Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4728d6ac5d2a932ae5e408277a48fbe270eadec7
お互いの尊厳を認め、学びあう。
年齢、性別、国なんて関係ない。
なんの隔たりもないこの場所が、この空気感が、とても心地いいと感じます。
はじめて訪れた「夜間中学」は、笑い声が響きあうホームでした。
「夜間中学」とは
みなさんは、「夜間中学」をご存知ですか?
「夜間中学」とは、公立中学校の夜間学級のことで、家庭の事情などによって義務教育を修了できなかった人たちや様々な理由から本国で義務教育を修了せずに日本で生活をはじめることになった外国籍の人、また、形としては中学校を卒業していても不登校などの理由で十分に通うことができなかった人など、多様な背景をもつ人たちの “学び直しの場” として再び需要が高まってきています。
聞いたことはあるけれど、どんな場所かわからない。入学条件は? 授業料は? 雰囲気は? など、訪れてみないとわからないことがたくさんあります。
少しでも参考になればと思い、“1日生徒” になってみました。
佐野中学校「夜間学級」秋の生徒募集はじまる
2024年4月に開設された佐野中学校の夜間学級の秋の生徒募集(8/26~9/10)がはじまったと知り、2学期の始業式を迎える今日、取材にうかがいました。
(取材日 2024年8月26日)
佐野中学校の夜間学級に通う生徒は、16~76歳の41人。うち36人がフィリピンやネパール、中国などの外国籍の方たちで、市内在住は32人。
取材日は、休み明け早々ということもあり、出席者は10名でしたが、平時は50%を超える出席率だそうで、全国的(*)にみても活気がある「夜間中学」とのこと。
*4月現在31都道府県で計53校、府内では佐野中を含む11校で夜間学級が設置されている(文部科学省HP「夜間中学の設置促進・充実について」参照)
生徒のみなさんは、久しぶりの再会に少し緊張した面持ちでしたが、校長先生の始業式の挨拶で一気になごやかなムードに。
次々に質問も飛び交い、生徒同士で教えあう姿は、1学期の3カ月間だけを過ごしたメンバーとは思えないほどの一体感です。
「毎日の積み重ねが力になる」「どんなことでも楽しむ」
校長先生の言葉は、わたしの心にも響く、深く温かいものでした。
「夜間学級」の教育とは
夜間学級は週5日、午後5時30分頃~午後8時45分頃に授業を実施します。
入学資格は、以下の通りです。
①義務教育の年齢(満15歳)を超えている人
②中学校を卒業していない人 または実質的に十分な教育を受けられないまま卒業した人で、学び直しを希望する人
③大阪府内に住んでいる人(府外に住んでいる人は要相談)*外国籍の人も入学可
働きながら通う人がほとんどで、中学校の教員免許をもった教師の指導のもと、昼間の中学校と同じ教科を学習します(国語・社会・数学・理科・英語・音楽・美術・保健体育・技術家庭・道徳など)。
クラスは、ゼロから初級の日本語を学ぶ「ベーシック1」、初級から中級の日本語を中心に学ぶ「ベーシック2」、中学1年生~2年生の教科書の内容を中心に学ぶ「チャレンジ1」の3クラス。すべての課程を修了すれば「中学校卒業」となります。
授業料と教科書は無料ですが、学校行事の参加費や教科書以外の教材の費用(*)は必要な場合があります。
*経済的理由により就学困難な人に対して、就学に必要な費用の援助制度あり。
「入学当初は、外国籍の生徒たちと『小型自動翻訳機』を使ってコミュニケーションをとっていたけれど、今は必要ない」と笑顔で話すのは、教頭の竹田 隆(たけだ たかし)先生。言葉の壁なんて、心が繋がっていれば乗り越えられる、と すでに “ワンチーム” となっている生徒たちの後ろ姿を誇らしげに見つめます。
午後6時05分 授業スタート
始業式が終わり、各々のクラスへ移動します。
