Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9707cb25abe9517240f14011bb57f5eee8673b7a
リゾート地などで休暇を楽しみながらテレワークする「ワーケーション」。 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を掛け合わせた言葉で、コロナを経て普及してきたテレワークが、さらに進化した形として浸透しつつあるが、実際、住み慣れない土地に滞在しながら仕事に集中できるものだろうか。Wi-Fi環境は?子どもの反応は?この夏、フィリピンでワーケーションを経験した2家族に取材した。 「遊んでいると思われぬように」女性会社員が語るワーケーションの心構えとは (テレビ朝日報道局 今村優莉)
「日本と真逆の生活させたい」信号機のない離島へ
横浜市に住む40代の会社員女性は、小3の長男、小1の長女の夏休みを利用して4週間、フィリピン・ドゥマゲッティに滞在した。 首都マニラから国内線で約1時間半、ネグロス島の南東に位置する人口13万人の小さな町。フォーブス誌が選ぶ「リタイア後に最も住みやすい場所2014」にランクインするなど、豊富な自然と治安の良さ、生活単価の安さで知られるのどかな学園都市だ。公用語は英語であることから、近年は英語の語学留学先としても人気だ。市内に信号はなく、移動は徒歩か、トライシクルと呼ばれる三輪タクシーがほとんど。 「子どもに普段とは真逆の生活を味わってもらいたいと思ったのがきっかけ」と女性は話す。実は、ドゥマゲッティでのワーケーションは、昨年に続き2度目という。
週5000円のインターナショナルスクール
勤め先のIT企業では普段からテレワークが認められているが、もともと「パフォーマンスを上げるためにも、場所はときどき変えたいと思っていた」。2022~23年の年末年始に、夫の赴任先だったシンガポールを母子で訪れ、1カ月間、初めてワーケーションに挑戦してみたところ「できる」と自信を持ったという。 日本とは生活習慣全般が違うところで過ごしたいと考えていたところ、ドゥマゲッティに長年の友人が住んでいたこともあり、昨年から、夏をこの地で過ごすように。幸い、一人あたり週約2000ペソ(約5000円)ほどで短期の生徒を受けて入れてくれるインターナショナルスクールが近くにあり、英語の訓練も兼ねて、子どもたちを通わせた。昼間、子どもたちが学校にいる時間を利用して、女性は宿泊先でテレワークに励んだ。
放し飼いのヤギや牛 バナナの木々くぐり抜け通学
筆者は、そんな親子を訪ねて8月中旬、ドゥマゲッティを訪れた。 朝8時。兄妹はそろって、宿泊先から徒歩約5分の学校へ。日本ではすでに朝9時。オンライン会議があることもあり、兄妹2人は現地で雇ったパートタイムのシッターさんに送ってもらう。見上げるようなバナナの木々をくぐり抜け、放し飼いされている牛やヤギ、雄鶏たちのそばを通りすぎて通学する。 給食というシステムはなく、昼食は学校敷地内にある食堂で子ども自身が支払って食べる。女性は2人に、おやつも含めて1日150ペソ(約400円)を渡していた。自分で計算する訓練も兼ねたそうだ。午後4時に授業が終わると、校庭で遊んだり、シッターさんと散歩したりして、5時ごろ宿泊先に“帰宅”する。そのころ、日本では午後6時。女性の業務もひと段落する。 宿泊先は、長期滞在者向けの施設で、価格は日本円で1泊6000円ほど。キッチン設備、調理器具やダイニングセットが備え付けられており、掃除や食事の支度は自身で行う。洗濯機はないため、週に数回、近くのクリーニング店を利用する。
Wi-Fi3つ準備…「遊んでいると思われぬように」準備は念入り
