Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9d635e8535ce878f6ee92a37bdfc57540688ba9d
【実録・人間劇場】 インバウンド需要が急激に高まっている日本では、最近、外国人に「宿坊」が人気のようだ。宿坊とは寺や神社の境内に設けられた宿のことで、本来は僧侶や参拝客のための施設である。しかし、近年は観光客の受け入れにも積極的で、座禅や精進料理といった修行体験のプログラムを用意している施設もある。これが外国人にすこぶるウケているという。 私も日本では一度だけ和歌山県の高野山にある宿坊に3泊したことがある。ただ、寺にまったく興味がない性分であるため、することがなさすぎて苦痛だった。中庭にある池で泳いでいるサンショウウオをひたすら眺めていた記憶しかない。 ただ、インドのハリドワールで泊まったヒンドゥー教の宿坊での体験はとても貴重なものだった。ハリドワールはネパールとの国境に程近い北部の町で、ヒンドゥー教の聖地の1つと言われる宗教都市である。 インドの宗教都市と言われて真っ先に思い浮かぶのは「バラナシ」だ。バラナシには84のガートと呼ばれる広場があり、そこでは巡礼者が身を清めるために沐浴(もくよく)をしている。ただ、バラナシのガンジス川には火葬場で焼かれた人の死体が流れているなど衛生的にはかなりよろしくない。インド人のまねをして沐浴をした観光客がのたうち回るくらいに体調を崩した…なんて話はよく聞く。 一方、ハリドワールを流れるガンジス川は、バラナシとは比べものにならないくらいにきれいである。それでも自分は遠慮してしまったが「ここなら沐浴してもおなか壊さないよ~」と現地に住むインド人が言っていた。そんな背景もあり、宿坊が盛んなのだ。 ニューデリーからバスに乗ること約6時間。ハリドワールに到着した私は1泊1000円ほどの宿坊にチェックインしたのだが、ホールで日本人女性が僧侶を罵倒している。女性はヒンドゥー語を操るようだったが、感情が高まると、ときおり日本語が交ざる。 「この寺の誰かが盗んだに決まってんだわ! いいから早く監視カメラ見せろオラ!」
どうやら宿坊で財布を盗まれたようで、ここで生活している僧侶の仕業だとにらんでいるみたいだ。結局、監視カメラは作動していなかったとかなんとかで見ることはできず、最終的には警察までやってきたが彼らが捜査するわけもなく、真相は闇に葬り去られたのだった。
夕方、食堂に集まり、僧侶たちとダルバート(豆のスープと蒸した米)を食べた。その後、広い寺院の中を歩き回ったが、僧侶たちはそのへんでコーラを飲んだり、トランプをしたり、物思いにふけったりしている。朝は早いが、近所を回って托鉢(たくはつ)を済ませた後は特にすることもない。僧侶たちの体はたるみにたるんでいた。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。
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