Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f80373d7eb84adaa29c6615f843392c5f889a5aa
日本の小中高校では、いじめの認知件数が過去最大を記録している。’22年度の国の統計によれば、特別支援学校も含めると、前年度比10.8%増の68万1948件となっている。 「そ、そこやめて!」セックス、違法薬物…毒親に苦しめられる少女たち「生々しい実態」写真 これまで日本の学校では、いじめ防止のためにさまざまな手を打ってきた。授業でいじめ教育を行ったり、先生と保護者が連携して見守りを行ったりと、数十年前とは比べ物にならないくらい対策が行われている。 にもかかわらず、子どもの数が減っている今、どうしていじめの認知件数がうなぎ上りになっているのか。その背景には、いじめの形態そのものの変化があるという。 新潮社から近著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』が刊行された。200人以上の教育関係者にインタビューを行い、現代社会が子どもたちに及ぼす影響を明らかにしたノンフィクションだ。本書から、現代のいじめについて考えてみたい。 かつていじめは、大勢の子たちが1人、2人の特定の子を狙い撃ちするようにして行うものだった。 5~10人くらいの不良グループが1人の子に暴力を振るって使い走りにするとか、クラスの女子みんなで1人の子を無視するといったようにだ。 もちろん、こうしたいじめは、今でも残っている。 ◆代表的な「ステメいじめ」 ただ、昔ほど露骨になされることは減り、ネットの中などでこっそりと行われることが増えている。対面での暴力がSNSでの罵詈雑言に変わったり、教室内での無視がLINEでのグループ外しに変わったりといったことだ。 新しい形のいじめの代表例であれば、「ステメいじめ」といったものがある。今の子どもたちは、あからさまな罵詈雑言を浴びせかければ、いじめとされて厳しく指導されることを熟知している。それゆえ、たとえばある子が運動会で転んだら、わざと自分のSNSのステイタスメッセージの欄に「私がダルマみたいにコケたら、恥ずくてぜったい学校へ行けない」などと書くのだ。先生や親は閲覧しないが、SNSでつながっている同級生はそれを見て意味がわかるので、ほくそ笑む。 ただし、本書の取材で先生方が「増えている」と指摘したのは、また別の形でのいじめだ。都内の中学の先生は言う。 「うちの学校の子どもたちに特徴的なのが、コミュニケーション不全からくるいじめです。コロナ禍もあって、ここ数年で子どもたちのコミュニケーション力は驚くほど下がりました。それゆえ、友達との付き合いや、普通の会話ができず、相手を無意味に傷つけてしまうことが増えているのです」 この先生のクラスでは、給食の時間にAという生徒が気分が悪くなってもどしてしまったそうだ。すると、他の生徒たちがそれを見て一斉に「キモっ」「クサっ」「エグっ」と言い出した。それを聞き、Aは自分がクラスメイトから罵詈雑言を浴びせられたと感じ、学校へ行けなくなったという。 先生は話す。 「周りの生徒たちにコミュニケーション力があれば、あんな小学生が発するような、ひどい言葉を用いなかったでしょう。しかし、それがない子どもたちは無思慮にネットで飛び交う乱暴な言葉を吐き捨てます。ちょっと相手と意見がぶつかっただけで『消えろ、カス』と言ったり、ちょっとミスしただけで『キモイぞ、ゴミ』と言ったりする。そんな発言をしたら相手がどう感じるかを想像できていないのです。 言われる側も同じです。コミュニケーション力が低いと、聞き流すことができず、まともに受け取ってしまう。だからものすごく傷ついて、立ち直れなくなり、学校に来られなくなってしまうのです。今は、こういう不必要に起こるいじめ案件がとても多いのです」 未熟な子どもほど、ネットで飛び交う乱暴な言葉を好んで使う。それがどれだけ相手を傷つけるかを考えられていないのだ。 こうしたことは、子どもたち同士がきちんとした言葉でコミュニケーションをとることができれば、避けられるはずのトラブルといえる。 また、受験が近づくと、受験に関するいじめも増えるらしい。 