「はじめは、ただ仕事ができれば良いや、くらいに思っていたんですけど、うれしい誤算がありました」と女性は振り返る。 「仕事のオン・オフがはっきりつけられました。日本の自宅でもテレワークできますが、ご飯を作りながらメールをチェックしたり、なんとなくダラダラと仕事を続けてしまっていた」。ワーケーション中は、夕方に子どもが帰ってくると、マーケットに足を運んで新鮮な果物を買って食べたり、海辺に出かけて夕日に赤く染まる空を見に行ったり。 「子どもが帰ってきたらいろいろなところに行こうと思うと、それまでに業務を終わらせようと逆算してエンジンをかけるんです。だから、逆に仕事の効率は上がりました」と話す。 南国のリゾートというところも大きかったようだ。時間がゆっくり流れる離島のフィリピン人と過ごすうちに、自身の行動もせかせかしなくなった。「自分の考えも柔らかくなったというか、今までやっつけ仕事だったルーティンワークも、『ちょっと工夫してみようかな』とか『新しいやり方にチャレンジしてみようかな』と思えるようになりました」
社内に経験者ほぼおらず「後続を増やすためにも成果だしたい」
ワーケーションの課題や心がまえについてはこう語る。 「あいつ、遊んでいるなと思われないように、むしろワーケーションしている期間は、普段よりも高い成果を出すことを目標にしています。『日本にいる時よりもパフォーマンス高いね』と言ってもらえるようにしないと、周りの理解は得にくいかもしれません」 ワーケーション中に特に減らした業務はなかったそうだ。チーム員と業務の進捗を共有する週6回の定例ミーティングも変更しなかったし、不定期に行う企画会議も、普段通りオンラインで進めた。ただ一点だけ、リアルでやったほうが良い仕事があった。「これから形にしていく新しいアイディアについて話し合う会議です。ホワイトボードに付箋を貼っていって・・・と、リアルで集まるほうが効率が良いんです」。それについては、ワーケーションに入る前に集中してリアル会議の日程を組んだという。 上司やチームメンバーからは快く送り出してもらっているが、社内での実践例はほぼない。だからこそ、普段よりも業務に集中して、高いパフォーマンスを出し、後に続く人々を増やしたいと考えている。「ワーケーションしていると業務効率が落ちる、と思われたら他の希望者が取りづらくなる。本人や上司のハードルを低くすることも目指している」と明かしてくれた。 そのために、テレワークに欠かせない通信インフラは念入りに準備した。「日本から借りたモバイルWi-Fiに加え、フィリピン内でも回線が安定している2つの通信会社のWi-Fiを契約して、どれが落ちても大丈夫なようにバックアップを万全にしました」
通じぬ言葉、流せぬトイレットペーパー... 子どもたちの反応は?
子どもたちと過ごす時間にも変化が生まれた。「海でサンゴを見たり、魚を見たり。何かを一緒にするという機会が増えて、それに対して『こうだったねー』と話す時間が増えた」。日本と違って排水管が細く水流も弱いフィリピンでは、トイレットペーパーをトイレに流すことはご法度だ。すぐに詰まるからだ。そうした不便さも、子どもたちと話すと「そうなんだー」と、すんなりと受け入れたそうだ。 さて、子どもたちはどうだろう? 小3の長男は「英語はまったくわからなかったけど、学校が自由すぎて面白かった」と話す。 ――どう面白いの? 「授業中にお互いの席を歩き回ったり、お菓子食べたりしても怒られないよ。みんな自由で、日本の学校ではありえないけど、楽しかった」と、日本との違いを楽しんでいる様子だった。 ――英語が分からないことで、つまらなくなかった? 「うーーん。でも、サッカーとか一緒に遊べるし、お友達はたくさんできたよ!」と言う。 子どもたちの順応力は、大人が思うよりもはるかに優れているようだ。 女性はこう話す。「子どもたちには、英語がうまくなって欲しいというよりは、いろいろなことを感じ取ってくれれば良いなくらいに思っていたけど、フィリピンから戻ってきたあと、『お友達ともっと話せるようになりたいから英語の勉強したい』とか『スキューバダイビングをしたいから水泳の習い事を頑張る』と自発的に言うようになってくれた」 来年は別の東南アジアの国にも行ってみたいという。
欧米よりもアジア…価格だけでない理由とは
