Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1e9e5aa9cb0557237d9bba14a7109bbf9dbb4197
少子高齢化に伴う生産労働人口の急減は、日本全体、特に地方に深刻な影響を与えている。この状況のなかで、「外国人材の受け入れ」は喫緊の課題となっている。しかし、一部の地域を除き、対応や制度の整備が遅れているのが現状である(注1)。
こうした課題を踏まえ、「一般財団法人未来を創る財団」は、外国人材の受け入れに関する緊急提言を発表した。筆者も一部関与したこの提言の取りまとめにおいて、中心的な役割を果たしたのが、同財団の国松孝次会長と藤原豊副会長である。今回、お二人にお話を伺った。
[現在の日本における外国人材の現状について]
鈴木(以下、S):まず、現在の日本における外国人材の現状およびそれに対するご認識をお教えください。
藤原豊さん(以下、藤原さん):私たちが発表した提言の冒頭にもある通り、昨年(2024年)末時点で、日本に居住する外国人の数は約377万人、総人口に占める外国人比率は3%となっています。前年と比べて約36万人、10.5%の増加となっており、これは、3年連続で毎年30万人以上の外国人が増加していることになります。
国別に見ると、上位3か国は中国(23.2%)・ベトナム(16.8%)・韓国(10.9%)の順となっていますが、6位となったネパール(6.2%)が対前年比でも高い増加率(32.2%増)を示しています。また、在留資格別に見ると、「永住者」(24.4%)、「技能実習」(12.1%)、「技術・人文知識・国際業務」(11.1%)、「留学」(10.7%)の順となっていますが、このうち、いわゆる「単純労働」と位置付けられる「技能実習」や「留学」は、対前年でも引き続き高い増加率(ぞれぞれ12.9%増、18.0%増)を示しています。
同提言にもある通り、国立社会保障・人口問題研究所の統計では、現在3%の外国人比率は2070年に10%を超えるとされています。ただ、ここ2年の外国人増加数の実績は想定の2倍以上であり、あと20年程度で日本も、「10人に1人が外国人」という現在の欧米諸国並みの状況になる可能性があります。
こうした日本の現在の状況は、産業界が「人手不足を何とか補いたい」などとして「受け身的な対応」をしてきた結果ですが、問題は、日本政府が未だに明確な方針を持たず、「移民政策は採っていない」と相変わらず言い続けていることです。日本は、「なし崩し的」に、実際は、単純労働者を含めた外国人材を受け入れてきているのです。
[外国人材の現状への評価および提言作成の経緯について]
S:外国人材については、少し前からある程度本格的に議論が始まってきていると思いますが、その現状は、以前の状況と比べて、どのように評価されていらっしゃいますか。また先の質問も踏まえてですが、今回の提言の作成および発表をされた経緯についてお教えください。
国松孝次さん(以下、国松さん):私どもの「一般財団法人未来を創る財団」の「定住外国人政策研究会」が、外国人材の受け入れに関する提言を始めたのは、2015年からのことですが、当時と比べれば、現在の議論は、ずいぶん活発化してきていると感じます。
ただ、その議論のあり様をみると、日本の人口急減とそれに伴う労働現場での人手不足、さらには、地域社会の活力の喪失という現象と外国人材の受け入れが増加の一途をたどる現象との間には、原因と結果の密接な関係があるにもかかわらず、人口問題や地域活性化問題を議論する場においては、外国人材の受け入れ問題が議論されることは、これまでほとんどなかったという奇妙な事実に気付きます。
例えば、NHKの看板番組である「日曜討論」は、2023年6月18日に、「深刻化する人手不足 暮らしは、対策は」と題する番組を放映しており、そこには、錚々たる人口問題の専門家・実務家が出席して、出生率の向上とか、生産性の向上とか、高齢者・女性の活用などの問題を議論していたのですが、彼らの口から、「外国人材」の「ガ」の字も出ませんでした。
また、同年12月24日にも、「”人口減少時代”~私たちの未来は」と題する「日曜討論」が開催され、同じように、人口減少問題や地域活性化問題の専門家・実務家が出席して、人口論・地方での雇用創設などの問題を盛んに議論していたのですが、そこでも、外国人材の受け入れ問題が論じられることは、全くありませんでした。
