Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0f33c055128cfbbfa81e0cede6afb23dea8fa010
地方都市繁盛店の東京進出は、成否が分かれる。東京でも繁盛店になって店舗数を増やし、一大チェーン店にまで成長したら万々歳だ。一方、最初は話題性で集客できても次第に飽きられ、初期費用を回収できず、人知れず撤退していくケースもある。成功すれば大きな飛躍になるが、撤退すれば、地元店舗へのイメージダウンも少なからず避けられない。まさに東京出店はもろ刃の剣といえよう。 【関連画像】新鮮な生マトンとスリット鍋の縁に流れ落ちたマトンの脂が染み込んだ玉ネギや長ネギも絶品のジンギスカン。かむと肉汁が口いっぱいに広がり、いくらでも食べられそうだ そんな中、札幌・すすきの発の人気ジンギスカン店「成吉思汗(ジンギスカン)だるま」が2024年7月14日に東京・上野御徒町にオープンした。東京初進出のきっかけはなんだったのだろうか。また、現在多くの飲食店が抱える最大の課題であるスタッフ不足をどのように乗り越えたのだろうか。その答えを聞きに、店へ向かった。 場所は下町の雰囲気が漂い、多くの飲食店がひしめく上野御徒町だ。近年は松坂屋のリニューアルに加え、パルコやTOHOシネマズも出店し、現代的な雰囲気を併せ持つ町に変貌している。 東京メトロ銀座線の上野広小路駅を下車。A4出口を出て上野駅方面に直進。上野広小路交差点を渡って、春日通り沿いに左折する。3ブロック目の角に、赤地に白文字で書かれた「だるま」の看板が見えてくる。徒歩3分。東京メトロ千代田線の湯島駅、都営大江戸線の上野御徒町駅、JR山手線の御徒町駅からも近いので、アクセスは大変いい。 店内は2階建ての2フロアで店舗面積は15坪と、札幌のお店と同じように大きくはない。1階はカウンター7席、2階はカウンター13席の合計20席だ。 1時間制なので、テンポいい注文が必要だ。まずはドリンクのオーダーを。ビールはサントリー生ビール(中)650円(以下、価格は全て税込み)、(大)1080円、瓶ビール(サッポロクラシック中瓶、サントリープレミアムモルツ中瓶)各715円、お酒330円、角ハイボール600円、レモンサワー363円など。希少でなかなか飲めないウイスキーを使用したハイボールとして、ハイボール山崎1500円、ハイボール白州1500円、ハイボール響ブレンダーズチョイス2000円と種類も豊富だ。 また、北海道余市ワイン(赤・白/ハーフボトル)2500円やシャンパン・モエ小瓶4400円と、なかなかのアルコールカテゴリーのカバーぶりである。なお、アルコールを注文すると、もれなくお通しとして「おしんこ」(230円)が有料で付いてくる。 このためサイドメニューの注文は、おしんこが被らないようにしつつ、「ママの手作りキムチ」(395円)を選ぶのがおすすめだ。甘味と酸味のバランスがよく、肉ともビールとも白飯とも相性がいい。ママの手作りキムチは締めの裏メニュー(後ほど記述)にも役立つ。
一度も冷凍していない、新鮮なジンギスカンを味わえる
メニューは至ってシンプルで、肉は「成吉思汗(ジンギスカン)」「上肉」「ヒレ肉」の3種類のみ。名物の「成吉思汗」(1290円)は、モモ・バラ・ウデ・肩ロース・ロースなど様々な部位を味わえる。一度も冷凍していない生のマトンは産地から直送されており、毎日、開店直前に職人が手切りして、肉のうまみを最大限に引き出している。 数量限定の「上肉」(1690円)は、穀物肥育で特別に飼育したマトンの脂身が多いロースと肩ロースを分厚くカットした羊肉ステーキで食べ応えあり。また同じく数量限定のヒレ肉(1690円)は、だるま自慢の高級ヒレ肉。羊一頭から数百グラムしか取れない特に柔らかい希少部位なので、心して味わうべし。 