都内に住む弁護士の遠藤千尋さん(40)も、この夏にフィリピンとマレーシアを訪れ、ワーケーションを経験した一人だ。 フィリピンで滞在したのは日本から直行便も飛んでいるリゾート地・セブ市。夫で小学校教諭の輝(ひかる)さん(42)の休暇に合わせ、1週間という期間だったが、十分にワーケーションの魅力を堪能したという。 自営業の弁護士として、委託元の企業からリーガルチェックなど法務業務をリモート受注するのが仕事で、コロナ以前から「場所にとらわれない仕事スタイル」を貫いてきた。海外生活慣れもしていたが、コロナの影響もあり、長男・昴(すばる)くん(4)を連れて海をわたったのは初めてだった。 「4歳の息子に英語の環境を体験させたい」と考え、昴くんと輝さんは、セブ市内の語学学校に短期入学。日中、父子が英語レッスンに励んでいる間、千尋さんは滞在先のセブのコンドミニアム内や、その後に飛んだマレーシアのホテルでテレワークをした。 基本、日ごろからクライアントとの打ち合わせやチーム員とのやり取りはすべてオンラインで済ませるので、飛行機に乗っている時間にだけミーティングがバッティングしなければ、「周りには海外にいることすらわからなかったと思います」と笑う。 「日本語だけの環境だった息子が、英語のコミュニケーションを楽しんでくれたことや、日本での生活が当たり前なんじゃないことを少しでも体験してもらえたのは良かった」と振り返る。将来は海外に移住することも夢だといい、現地に住む人々の話を聞いたり、教育現場を見たり、安くておいしいフルーツを堪能したり。リフレッシュしながら仕事に励めたという。 セブ島が初めてという輝さんにとっても、うれしい誤算があったようだ。父子2人で入学したものの、親元を離れることに慣れていない昴くんは、初日に泣き出してしまい、マンツーマンの授業が難しい状況に。学校と話し合い、担当の先生が輝さん、昴くんと一緒に行動する形で、学校の外でのレッスンに変更。結果、リアルな英語を使いながら市内観光もできて、充実した1週間になったという。昴くんもすぐに先生と打ち解けたようで、「知らない人にもハローと話したり、フレンドリーに接したりしているのを見て、さすが息子!と思った」と笑顔を見せた。
時差3時間でもキツイ...海外ワーケーションのカギは距離?
過去に海外旅行や海外ワーケーションを経験したことがある千尋さんは、フィリピンやマレーシアでのワーケーションは、価格面だけでなく時差も大事なポイントだと話す。 「例えばネパールだと日本よりも3時間早い。日本で9時にオンライン会議をしようとすると、現地では朝6時。この差は大きい。価格面だけを考えたら、ヨーロッパでも生活費を安く抑えられる国もありますが、ワーケーションを考えたら時差というポイントは大事になってきますね」
なぜフィリピン?人気の理由は価格・距離・時差 留学サポート専門家
英語圏を中心に海外留学サポートやジュニアキャンプなど、子どもの留学サポート事業を展開する近藤英恵さん(45)によると、コロナで一時「ほぼゼロ」だった海外留学の問い合わせや需要は、 今年になってようやくコロナ前の水準に回復してきたという。コロナ禍でテレワークへのハードルが下がったことで、ワーケーションが取りやすくなった親が、子連れで英語圏に滞在したいという需要が増えてきたそうだ。 「自分がワーケーションをしている間、子どもを現地の語学スクールに入れたい人は前よりも増えている」。背景にあるのは円安と英語教育への熱だ。「円の価値が下がり続けることを心配し、自分たちの子どもを世界を舞台に、外貨を獲得できる人材に育てたい、と望む親御さんが増えている」と感じる。 滞在先は圧倒的にフィリピンが人気といい、価格、距離、時差に大きな利点があると話す。「半月、一カ月も滞在するとなるとやっぱり欧米は滞在費が高くてハードルが高い。また『時差を感じずに日本の仕事ができる』『(昼夜逆転する北米に比べ)日本にいる家族や同僚とリアルタイムで連絡が取りやすい』『子どもの生活リズムが崩れにくい』という声を頂戴している。距離が近いから『何かあったらすぐに帰国できる』という安心感も大きいと思う」と話した。
テレビ朝日
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