Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9f653f4265fa99defe46bbaf1cefabd532071867
在留外国人から高い支持を集める海外送金サービスの「Smiles Mobile Remittance(以下、Smiles)」を手掛けてきたデジタルワレットが、7月に傘下のデジタルワレットソリューションズを通じてMVNOとして通信サービスを開始した。「Smiles Connect」が、そのサービス名だ。ターゲットは、日本で暮らしながらSmilesの送金を行う外国人。大手キャリアや一般的なMVNOとの契約のハードルが高かったユーザーに向け、安価な料金でサービスを提供する。 【画像】Smiles Connectのユニークな料金プラン 料金プランにも特徴がある。音声プランのデータ容量は3GB、10GB、30GBと一般的なMVNOに近いが、同社は大容量のデータSIMをセットにした「Combo」と呼ばれるプランを展開。2枚のSIMカードを組み合わせると、最大110GBのデータ容量を5478円(税込み、以下同)で利用できる。53GBのプランは、3278円と大手キャリアのオンライン専用プランに近い水準の料金だ。 では、同社はなぜ畑違いのMVNO市場に参入することを決めたのか。また、他社ではあまり見かけないComboプランを展開した理由はどこにあるのか。こうした疑問を、デジタルワレットに聞いた。インタビューには、デジタルワレット 執行役員 Deputy COOの梅川怜氏と、MVNO事業を展開するデジタルワレットソリューションズ Connect事業部 統括マネージャーの近藤樹奈氏、副統括マネージャーのリリア・ハウエンスタイン氏の3人が答えている。
外国人にとってハードルの高い「銀行口座」と「クレジットカード」
―― 最初に、デジタルワレットの主要事業からご説明いただけないでしょうか。MVNO以外に、普段はどのようなことをやれているのかを改めてご説明ください。 梅川氏 デジタルワレットは2014年に創業した会社で、ソニーで電子マネーやFeliCaをやっていたメンバーが立ち上げました。もともとB2Bの受託開発を行っていましたが、FeliCaやおサイフケータイの事業で金融のシステムを作るノウハウがあったため、それを用いてB2Cの国際送金サービスであるSmilesを立ち上げています。それが2017年のことです。 最初はフィリピン向けのサービスとしてスタートし、今は全世界、200以上の国や地域にモバイルアプリだけで国際送金ができるサービスになりました。17年当時は海外送金も、アプリだけで完結するサービスが他にありませんでした。日本にいる外国人の方が母国に仕送りするための送金を日常的にしていますが、銀行などに行き、窓口で手続きすることが多かったのです。 当時も日本の銀行にはモバイルで完結するサービスはありましたが、それを海外送金に取り入れた形です。外国人の中には毎週のように送金する方も多いのですが、「窓口に行かなくてもいい」「夜にも送金できる」という利便性が広がり徐々に規模を拡大してきました。 ―― 一見、MVNOとはあまり関係なさそうですが、通信に参入した理由を教えてください。 梅川氏 海外送金はモバイルで完結するということで、アプリ自体も使いやすいUI(ユーザーインタフェース)にこだわって開発してきました。他社も後発でもモバイルアプリを展開してきましたが、その中でも弊社はどんどんユーザーを獲得でき、特にフィリピン人の中ではかなりのシェアを持っています。このように規模が拡大するのに伴い、外国人の方が日本で生活していく上で、インフラサービスを日本人と同じように使えないという課題が見えてきました。 海外送金に関しては、われわれがサービス提供することで解決でき、便利になっていた一方で、銀行口座やクレジットカードを作りたくても身分証明書や与信の問題があって申し込んでもできないということが課題として残っていました。クレジットカードが作れない、銀行口座が持てないとなると、契約時にそれが求められる携帯電話の契約にも支障が出てきます。 中には契約できるところもありますが、ここ数年で一般的になっていたMVNOのような、安い通信プランを提供している会社とはなかなか契約ができませんでした。銀行口座やクレジットカード以外にも、言語の問題があって日本語でしか申し込みのフローが提供されていないこともあります。大手だとさすがに英語のメニューはありますが、例えばベトナム語やインドネシア語まで準備しているところはまずありません。 それでもがんばってキャリアショップに行き、手続きできたとしても、プラン変更や機種変更でまた大変な思いをします。