Source:https://www.zakzak.co.jp/article/20240913-CCCO7NKP6VMGXAP5Y7NEVVP46Y/
國友公司
温泉地だと思って訪れるとくつろげない=インド・マニカラン
インドのニューデリーからバスで約15時間。私は「カソール」という小さな町にいた。すでにいくつもの山を越え、かなりの奥地にいるのだが、途中で旅行者から聞いた話によると、カソールのさらに奥には「マニカラン」という温泉地があるという。
私がこれまでに旅をした土地などせいぜいアジアの数カ国にすぎないが、世界的に見ても日本ほど温泉が好きな国はない。私もご多分に漏れず温泉には目がなく、海外で温浴施設を見つければ必ずと言っていいほど足を運んでいた。
特によかったのは香港のサウナだ。ラグジュアリーな内装かつ貴族にでもなったかのようにもてなされる。浴場で身を清めた後は、中国本土から出稼ぎに来ているのであろう女性に手を引っ張られながら、奥にある暗い個室へといざなわれるのだ。
もっとも刺激的だったのはバンコクにある「バビロンサウナ」だ。ここは世界的に有名なゲイのハッテン場である。試しに入場してみたが、迷路状になっている真っ暗なスチームサウナで迷子になり、大声を出して助けを求めた記憶がある。
もちろん、健全なサウナにも行っている。ラオスとモンゴルで行ったサウナは清潔感こそないものの料金は格安で、地元民たちの社交場になっていた。一方、ベトナムやタイの都心には日本人向けのスーパー銭湯のような施設があり、金を持った現地人たちのたまり場になっていて、その国の貧富の差をひしひしと感じることができた。
カソールの町からマイクロバスに乗ること数十分。こぢんまりとしたカソールからは想像のつかないほど華やかな光景が目の前に広がった。この建物は、ヒンドゥー教とイスラム教の両方の影響を受けて発展したシク教の寺院らしい。
寺院の中に入るとさっそく脱衣所があり、そこでパンツ1枚になる。行列に並びながら進んでいくと内湯が見えてくるのだが、これが決していい湯とは言えない代物だった。温泉というにはあまりにもぬるく、かといって水風呂ほど冷たくはなく、さらになんだか鉄の味がするのだ。そして、湯につかるインド人たちの様子を見ていると、どうも温泉を楽しみに来ている感じではない。
内湯を出てさらに進むと、もはやプールといってもいいくらいに広い露天風呂にたどり着く。ロケーションとしては最高なのだが、お湯に入ろうとするとむちゃくちゃに熱い。下手したら50度近くあるかもしれない。
「インド人は熱湯に強い」わけではなく、みんな桶に湯をくんでは冷ましながら体にかけている。インド人にとっての温泉はどうやら日本人のように湯を楽しむ場所ではなく、身を清めるという宗教的な意味合いを持つところのようだ。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。
0 件のコメント:
コメントを投稿