Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0875ed89b73862770ff614f26b76fcdd1c8c7646
名古屋は、飛ばされることもある大揺れ
愛知県の南海トラフ巨大地震(過去地震最大モデル)による被害想定は、全壊・消失建物約9万4000棟、死者約6400人。そして、名古屋市の南海トラフ巨大地震(あらゆる可能性を考慮した最大クラス)による被害想定は、死者6700人、地震動による全壊棟数3万4000棟と推計している。 【画像】「南海トラフ巨大地震」で日本が衝撃的な有り様に…そのヤバすぎる被害規模 愛知県は南海トラフ巨大地震の強震断層域(津波断層域の主部断層)に近接している。そのため、県内の大部分が最大震度6強~震度7の極めて激しい揺れが想定されている。つまり、大都市の真下(深さ16km)で起きた直下型地震、阪神・淡路大震災(1995年)のような、凄まじい揺れが長時間続く可能性がある。阪神・淡路大震災の時、激しい揺れは約15秒間(破壊継続時間)だった。たった15秒で、死者・行方不明者6437人、重軽傷者43,792人、全半壊建物24万9180棟という、大きな被害を出した恐ろしい揺れだった。南海トラフ巨大地震が発生すれば、その恐ろしい揺れがもっと長く続く可能性がある。気象庁の震度階の説明を要約すると、「震度7の揺れに襲われれば、人は立っていることができず、はわないと動けず、揺れに翻弄され、飛ばされることもある。固定していない家具のほとんどが移動したり倒れたりし、飛ぶこともある。壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する建物が多くなる。補強されているブロック塀でも破損するものがある。木造建物(住宅)は傾くものや、倒れるものが多くなる」。 さらに、「耐震性が高い鉄筋コンクリート造建物でも、壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が多くなる。1階あるいは中間階が変形し、まれに傾くものがある。耐震性の低い鉄筋コンクリート造建物は壁、梁、柱などの部材に、斜めやX状のひび割れ・亀裂が多くなる。1階あるいは中間階の柱が崩れ、倒れるものが多くなる。さらに電柱や鉄塔が倒壊し、地面には液状化と共に大きな地割れが生じたり、斜面でがけ崩れが多発したり、大規模な地滑りや山体が崩壊したりする可能性がある」。となっている。 大地震というと、東日本大震災時の大津波の印象が強く、南海トラフ巨大地震が発生しても危険なのは海岸付近で内陸部は安全と、間違って認識している人もいる。しかし、沿岸であれ、内陸部であれ、大地震に備えるということは、まずは大揺れに備えること。建物の耐震診断・耐震補強、家具類の徹底固定、ガラス飛散防止フィルム貼付など、我が家を安全なシェルターにすることが第一である。まずは、大揺れから自分や家族の命が守れるようにすることである。 名古屋市のいいところは、多言語ハザードマップを作成していることである。名古屋市は洪水、内水氾濫、高潮、地震、津波、ため池、指定避難所マップの7種類のハザードマップをネット上で公開している。もちろん、それはどこの自治体でもやっていることだが、驚いたのはそれぞれのハザードマップが多言語に対応していることである。それも「日本語版」だけでなく、「やさしい日本語版」「英語版」「中国後版」「ベトナム語版」「フィリピノ語版」「ネパール語版」「ポルトガル語版」「ハングル語版」「スペイン語版」の9か国語に対応している。とくに、「やさしい日本語版」は、日本語を覚えたての外国人や子供でもわかるように、やさしい言葉になっていて、漢字にはすべてふりがなが振られている。 例えば、地震ハザードマップの日本語版では、ただ「液状化」と書いてあるが、「やさしい日本語版」では、「液状化(地震のゆれで地面がしずんだり、ぬかるんだりすること)」となっていて、震度も「震度」(揺れの強さ)と、本当に分かりやすい表現になっている。地震ハザードマップの説明も、日本語版では、「このマップは、本市が平成26年2月に公表した南海トラフで発生する地震の被害想定をもとに、市内各地で想定される震度や液状化の可能性などを示したものです。南海トラフにおいて千年に一度あるいはそれよりもっと発生頻度が低いが、仮に発生すれば甚大な被害をもたらす地震として『あらゆる可能性を考慮した最大クラス』の地震を想定しています」と書かれている。 それが、「やさしい日本語版」では、ふりがな付きで、「『地震ハザードマップ』は、『南海トラフで発生する地震』で予想されるゆれの強さや液状化の可能性などを示したものです。