安い料金プランが出てきたとしても、それに乗り換えるのが難しい。オンラインで申し込みが完結するようなところだと、どうしてもクレジットカードがいりますからね。クレジットカードがないから、端末を割賦で買えないという問題もあり、なかなか日本人と同じように便利で安いサービスが使えません。弊社のユーザーが増えるのにつれて、このような声も集まってきていました。 われわれはモバイルサービスを提供している会社なので、「送金しようとしても(MVNOで)昼休みの通信速度が出ず、使えなかった」という声も集まってきます。そういった通信環境を整えたいというニーズもあったため、ミーク(ソニーネットワークコミュニケーションズから切り出して独立したMVNE)とお話をしてMVNOとしてサービスを提供するに至りました。 ―― なるほど。確かに銀行口座もクレジットカードもないとなると、通信サービスの契約が難しくなりそうです。 梅川氏 外国人の方の多くは、支払い方法の問題もあり、水道、ガスなどのインフラ系の料金の口座引き落としを設定できません。そのため、コンビニ払いをしている方が結構多い。ただ、毎月コンビニに行くのが面倒で、うっかり忘れて止まってしまうといったこともあります。クレジットカードも外国人向けは条件が厳しく、枠が5万円だったり10万円だったりと少なかったり、有効期限が短かったりで、金融サービスを満足に利用できない現状があります。 ハウエンスタイン氏 私も今まで結構苦労してきましたし、外国から来た友人も同じような問題を経験しています。梅川が説明したように、日本で発行されたクレジットカードを外国人が持つのは非常に難しい。人にもよりますが、2回、3回と審査に落とされ、何度も申し込む必要があります。ただ、私が初めてSIMカードを探したときには、全サービスにクレジットカードが必要でした。クレジットカードなしでよく、その上で言語対応のサポートがしっかりしているサービスはほとんどありません。サイトがあってもページがしっかり翻訳されていなかったりする。そんなことを考えながら、Smiles Connectのサービスを作りました。 梅川氏 英語のページが用意されていても、日本語と違って内容がペラ1でまとめられていることもありますよね。
日本人向けMVNOサービスと同等の月額料金に
―― 確かに、言語を切り替えると全然詳しいことが書いてなかったりすることはありますね。 梅川氏 弊社は国籍でいうとフィリピンが一番多いのですが、ベトナムやインドネシアがそれに続き、最近ではネパールも増えています。特に技能実習生はベトナムから来る方が多く、最近ではコンビニなどでも働いています。ただ、ベトナムの方は英語ができないことも多い。日本語は勉強してから来るのである程度の会話はできますが、携帯電話のサービスには難解な言葉が使われていることが多い。IT系だと片仮名も多いですからね。 Smilesはもともと8つの言語に対応しています。Smiles Connectはその中で利用割合の高い、英語、ベトナム語、インドネシア語、ネパール語の4言語に対応しています。コンテンツは全て翻訳してある他、ユーザーサポートもネイティブの言語で対応できるようにしているのが売りの1つです。 SIMカードを入れてAPNを設定してというのも、自分の言語ではないとなかなか分かりづらいですからね。ユーザーにとってもネイティブの言葉でサポートを受けられるのは大きい。外国人の不安を解消することには力を入れています。 ―― とはいえ、銀行口座やクレジットカードがないと、そのまま滞納されてしまうリスクもあると思います。何か対策は取っているのでしょうか。 梅川氏 外国人の方は在留期限が決まっているので、更新しない限り延長ができません。事業的には、そこがリスクではあります。こうした事情もあり、外国人向けのSIMカードのサービスを提供されている会社は他にもありますが、どうしても料金が高めです。ただ、それらと同じサービスをしても意味がありません。弊社はなるべく安い料金で提供したいと思っていたので、初期費用としてあらかじめいくらかデポジットを入れていただき、一定期間使っていただいたらお戻しする仕組みにしています。その結果として、月額料金に関しては、日本人が一般的に契約するMVNOと同等レベルにすることができました。 ―― 銀行口座やクレジットカードの契約がしにくい外国人向けという前提だと、料金の回収が難しくなりそうです。ここはどのように解決しているのでしょうか。 梅川氏 弊社の送金サービスはウォレット型なので、海外送金するための残高があります。それで決済ができるようにしているので、入金方法は海外送金と同じです。今は4つの銀行と提携していますが、ATMや銀行振込でウォレットに入金いただければ、その残高でモバイル通信の料金も支払えるようになっています。新たな支払い方法を追加する必要はありません。お客さまの課題となっていたことがまとめて解決でき、相性もいいと思います。