逆に、外国人材の受け入れを議論する場に目を移すと、そこでは、もっぱら彼らや彼らの子弟に対する日本語教育の充実とか、彼らの地域社会への円滑な受け入れとか、彼らに対する「処遇」の問題については盛んに議論されるのですが、外国人材の受け入れ問題の根源にある人口減少、あるいはその結果として起こっている地域社会の活力衰退の問題との関連において議論を進めようとすることは、まずなかったと言って過言ではありません。
要するに、人口減少問題・地域活性化問題と外国人材の受け入れ問題は、別々の問題として考えられているのです。私は、もちろん、そうした議論のあり方が、間違いだとか、的外れだとか言うつもりは全くありません。人口減少問題の核心部分は、出生率の低下とか地域社会の崩壊などにどう対処するかという点にあるわけですから、そちらを優先的に議論するのは、ある意味では当然のことです。
しかし、地域の現場を見れば、人手不足に追いまくられ、いろいろなレベルの外国人労働者に頼らざるを得ず、そのことが、外国人材の流入の増大を招いているのは否定できないことです。そうした現実を一顧だにしないような議論がまかり通るというのは、如何なものかと思うわけです。
私ども「定住外国人政策研究会」は、「外国人材の受け入れ」の問題は、単に約377万人の在留外国人の「処遇」の問題だけではなく、「人口の不可逆的な大減少」とそれに伴う「地方の存立基盤の崩壊」という危機に直面している1億2,400万人の日本社会全体に関わる大問題として、「少子高齢化」や「地方創生」などの政策とも「一体的・総合的」に議論されるべきではないかという問題意識をもって、今回の緊急提言に及んだ次第です。
なお、提言の冒頭にもある通り、私どもの「未来を創る財団」としては、2023年7月に、同じ趣旨で、フォーラム「地域おこしと外国人材受け入れ」というイベントも開催しております。
[提言の内容について]
S:提言の具体的な内容についてお教えください。
藤原さん:近い将来、日本にも欧米諸国並みの「外国人1割社会」が到来することを念頭に、これまでの国や産業界による「無戦略な」受け入れを改め、人口減少阻止・地域活性化とともに外国人材の受け入れを進めるための「定住外国人基本法(仮称)」の制定を提言しています。
基本法の具体的内容としては、「外国人材の日本社会・文化への統合」を基本理念とし、「地域活性化・日本経済成長に貢献する外国人材を積極的に受け入れる」という基本方針の下で、責任と権限・財源を与えられた「地方自治体」が外国人材受け入れとその管理を主導する、いわゆる「地方主導主義」に基づく受け入れのスキームを提示しています。この「地域主導主義」は、受け入れる外国人材が「職業人」であると同時に「生活者」であるという考え方を背景にしています。
受け入れの具体的なプロセスとしては、まず各地方自治体が、受け入れたい外国人材の業種・職種・技能・国籍・期間・規模などの詳細な計画(地域戦略)を作成します。国はこれらを集計・総和したものをベースに、安心・安全確保のなどの観点から最終的に調整し、国全体の基本計画(基本戦略)とするのです。
また、国と自治体に必要な組織を整備することや、新たな在留資格である「地方創生(仮称)」を創設し、地方圏に居住し続ける外国人材に対しては一定のインセンティブを付与することなどについても提言しています。
[外国人材の必要性や重要性について考えるようになったきっかけや背景について]
S:ご説明ありがとうございます。国松さんは、財団の今回の提言の前に出された外国人材に関する提言にも関わられていたかと思います。そのことに関係しますが、国松会長が、日本における外国人材の必要性や重要性について考えるようになったきっかけや背景は何かございますか。
国松さん:私は、外国人問題の専門家でもなんでもないのですが、1999年から3年ほど、日本国大使としてスイスに在勤した経験を持ちます。
ご存じかもしれませんが、スイス(正式には、スイス連邦)は、国内人口の25%は外国人であるという大変な「移民国家」です。スイス連邦政府は、「外国人法」を作り、「外国人庁」を設置して、「外国人の受け入れの基本理念は、彼らをスイス社会の中に『統合(INTEGRATION)』することである」という立場を鮮明にしながら、懸命の努力をしておりました。現実には、あまりうまくいかないところも多かったようですが、外国人庁の幹部諸氏に会って、その真摯な努力ぶりに接して、多くの感銘を受けたものでした。
