画「鹿の国」は、諏訪大社で脈々と受け継がれてきた、これまであまり表には出ていない「神事」の世界に深く分け入る。

 作品でも触れられているが、諏訪大社の祭礼は年間200回を超える。その中でも重要とされる神事では、「ミシャグジ」という精霊が降ろされる。そして、神事には鹿の贄が欠かせない。

 精霊?贄?いつの時代のことと思うかもしれない。

 でも、時代による変容はありながらも、原初からの神聖さをたずさえた形で続いている。

 これは見てもらうしかないのだが、その神事は驚きに満ちている。

 手がけたのは、これまでネパールやチベットの文化を中心に取材をしてきた弘理子(ひろ・りこ)監督。

 どのような経緯で諏訪大社を取材することになったのか、謎に包まれてきた神事の場にカメラが入ることを許された理由は?

 足掛け4年をかけて本作を完成させた弘監督に訊く。全五回/第四回

弘理子監督    本人提供

神事「御室神事(みむろしんじ)」の再現して感じたことは?

 前回(第三回はこちら)は、600年前までは続いてきたことが記録に残っているが、いつまで続いたかわからず、長らく謎とされてきた神事「御室神事(みむろしんじ)」の再現にいかにして取り組んだかを明かしてくれた弘理子監督。

 どんなことが行われていたかは作品を見ていただくこととして、実際に再現してみて、弘監督自身はどんなことを感じただろうか?

「冬の間、半地下の穴蔵に三カ月間籠って、鹿肉を食べて、お酒を飲んで踊って、豊穣を願う芸能を奉納していた、といわれている。

 この情報だけで想像すると、半地下の穴蔵ですからおそらく光が入ってくることはなくほの暗い、もしくは暗い場所になる。

 そこで3か月もの間、籠っての神事となると、ふつうは寒くて厳しいものを想像しますよね。

 それに昔からこの神事は『おそれがあるので詳細は述べ難し』と、何やら妖しく、おそろしいことが行われていたんではないか、と言われていたんです。

 実際、参加してくださった地元の方たちもそんな風にとらえていたようなのですが、

監修してくださった研究者の方を中心に、練習をはじめたらいやそんなおどろおどろしいものではないということがわかってきました。

 再現するといってもすぐ本番とはいきませんから、みんなで何度か練習をしたんですけど、むしろ滑稽で楽しいんですよ。

 地元の方も『こんなこと、これまで誰もやったことなかったからなあ』と楽しみながらやっていたという感じでした。

 実際の穴蔵は24畳ぐらいあったということで、思っていたより広い空間なんですよね。

 撮影は諏訪の泉野という地区にある15畳ほどの冬の農作業小屋、穴倉(あなぐら)をお借りして行いました。

 再現した『二十番舞』という芸能は、神様が交わって新しい命が生まれるという神事から始まって、鹿を食べて酒を飲みかわしながら豊穣を願って歌い踊る。

 神事ですから神聖ではあるんですけど、芸能を奉納するということもあってにぎやかなんです。

 きっと穴蔵では、人間と神さまが一緒になって楽しんでいたんだろうな、と感じました」

「鹿の国」より

諏訪大社で執り行われる神事をみて思うのは、

原始からの形がそのまま残っているのではないかということ

 では、諏訪大社のさまざまな神事をみて、どんなことを感じただろうか?

「前にお話ししたように、何年にもわたって撮影させていただいて、たぶん諏訪大社の方々には『いつまで撮るのだろう?』と思われていたはずですけど、それでもわたしが撮影できたのはごく一部に過ぎません。

 祭礼は年間200を超えていますから、まだまだ知らない神事がある。

 そうでうね、一年を通して神事が繋がっていて、それが大きな意味を成しているので

もっともっと見てみないと、なんとも言えないのが正直なところです。

 ただ、ひとつ諏訪大社で執り行われる神事をみて思うのは、原始からの形がそのまま残っているのではないかということ。

 原始から受け継がれてきたものが、ほぼ形をかえないで残っている。

 たとえば『ミシャグジ』という、神でも仏でものない、生命をゆり動かす精霊のような存在もまだ生きています。

 神事のとき、神主さんもさることながら、氏子のみなさんも真剣に向き合う。

 ほんとうに神聖な空気に包まれる。

 この空気は味わったことがないというか。

 わからないですけど、神事ってこのような厳かな雰囲気の中で、自分自身の中の何かに訴えかけてくるような力があるものなのだろうなと感じたんです。

 もちろん時代の流れの中で、鹿の贄をはじめ少しずつ変わってきているところはありますが、なるべくこのままの形で残っていってくれることを願っています」(※第五回に続く)

【「鹿の国」弘理子監督インタビュー第一回】

【「鹿の国」弘理子監督インタビュー第二回】

【「鹿の国」弘理子監督インタビュー第三回】

「鹿の国」ポスタービジュアル

「鹿の国」

監督:弘理子 

プロデューサー:北村皆雄

語り:能登麻美子・いとうせいこう

出演:中西レモン・吉松章・諏訪の衆

https://shikanokuni.vfo.co.jp

東京 ポレポレ東中野、シネマネコ、大阪 シアターセブン、長野 伊那旭座、北海道 シネマ・アイリス、香川 ホール・ソレイユ、高知キネマミュージアムにて上映中、以後、全国順次公開 

上映情報の詳細は→ https://shikanokuni.vfo.co.jp/#theaters

<特集上映情報>

ロングランヒットを記念して、「諏訪」「生き神」「供犠」をキーワードに

「鹿の国・関連作品」をポレポレ東中野にて上映中

詳細は → ポレポレ東中野:オフィシャルサイト

写真はすべて(C)2025 Visual Folklore Inc.

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