成吉思汗は七輪に炭火を入れ、スリットが入ったジンギスカン鍋の外側で玉ネギや長ネギなどの「野菜」(230円)を焼く(スタッフが野菜を置いてくれる)。鍋の中央に羊脂を置き、それが溶け出してきたら、マトンをどんどん焼いていく。 玉ネギや長ネギは、片面だけ焼き過ぎないように注意が必要だが、外側は鍋の中央ほど熱くないため、ある程度は放置しても問題ない。焼けた肉と野菜を、初代の女将から伝承されている秘伝のタレにたっぷりつけて食べる。さらに、タレに刻みニンニクや韓国トウガラシを加えると、さらにおいしさが増す。 だるまがすすきので人気を維持している理由は、肉の新鮮さと唯一無二のタレと調味料のうまさにほかならない。なお羊肉はほかの肉と比べてコレステロールの含有量が低く、コレステロール値を下げる働きをする不飽和脂肪酸も含まれているため、とてもヘルシーだ。 締めには、常連客に人気の裏メニューである「お茶漬け」を紹介しよう。「ライス(普通250円、小200円、大350円)」の上に残ったタレをかけ、余った肉や野菜があればそれものせ、スタッフに頼んで番茶をかけてもらい、お茶漬けとして楽しむ。ママの手作りキムチをのせるとさらにおいしい。なお、番茶は無料で提供される。 なぜだるまは東京に進出したのか。そのきっかけを、運営会社のだるま4・4(札幌市)でサブマネジャーを務める金 (きん)ちょねさんに話を聞いた。
本店70周年を迎えるに当たり「新しい挑戦」をしたかった
東京進出のきっかけは何だったのか。 金ちょねさん(以下、金氏): お客さまからあったニーズのうち、特に『新しさを感じること』に挑戦したいと思ったからだ。だるまは24年10月10日に創業70周年を迎える。そこで、23年から70周年に向けた新たな取り組みとして、お客さまからの要望が多いことを実施するという挑戦を開始した。まず、お昼から営業してほしいという声に応えようとしたが、実際にどこまで集客できるかは不透明だった。 しかし、すすきの駅近くにあるだるま 4・4店の裏手に、複合ショッピングセンターの「COCONO SUSUKINO(ココノ ススキノ)」がオープンしたため、グループ店の中で唯一、お昼の集客が見込めるだろうと昼営業を開始した。 すると、買い物後のお客さまを呼び込むことに成功した。さらに午後の飛行機で北海道を離れるお客さまが、旅立つ前に「もう一度、だるまのジンギスカンを食べたい」と寄ってもらえるようになった。 すばらしいリサーチ力だ。他に実施したことはあるか。 金氏: だるまでは、今まで予約を一切取っていなかったが、「予約を受け付けてほしい」「接待で利用するために予約したい」という要望が多かったため、トライアルで「だるま 7・4店」だけ有料の予約制(1人当たり1時間500円)を導入した。有料にもかかわらず、予約は埋まっている。 ●東京出店は、お客さんからの要望で実現 金氏: 24年の正月に家族が一同に集まって会議を行った。そのときに「もう1店舗出そう」という話になり、最初は札幌駅に出店する案が出た。しかし、「それでは当たり前過ぎておもしろくない」という意見が出た。 地元の常連客以外では、東京から来られるお客さまが最も多く、「東京にお店を出してほしい」とよく言われていたので、創業70周年を記念する最大のチャレンジとして、東京に出店を決めた。 場所を上野御徒町にした理由は何だったのか。 金氏:赤坂、銀座コリドー街、上野御徒町など、いろいろな場所に足を運び、時間帯や曜日を変え、1分間に人が何人通るのか、人数をカウントした。その結果、圧倒的に上野御徒町の人出が多かった。加えて、すすきのと雰囲気が似ていたことや、いい物件に出合えたことなどがあり、この地に決めた。 それはよかった。しかし羊肉の仕入れを東京でどう実現するかハードルもあったのでは。 