送金サービスと連携して“本人確認のハードル”もクリア
―― 契約は、Smilesを使っている方に限定されているのでしょうか。 梅川氏 送金サービスのモバイルアプリの中から申し込みや計画内容の確認、手続きができる形を取っています。携帯電話、特に音声通話付きの場合、本人確認が必須になっていますが、外国人だとその部分のハードルが高くなります。弊社の場合、送金サービスは資金移動業者のライセンスで提供しており、そこで本人確認を行っています。その確認が完了していれば携帯電話も契約できる形で、楽天モバイルがやっているもの(楽天カード、楽天銀行などの契約を生かして本人確認を簡略化する仕組み)と同じですね。 逆に送金サービスに登録していない方は、(携帯電話用の)本人確認が終わると、自動で会員登録がされSmilesを利用できるようになります。その意味で、現状はSmilesとSmiles Connectは一体となっているといえます。ただ、送金サービスだけは他社のものを使いたいという方も当然いらっしゃいますので、この辺の設計は追って変更し、分離していきます。通信だけで契約できるようにする構想はしています。 ―― 母数の大きい送金サービスのユーザーに通信を提供するビジネスモデルだと思いますが、逆に通信で獲得したユーザーを送金のサービスにつなげていくような狙いもあるのでしょうか。 近藤氏 はい。実際、ローンチのころから、Smilesを使っていない方が入ってくださることもあります。通信の方に魅力を感じて入ってくださるようです。そういった方々が別の送金サービスから弊社の送金サービスに移行できるよう、アプリ内でポイントの付与も行っています。そのポイントは現在、送金サービスで使えるようになっていますが、ゆくゆくはSmiles Connectにも対応していきたいですね。お手頃に、両方を使っていただければと考えています。
2枚のSIMをセットにした「Comboプラン」を提供する狙い
―― MVNEとしてミークが支援したことも発表されています。やはり“ソニーつながり”もあったのでしょうか。 近藤氏 弊社の代表が元ソニーということもあり、そのつながりでつないでもらって、お話を聞かせていただきました。 梅川氏 他にもいくつか検討したうえで、最終的にミークに決めています。 ―― 先ほど送金したいお昼休みに遅すぎて使えないというお話もありましたが、ミークをMVNEにすることでそういった部分は解決されているのでしょうか。 近藤氏 私どものサービスでも速度低下などは起こっているのが正直なところです。ただ、何時ぐらいに遅くなるというようなことはあらかじめお知らせして、困りごとがあった際には強みでもあるカスタマーサポートが即時お答えするようにしています。 梅川氏 MVNEを何社か検討する中で、ミークは通信品質にも定評がありました。料金や条件面などももろもろ加味した上で、一緒にしっかり展開できるということでミークを選ばせていただいています。 ―― ターゲットが一般のMVNOと違うこともあって、料金プランが独特です。特に2枚のSIMカード(もしくは音声のみeSIM)がセットになるComboプランは特徴的です。なぜこのような料金プランになったのでしょうか。 近藤氏 料金プランは、音声プランが3GB、10GB、30GBで、データ通信のみのプランが50GB、100GBです。2つをセットで契約するComboプランも用意しています。弊社のお客さまには日本の来られて大変な思いをしながら、母国に送金されている方が多い。日本で稼げる金額もそこまで大きくない中で、その一部を送金に充てています。ですから、価格はなるべく抑えたかった。そこで、音声プランとデータプランの50GB、100GBをセットにしたものを提供し、この価格を実現しています。 用途としては、2枚のSIMカードを別々のデバイスに入れるというのが1つです。例えばiOSの端末とモバイルWi-Fiルーターという形です。サービスの設計上、iOSだと2つのSIMを1つのデバイスに入れるのが難しいのですが、Androidだと1台に2つのSIMを入れ、音声通話を使いながら大容量の“ギガ”を安くできます。 梅川氏 背景として、自宅の環境があります。日本人だと自宅にWi-Fi環境がある方がほとんどだと思いますが、外国人の場合、そこにも契約の課題があります。そのため、自宅にWi-Fi環境がない方が一定数いらっしゃる。