特に首都圏の小学校では「第三次中学受験ブーム」が起こり、都心ではクラスの7~8割が中学受験をすることが珍しくなくなっている。そういう学校では、塾の名前や学力テストの点数によってカーストが決まるし、受験をしないというだけでマイノリティーになる。 このような学校では次のようなことが起きているという。 ・子どもたちが自分のレベルを「通っている進学塾」「進学塾のクラス」「志望校」でランク付けをする。Aという有名塾に通っている子が、「あいつはBODY塾だからクソだろ」と言い放ったり、「俺はAクラスだけど、あいつはCクラスだから」と違いをアピールしたりする。 ・進学塾や親が子どもに「今頑張るかどうかが人生を左右する」「ここで勝ち組と負け組が決まる」などと言うため、子どももそれを信じ込んで、受験をしない子に対して「おまえの人生終わったな」などと言う。 ・親同士が子どもの通う塾やテストの成績で人格まで評価して、「あの子はA塾だから優秀」「あの子は受験をあきらめたドロップアウト組」という話をする。子どもはそれを聞いて、同じことを学校でも言う。 受験の中で、子どもばかりでなく、親までもがマウントを取り合っているのである。これによって、子どもたちの間にカーストが出来上がり、低カーストの子どもたちは生きづらさを膨らましていく。 ◆「バズったんだからいいじゃない」 都内の小学校の先生は言う。 「最近は小5になれば、休み時間の会話は受験の話題一色です。受験組が『受験落ちて公立へ行くことになったらマジ人生終わる』とか『あいつは〇〇中を受験するからマジすげえ』といったことばかり話す。受験をしない子や、成績が伸び悩んでいる子たちは、それを聞いて、学校の勉強をしても意味がないんだとか、自分の人生は終わったんだなどと考えるようになる。本当にかわいそうです」 こうしたマウント合戦の中で、学校に来られなくなる子どもも一定数いるのだそうだ。 本書の取材で新たにわかったのは、子どもたちの価値観の変化に伴う無自覚ないじめも起きていることだ。 たとえば、別の中学校で、授業中に生徒にスピーチをさせたことがあった。生徒各自がテーマを決めて、みんなの前でスピーチをするのだ。 ある男子生徒が自分の番になった時、クラスにいるネパール人の女子生徒の発音を真似してスピーチをした。ネパールなまりの日本語で話したのである。クラス全員がそれを聞いて爆笑した。ネパール人の女子生徒はショックを受けて泣きだした。 なんぜそんなことをしたのか。先生が注意をしたところ、男子生徒はこう言った。 「バズったんだからいいじゃないですか。何が悪いんですか?」 この子は、クラスメイトから笑いをとることを「バズる」ととらえ、そのためには何をしてもいいと考えていた。ゆえに先生がなぜ自分を注意するのか理解できなかったのだそうだ。 先生は「いくら笑いを取ったからといって、その発言が誰かを傷つけたのだとしたらいけないことだ」と説明した。だが、この男子生徒ばかりでなく、他のクラスメイトまで「バズったんだからいいでしょ」と反論してきたという。 先生は次のように言っていた。 「子どもたちが日常的に使用しているSNSの世界ではバズることは素晴らしいこととされています。だから、過激な冗談なんかも容認されている。けど、現実世界ではそうじゃないですよね。そこをきちんと区別できていないと、現実世界で許されないことを平気でしてしまう。それで相手を傷つけるケースが増えているのです」 ネットの倫理と、リアルの倫理は異なる。その区別がつかなければ、このようなトラブルが生じるのは自明だ。 なぜ、子どもたちの間でこうしたことが起きているのかについては、本書に詳しく書いたので参考にしてほしい。 考えなければならないのは、現在はいじめだけでなく、学校内での暴力発生件数も過去最大を記録していることだ。一体、学校で起きている暴力とはどのようなものなのか。それについては【後編:校内暴力が20年前の2.8倍「小学校で激増」驚きのワケ】で見ていきたい。 取材・文:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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