金氏:札幌で生のマトンを卸してくれていた業者さんたちが、だるまのファンで、「東京でも同じ味を出させてあげたい」と一致団結してくれた。おかげで食材をチルドでしっかり供給してもらっている。輸送経費が余計にかかるが、東京での価格は各メニューとも、札幌より10円高いだけにとどめた。 味も価格も札幌と限りなく同じにしたい心意気を感じる。新型コロナウイルス禍では、どんな状況だったのか。 金氏:最初に緊急事態宣言が発令されたときは、すすきのから人がいなくなった。社長と副社長は、「うちがどう動くかを見ている飲食店さんが多い。閉めるならだらだらしないで思い切って閉めよう」と考え、国のガイドラインに沿ってしばらくの間、休業した。具体的な数字は回答ができないが、売り上げは半分以下に落ち、かなり厳しかった。体感的ではあるが、コロナ禍が明けても深夜は、人がまだ戻って来ていない。 現在、飲食業界では人手不足が問題になっているが、だるまでは10年間以上前からベトナムやネパールなどの外国人スタッフを採用していると聞いた。それはなぜか。
日本人スタッフに、外国人スタッフへの意識を変えさせた留学生
金氏:ある外国人留学生との出会いだ。13年前、ベトナムからの留学生でヒューさんという人から「働きたい」と求人誌を見て電話があったが、すぐに採用とはならなかった。というのも、当時は多くの日本人のスタッフが働いており、人手も足りていた。それに日本人スタッフは外国人スタッフと一緒に働くことに慣れておらず、「何か怖そう」という偏見もあった。 残念ながら前例がない、最初はそれが現実だ。そこからどうなったのか。 金氏:雇うか雇わないか、家族の間で議論になったが、社長の「自分たちも外国人(韓国人)でしょ。一生懸命働いてくれるなら、雇っていいんじゃない」という鶴の一声で実現した。留学生は収入が少なく、大変な生活をしていることを気にしていたそうだ。 すばらしい考え方だ。 金氏:採用したヒューさんは頑張り屋で、重い荷物なども率先して自分から持つような人だった。さらにフレンドリーな性格で、自ら日本人スタッフとコミュニケーションを取り、信頼を勝ち得ていった。日本語もすぐに上達し、年長者のスタッフからは息子や孫のようにかわいがられていた。 外国人スタッフも日本人スタッフと同じ時給だったこともあり、ヒューさんの周りにいる誠実なベトナム人留学生たちから「私も働きたい」と連絡をもらうことが増え、どんどん採用人数が増えていった。 最終的に、何人くらいまで増えたのか。 金氏:23人ほど採用した。友人や先輩からの紹介ということもあり、みんな一生懸命働いてくれた。ヒューさんが彼らに仕事を教えるリーダー的な役割を担ってくれたため、特に困ることもなかった。 ベトナム人のコミュニティーにもなっていたのだろう。当時、留学生も含め、アルバイトやパートは何人くらい働いていたのか。 金氏:コロナ前は全店舗で朝の5時まで営業していたため、ピーク時は100人ほど働いていた。
外国人スタッフも実力次第で積極的に抜てき
今はベトナム人だけでなく、ネパール人も積極的に採用していると聞いた。 金氏: 2年半くらい前、ベトナム人スタッフの紹介で、ネパール人留学生のマニスさんが働き始めた。ネパール人もベトナム人のように紹介を介してスタッフが増えていき、現在、ネパール人のアルバイトだけで40人は働いている。 マニスさんも勤勉で、今はネパール人を束ねるリーダーを務めている。そこで、学校が夏休みの間だけ東京のウィークリーマンションに住んでもらい、上野御徒町店で働くネパール人の指導に当たってもらっている。 それだけでなく、マニスさんはネパール人のアルバイト全員が入るグループLINEを管理している。急きょ欠勤が出たとき、代わりに出勤できる人がいないか、そのグループで聞くなど、シフトの調整やフォローを担当している。 