そういう方は、主にモバイルWi-Fiルーターを持っています。また、ルームシェアをしている方は、1台のWi-Fiルーターを共有して使っていることもあります。そういった方々には大容量のニーズがあります。50GB、100GBのSIMを用意したのはそのためです。 ―― なるほど。ユーザー層に合わせてのラインアップだったんですね。ちなみに、音声プランとデータプランは回線が別々なのでしょうか。 近藤氏 はい。音声はミークで、ドコモ回線を卸してもらっていますが、データ通信はソフトバンク回線です。Comboプランの場合、お客さまはその2回線を同時に契約する形になります。 梅川氏 ソフトバンク回線側は大容量で安いのですが、時間帯によって帯域制限がかかる仕様です。若干の制約つきではありますが、その分、かなり安く用意することができました。
音声はミーク、データはソフトバンクの回線を個別に調達
―― 「音声はミーク」とおっしゃっていましたが、逆にいえば、データプラン側のソフトバンク回線はミーク経由ではないということでしょうか。 梅川氏 はい。ミーク、ソフトバンクとは別々に契約をしています。 ―― なんと。つまり、御社がMVNOとして2つの回線を束ねて1つの料金プランとして提供しているということですね。 梅川氏 そうなります。1つのプランとして販売しているので、実は内部的には結構複雑なことをしています。社内で最初にやろうと言われたときには「マジかよ……」と思いましたが(笑)、何とかサービスにこぎつけました。確かに弊社側のオペレーションや管理はかなり大変になるのですが、その分、お客さまには大容量を低価格で提供できます。昼と夜間には6Mbpsという制限がかかり、4K動画を見るような用途には使えませんが、普通の利用方法であれば問題なく使えると思います。 ―― 利用者が多いのもやはりComboプランでしょうか。 近藤氏 そちらがかなり多いですね。また、データ通信のみでもお安くしている、かつ需要も高いのでその割合も高いです。逆に音声プランのみは、高年齢層でそこまでギガが必要ないという人に3GBが選ばれています。 梅川氏 最初はもっとプランを絞って展開することを考えていたのですが、結局オプションを含めて日本人向けのMVNOと比べてもそん色ない形になりました。年配で電話を使うことが多い方は、安いプランにかけ放題を付けるケースもあります。 ―― 外国人の困りごとのお話で、クレジットカードがないから端末も割賦で買えないという事例を挙げられていましたが、今後、Smiles Connectとして端末を販売していくご予定はありますか。 梅川氏 検討はしています。スマホまで扱うとなるとなかなか難しいかもしれませんが、先ほど話に挙がったWi-Fiルーターもニーズは高い。そういった端末を売ってないのかという声もいただいています。在庫の問題もあるので、実際にやるかどうかは検討が必要ですが、将来的には扱いたいと思っています。 ―― まだサービスを開始して2カ月たっていない中で恐縮ですが、契約者数の目標はありますか。 近藤氏 将来的には、100万回線までいきたいと考えています。 梅川氏 目標は高くです。そこまでいくと、MVNOのトップ3に入ってしまいますが(笑)。ただ、外国人の方が困っていることが多いので、ニーズはあります。現状でも日本に300万人の外国人が住んでいるといわれていますし、労働力が足りない中、政策として割合や人数が増えていく方向でもあります。そういった方々に向けたサービスとして、一定のシェアを獲得したいと思っています。
取材を終えて:金融と通信の相性を生かした、MVNOのお手本のようなサービス
大手キャリアの手掛けるサービスを見ても分かるように、金融と通信は相性がいい。特にSmiles Connectの場合、ターゲットは銀行口座やクレジットカードの契約がしづらい外国人のため、その相乗効果は一般的なキャリアよりも高いといえそうだ。自社の強みを生かしつつ、大手キャリアが攻め込めていない領域を狙うという意味では、MVNOのお手本のようなサービスだと感じた。 ターゲット層が明確なこともあり、料金プランも非常に面白い。小容量の音声プランと大容量のデータプランを別個に調達し、1つにまとめて提供しているのは自社で直接大手キャリアと接続していないMVNOならでは。2カ所から調達したSIMを1つにまとめて提供するのは苦労も多そうだが、その成果として独自性も出せている。日本人向けのサービスと比べ、市場規模は限られているものの、そこに深く刺さればシェアを伸ばすことができそうだ。
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