この頃には、すっかり緊張も解け、クラスメイトと笑顔でおしゃべりをする姿も。今回、わたしは「ベーシック2」のクラスに参加させていただきました。
「ベーシック2」では、今日は「漢字」を中心とした日本語を学びます。
本日の生徒さんは、フィリピン人の女性3人、男性1人、ネパール人の男性1人です。日本人は、わたし一人でちょっと緊張しています。
わたし(一番奥)の隣に座るのは、ネパール人のバンダリ ゴピ チャンドラさんです。
スッと鼻筋のとおった爽やかイケメンです。
名前を何回聞いても覚えられないわたしにカタカナで書いて見せてくださいました。
そして、わたしも名前を伝えると「こうですか?」と平仮名でさらりと書いてくださいました。学生の頃、席替えをして隣に座った男子にドキドキした思い出がよみがえります。
バンダリ ゴピ チャンドラさんは、日本に来て2年なのだそう。この「夜間中学」で学ぶことがとても楽しい、と話します。
そして、クラスのムードメーカー的存在のフィリピン人のブッチさんのキャラも際立っていました。
言葉と言葉を「いいえ」で繋ぐ問題で、「ブッチさんの家は大きいですか?」の問いかけに「いいえ、小さいです。二人暮らしです!」などのアドリブに爆笑するシーンがあったり、後ろのプレイさんの字がきれいだから “カリグラフィー” をはじめたらどうかと提案し、「なんでやねん!」風の突っ込みを入れられたり、なんだか “関西のお笑い” の雰囲気があるのも不思議です。
言葉と言葉を「いいえ」で繋ぐ問題は、対義語・反対語の習得を目的としながら、実際の様々な生活シーンでの会話を想定した内容となっています。単に語句を覚えるだけでなく、「生きる」「暮らす」に直結した問題で “社会での実践力” を鍛えます。
わたしもチャレンジしましたが、スッと言葉が出てこなかったり、ふたつの言葉で迷ったりする問題もあり、日頃 「言葉」をいかに何気なく使い過ぎているかということに気づかされます。
みなさん日本語も達者でコミュニケーションに困ることはない様子です。
そして、日本人はわたしだけなのに、なぜかまったく壁がない。
この空間がなんとも心地いいのです。純粋に「学びたい」という同じ目的をもった人たちのパワーが、年齢、性別、国を飛び越えて新たなつながりを生み出しています。
そして、先生の指導も優しくて熱い。
誰も「置いてけぼり」にしない未来への実現に向けて、「包みあう学校」を目指しているといいます。
笑い声が響きあうホーム(家庭)。この場所は、そんな印象です。
人間はカテゴリーを手がかりにコミュニケーションを進めようとしますが、ここではそんな必要はありません。ただ「学びたい」という気持ちだけで繋がれる。その想いの強さが、差異を超えて共感となり、次々と自生し、まるで音楽を奏でるかのように教室全体が “幸せオーラ” に包まれていきます。そして、ここにいる人たちは、すでにそのことをわかっているから、どこまでもオープンマインド。先入観をもたない、偏見のない心の受け皿の大きさに “1日生徒” のわたしは救われます。
もっと、ここで過ごしたい。もっと、みんなと話したい。そんな気持ちになります。
「ベーシック1」「チャレンジ1」の教室も覗かせていただきましたが、そこでも熱心に学習に取り組む生徒さんと熱く指導をする先生の姿がみられました。
“生徒は外国人が9割” の背景
佐野中学校の「夜間中学」に通う生徒の9割が外国人である理由のひとつに関西国際空港(以下、関空)の対岸にある同市が外国人就労者を積極的に受け入れ、サポート体制を強化している背景があります。
同市の外国人住民の人口は、2015年以降 増加傾向にあり、2024年7月現在3263人で人口の3%を超えています。また、2022年1月時点の関西エアポートサービスのデータによると、関空で働く従業員1万4598人のうち外国人従業員は618人で、全体の4.2%となり、「夜間中学」は 地域の “多文化共生” の実現を推進するための役割を担う場所としても注目を集めています。