翻って、日本の事情をみると、外国人材の受け入れに関する基本法もなければ、基本理念も基本方針も基本戦略もない、制度的にも、技術移転による国際貢献をうたい文句にする「技能実習制度」などは、人手不足に悩む企業が体のいい海外からの低賃金労働者集めに利用しているところが結構見られるなど不都合な側面がある、そうした中で、現場の要求に応える形で、無定見に、その場しのぎ的な外国人材の流入がどんどん増えていくという実態があるという印象を強く受けました。
それで、帰国後、いろいろな講演などの場で、その印象を率直に話しておりましたところ、「未来を創る財団」の創業者から、同財団に「定住外国人政策研究会」を創るから、その座長をやってくれというご用命を受けた次第です。
[今回の提言の特長について]
S:今の質問も関係しますが、前回の提言と今回の提言の違いや今回強調されたいことや特に今回の提言を出された理由等について、お教えください。
国松さん:「定住外国人政策研究会」は、2015年と2016年の二度にわたり、外国人材の受け入れ問題に関する政策提言を行っておりますが(注2)、今回の緊急提言は、既に触れたように、「外国人材の受け入れ」に関する諸問題を、「人口減少」、「少子高齢化」、「地方創生」などの視点から、一体的・総合的に捉えて議論して行こうという姿勢を鮮明にしているところに新味があると考えています。
幸いなことに、同じような問題意識を共有する方々が、最近出始めております。例えば、「人口戦略会議」(議長:三村明夫日本製鉄名誉会長)が、2024年1月に出された政策提言「人口ビジョン2100」をみると、「人口戦略」の一環に「地方創生や永定住外国人政策を含めて」考えておられます。これは、それまでに、あまり見られなかった新しい考えであると思います。
また、読売新聞社は、2024年4月26日の同紙1面トップで、「人口減抑制 総力で」と題する提言を掲載し、その中で、7項目からなる提言の柱建ての一つに「外国人・高齢者 活力維持」を掲げて、外国人材の活用を人口減少抑止策の一環として捉える姿勢を明らかにしております。
時あたかも、政府においては、問題点が多いと指摘されてきた「技能実習制度」を廃止し、「育成就労制度」に統合していこうとしております。
私ども「定住外国人政策研究会」は、外国人材の受け入れ問題が一つの転換期を迎えている機会に、この度の緊急提言を提げて、同じ志を持つ皆さま方と連携をとりながら、活動を展開して行きたいと考えております。
[提言に基づく活動について]
S:今回の提言を踏まえて、現在どんな活動をされていらっしゃいますか?
国松さん:今年の3月にこの緊急提言を公表して以来、この問題について関心を持っていらっしゃる政界・官界・財界・言論界の皆さまの下を訪れて、提言の趣旨・内容を説明するなど、PR活動に努めているところです。
[提言への反応について]
S:提言や活動に対する反応はいかがでしょうか。
国松さん:有難いことに反応は大変良く、皆さまに賛同していただいており、感触は良好です。ただ、問題は、今後、実務の場で、私どもの提言の趣旨が、どれだけ具体的な形で実現するかです。いくら賛成が多くても、実際の現場に動きが見られないのでは、何にもなりません。そうした点に気を配りながら、前進してまいりたいと思います。
[今後の活動について]
S:その反応を踏まえて、現在どんなことをお考えになられていて、今後どのような活動や方向性をされていくのでしょうか。
藤原さん:永田町(国会・立法府)や霞が関(行政)の皆さん、すなわち与野党の政治家や中央省庁の官僚からは、概ね賛同はいただくのですが、残念ながら、「自分たちが主導して、提言内容である『基本法の制定』を実現させたい」とまでは言っていただけないのが現状です。
引き続き、少しでも多くの方に理解してもらえるよう、当面、国松会長と御一緒に関係者への行脚を続けますが、提言にもある通り、基本法の制定を待たずとも、この問題を真剣に考えている「地方自治体の首長」には、特区制度なども活用した上で、先行した取り組みを期待したいところです。
[日本や世界の今後について]
S:具体的な動きが出てくることを期待したいですね。そのような提言及びその活動を踏まえて、日本や世界の今後についてどのようにお考えですか?どのような方向性や社会になってほしいとお考えですか?