マニスさんのように活躍する留学生に対しては、いくつかの条件をクリアしたら時給をアップするなど、しっかり評価する仕組みもつくった。 成吉思汗だるま 上野御徒町店の店長は、ベトナム人だとか。どういう経緯だったのか。 金氏:もともとは、札幌のだるまでベトナム人を束ねるリーダーとして働いていたトゥアンさんという人だ。独立してベトナム料理店を開店し、6年間ほど切り盛りしていたが閉店した。そのタイミングで、私から「戻って来ないか」と声をかけた。自身の力で店舗運営をしていたということもあり、店長として抜てきした。 今後の展望を聞かせてほしい。 金氏:まずは上野御徒町店をしっかり軌道にのせたい。8月26日から営業時間が変更になった。平日・週末とも午後4時~翌日の深夜2時まで(ラストオーダーは深夜1時半)だ。これからは深夜客も取り込んでいきたい。なお、客足の様子を見て、今後も変更する可能性はある。 そして成吉思汗だるま 上野御徒町店の人気に火が付き、行列で入りきれなくなったら、すすきののだるまと同様に、近い場所(御徒町周辺)で2号店、3号店とどんどん出せたらうれしい。ただ、経営方針は家族会議で決めているので、他の家族の意見が採用されて、御徒町周辺ではなく、いきなり渋谷店や新宿店がオープンするかもしれない。 ●取材を終えて だるまが採用した外国人リーダー制。留学生の中から、責任感があり、リーダーシップのある人をリーダーに任命する。文化や価値観が違う外国人スタッフは、仕事やその心構えは先に働いている同じ国の人から教えてもらったほうが間違いなく身に付くだろう。 留学生はまだ日本語勉強中で、日本語でメールやLINEで送っても完璧に全部が伝わらないときがある。ならばバイトリーダーに、彼らの母国語であるベトナム語やネパール語で一斉に送ってもらえれば、バイトの欠員の穴埋めなどがすぐに見つかるので大いに助かるはずだ。 また外国人リーダーにはその役割を担ってもらう分、バイト料とは別に手当も出るので、モチベーションも上がるだろう。しかし、その根本には金さんはじめ、運営側が外国人スタッフを家族のように大切にして、広い心と優しさをもって接するホスピタリティーがあることを忘れてはいけない。 働きがいがあり、働きやすい職場であることも大切だ。だから日本人スタッフも多く、定着率も高い。アルバイトの人材確保で苦労している店にとって、だるまのやり方は1つのヒントになるかもしれない。 余談だが、金さんからある話を聞いた。札幌にあるだるま6・4店に遅番で入っている70歳の名物スタッフのかおりさんは、たまたま別店舗にヘルプで行ったとき、若い頃に離婚した後、30年間会っていなかった息子と偶然再会した。 「え、お母さん?」と声かけられ、お互いを認識。連絡先を交換して、24年の正月に、息子が嫁と孫を連れて札幌宅まで遊びに来てくれたとか。かおりさんは「だるまで働いていて本当によかった!」と話していた。それを聞いていたスタッフは号泣。飲食店にはドラマチックな話がある。 札幌 ジンギスカン だるま https://sapporo-jingisukan.info/ 炎天下で長時間入店待ちをさせるのは心苦しいとのことで、上野御徒町店では8月2日から整理券システムを導入した。毎日16時から受付機で番号券を発券し、そこに印刷されたQRコードを読み取れば、待ち状況を確認できる。入店順番2組前になれば、メールやLINEまたは電話で知らせてくれる。番号券は一定数しか発券できないので、入手できなかった人は、午後9時ごろに来店すれば少し待つかもしれないが、入店できる可能性はあるとのことだ。整理券システムは変更される場合があるので、公式サイトで確認してほしい。
SHiGE
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