しかし、もう一方で小学校、中学校に在学したことがない人、または小学校を中途退学した人(未就学者)は約9万4000人、小学校のみ卒業した人、または中学校を中途退学した人は約80万4000人いることが令和2年の国税調査によって明らかになり、泉佐野市内でも中学校を卒業していない人が約700人いることがわかるなど、“日本人”の「夜間中学」の潜在的な入学希望者も広く存在しています。
「ぜひ、この『夜間中学』を知ってもらって日本の方たちにも積極的に利用していただきたい」と竹田教頭は話します。
76歳の生徒会長 “イタさん” の存在
この人の存在なくして、この「夜間中学」は語れないといっても過言ではないほど、先生や生徒から絶大な信頼をうける76歳の生徒会長 板谷 時美(いたや ときみ)さんが、取材時も輝きを放っていました。
“イタさん” というニックネームで親しまれ、年齢も国籍も多様な生徒のまとめ役として活躍しています。
福岡・博多で生まれ育ったイタさんは、現役の革財布職人。
革靴の職人だったお兄さんの仕事を手伝いながら「たまに教室に顔を出す程度」の学校生活を送っていたといいます。学齢期に十分学べないまま形式的に中学を卒業したイタさんは、「大人になって “読める” けど “書けない” ことに気づいた。日記を書くことを日課にしていたから “漢字を書きたい” “学びたい“ という想いがあふれ出した」と話します。
市の広報紙でこの「夜間中学」の存在を知ったときは、無我夢中で問い合わせをしたそう。そのカラダから、その表情から、「学ぶことのよろこび」が滲み出ていました。
あらゆる事象がカテゴリー化されている社会を生きるわたしたちは、そういうやり方に慣らされ、そうでないと不安を覚え、無意識のうちに心に境界線を引いていることも。
「夜間中学」は、シンプルに「学びたい」想いでつながる場所。
その純粋なパワーは、既成概念すらも飛び越えてしまうことを知りました。
そして、何より「学び」って素晴らしい!
学びたい人のひたむきさに心を打たれました。
秋の生徒募集は9月10日(火)まで。
募集要項を以下にまとめます。
“学びたい”人は、まずは1日体験に参加してみてはいかがでしょうか。
授業料は無料です。
【基本情報】
学校名(学級名):泉佐野市立佐野中学校 夜間学級
公式ホームページ(外部リンク)
所在地:泉佐野市羽倉崎4-3-12(Googleマップ参照)
・南海本線 羽倉崎駅 北へ約700m
・JR関西空港線・南海空港線 りんくうタウン駅 南へ約800m
入学資格:文中参照
募集学年:原則として1年生からの入学となります。ただし、2・3年生からの入学も認める場合があります(要相談)。
入学の受付期間:2024年8月26日(月)~9月10日(火)まで(土曜・日曜・祝日除く。ただし、入学の相談は年間を通して受け付けています。
入学時期:令和6年(2024年)9月
〈入学関係書類の受付場所〉
〒598-0046 泉佐野市羽倉崎4-3-12
泉佐野市立夜間中学校 夜間学級
TEL 072-458-3700 FAX 072-458-3701
〒598-8550 泉佐野市市場東一丁目1番1号
泉佐野市教育委員会教育総務課
TEL 072-463-1212(内線2346)
(郵送可。持参の受付 平日 学校13:00~20:00 教育委員会 9:00~16:00)
*書類点検後、面接日をお伝えします。
〈入学の手続き〉
入学を希望する人は、次の書類を提出してください。後日、面談を実施します。
①入学許可申請書(様式1)
*上記〈入学関係書類の受付場所〉にあります。
②本人の「住民票の写し」
*コピーでなく発行されたもの。
修業年限:3年(在籍年数については6年以内の卒業を原則とします)
取材協力 泉佐野市立佐野中学校 夜間学級 教頭 竹田 隆 様、泉佐野市外国就労者サポートセンター事務局長 山田 泰寛 様、事務局次長 山田 勇気 様
*記事内容は取材当時のものです。
0 件のコメント:
コメントを投稿