藤原さん:提言にもありますが、この「外国人材の受け入れ」の問題は、政治家はもちろん国民全体として慎重・反対の立場を取る人が多く、ある意味「タブー視」されています。人口大減少・地方崩壊の危機が迫る中、政・官・財・マスコミが正面から向き合って、直ちに真剣な議論をスタートさせる時期だと思っています。
[日本社会へのメッセージについて]
S:日本の社会や、特に若い世代へのメッセージをいただけますでしょうか?
国松さん:日本人口の少子高齢化の流れは不可逆的に進み、それに伴い、現在3%程度の居住外国人比率は、わずか45年後の2070年には3倍以上の10%程度に膨れ上がるというのが、統計の指し示すところです。そうなれば、日本社会の風景は一変します。外国人との共生は好き嫌いの問題ではなく、覚悟をもって受け入れざるを得ない問題です。
「どのような外国人を、どの程度、どの地域に受け入れたら、日本社会の為になるか」について、今から、きちんとした基本方針の下にプラグマティックに考えていかないと、ほぞをかむことになります。
「外国人材の受け入れ」の問題は、非常に重要かつ差し迫った避けようのない問題だということを理解していただきたいと思います。
藤原さん:「外国人材の受け入れ」の問題は、1億2,400万人の日本人ひとりひとりに関わる重要な問題です。特に、これからの日本を背負って立つ若い皆さんには、大いに関心を持っていただきたいと思います。私たち「未来を創る財団」のホームページには、この問題に関連するイベントの動画なども掲載していますので、ぜひ一度、ご覧になってください。
S:お忙しいところ、ありがとうございました。
(注1)この点については、次の拙記事などを参照のこと。
・「日本の現在および今後を外国人材活用の視点から考えることの必要性 #エキスパートトピ」鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2025年5月19日
(注2)その2つの提言は、次のとおり。
・政策提言『定住外国人受け入れビジョンー明るい未来を創るためにー』(2015年11月)
・「「定住外国人の受け入れ」に関する第二次提言~未来への投資として明確な方針の下で定住外国人受け入れを~」(2016年12月)
インタビュイ-のご紹介:
・国松孝次さんの略歴:一般財団法人「未来を創る財団」会長
1937年6月 静岡県浜松市生まれ。1961年3月 東京大学法学部卒。
1961年4月 警察庁入庁。以後、警視庁本富士警察署長、大分・兵庫各県警察本部長、警察庁刑事局長などを経て、1994年7月から1997年3月まで 警察庁長官。1999年9月から2002年12月まで 駐スイス日本国大使。2003年4月から2023年3月まで 認定NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク」理事長・会長。
現在、公益財団法人「犯罪被害救援基金」代表理事、一般財団法人「未来を創る財団」会長などを務める。
・藤原 豊さんの略歴:一般財団法人「未来を創る財団」副会長、政策アドバイザー
1963年7月 千葉県船橋市生まれ。1987年3月 東京大学経済学部卒業。
1987年に通商産業省(現経済産業省)に入省。1997~2003年にはベンチャー・規制改革行政を担当し、「PFI」「構造改革特区」「市場化テスト」の制度創設や、医療・教育・農業等の「規制改革」を推進。2006~09年には環境経済室長・参事官として、京都議定書の6%目標達成のための「自主行動計画」「国内クレジット・排出量取引」の制度を創設。2011~13年には技術振興課長として、研究開発税制を拡充。2013~17年には内閣官房・内閣府の担当審議官等として、「国家戦略特区」制度全般を企画実施。2019年7月、経済産業省を退職(大臣官房審議官)。
2020年2月、楽天(現楽天グループ)株式会社政策・渉外アドバイザー、フロンティア・マネジメント株式会社顧問、一般財団法人「未来を創る財団」副会長に就任(いずれも現任)。2021年6月に株式会社SRAホールディングス取締役、2022年4月に株式会社セブン&アイ・ホールディングス政策アドバイザーに就任(いずれも現任)。

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