いろいろな場合を考えて、いちばん危ないときの南海トラフ地震(あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震)について予想しています。」となっている。 避難所運営についても、「避難所での外国人被災者対応マニュアル (指定避難所運営マニュアル別冊編)」を配布し、「避難所に外国人被災者が来た時の接し方」「ピクトグラム/災害時多言語シート」などがあり、言語だけでなく、文化・習慣の異なる外国人への、防災上の目配り・気配り・心配りを形にしている。22年末現在、名古屋市の外国人住民数は86,120人、市の人口に占める割合は3.7%。東京都、大阪府の2.8%よりも多く、外国人観光客も増加傾向にある。外国人に対するこうした名古屋市の防災上の目配り・心配りと優しさは、我々も学ぶべきものが多々あるように思う。
中京圏を、揺れ幅6メートル以上の長周期地震動が襲う
そして、名古屋市は震度6強~震度7の大揺れと共に、一部地域の超高層ビルでは最大揺れ幅6m以上の長周期地震動が想定されている。前述したように、国は柔らかな堆積層に立地する三大都市圏(東京、名古屋、大阪)では、南海トラフ巨大地震発生時には長周期地震動が励起されやすく、揺れの継続時間が長くなりやすいとしている。さらに、沿岸部では揺れ幅2~4mという長周期地震動が襲い、さらに中京圏や近畿圏の一部で超高層建物の上層階では揺れ幅6m以上の揺れになると推計している。揺れ幅4m~6m以上の揺れを想像してみてほしい。身の回りにある什器、備品が吹っ飛び、家具類が大きく移動し、勢いよく倒れるものがあり、人が飛ばされるほどの危険な揺れである。 東日本大震災の時、震源から600キロメートル以上離れた名古屋市は最大震度3(北区萩野通)~震度4(港区春田野)だった。ところが、名古屋ルーセントタワー(高さ180.2m、40階建て)の32階で仕事をしていた人は、「最初に結構大きな揺れが来た」「船に乗っているようなゆっくりとした揺れが何分か続いて、船酔い状態になった社員も何人かいた」「横揺れがすごくて、長く大きく揺れていた印象がある」だったという。 超高層建物のオフィスやタワーマンションの上層階居住者は、南海トラフ巨大地震の長周期地震動に備え、今のうちに家具・什器・備品の複数個所の徹底固定と合わせ、窓やガラスから離れた安全な場所に、姿勢を低くしてすぐに両手でつかめるように、床や壁に堅固な「飛ばされ防止手すり」の設置が急務である。00年以前に建てられたビルの長周期震動対策や高層マンションやオフィスの長周期地震対策の詳細説明は、前述の2-(4)項参照。 さらに名古屋周辺で懸念されるのが長周期地震動によるスロッシング(揺動)で発生する石油コンビナート火災である。自動車、航空機、宇宙産業など、東海・中京地区は製品出荷額が日本最大の生産出荷額を誇る一大工業地帯である。とくに伊勢湾沿岸は四日市市を始め、多数の石油コンビナートなどを有する一大石油化学工業集積地である。その多くの施設が埋め立て地、沖積低地などの軟弱地盤に立地している。 こうした湾岸部を長周期震動が襲えば、1964年新潟地震の時のように液状化だけでなく、石油タンクのスロッシング、浮屋根損壊、原油漏洩、大規模火災などを引き起こす可能性がある。新潟地震の時は12日間燃え続け143基の石油タンクが焼失し、日本の災害史上最悪の石油コンビナート災害となったが、南海トラフ巨大地震が発生すれば、湾岸部で揺れ幅4mの長周期地震動が襲うと想定されている。となれば、過去の石油コンビナート災害を上回る恐れもある。 万一伊勢湾内で石油類の流失や火災が発生すれば、長期間の港湾閉鎖も免れない。これは国家の損失であり、未曾有の国難となる。日本一の工業地帯は、今こそ大揺れ、大津波、長周期地震動に備え官民一体となっての具体的対策の実施が求められる。そして、その対策が適正に実施されているかを、第三者による防災パトロールが必要となる。長周期地震動によって発生する結果事象や対策は、前述の<じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値>以降の記事を参照してほしい。 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>もぜひご覧ください。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)
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