Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/a44186aacc205d7ebcc10c38de6f2b8520ab3b23
5月中旬、人材派遣会社の社長らが逮捕された。容疑はベトナム人、ネパール人の男女2人を群馬県の建築資材工場で、資格外の労働をさせたこと。2人の外国人は国際業務などの高度な在留資格で入国しており、単純労働させることは違法だった。 【表】在留外国人数の推移(入国在留管理庁HPより) この報道に対し、ネット上のコメントは「なにがダメなの?」「別にいいじゃない」といった声が多数を占めた。
外国人の在留資格を管理する入管法
外国人が合法的に日本に滞在し、活動するには在留資格が必要となる。その管理は「出入国管理及び難民認定法」(入管法)によって公正に行われている。今回のように、大学卒業などによる知識を活かして働く人は「技術・人文知識・国際業務」という在留資格が与えられており、いわゆる工場で働くような単純労働は許可されていない。 「毎年多くの外国人労働者が入国してくる中で、無秩序に在留資格を与えてしまうと、日本人の職を奪うことにもなりかねません。入管法7条1項2号に”我が国の産業および国民生活に与える影響その他の事情を勘案し”とあり、それにのっとって、人手不足が顕著な業種などを見定めながら、在留資格を厳格に区分して、労働力を調整しているんです」 こう解説するのは外国人雇用問題に詳しい、杉田昌平弁護士だ。 いまや日本の労働市場は、外国人労働者なしには回せないといえる深刻な人手不足。だからといって、誰でも無秩序に海外人材を受け入れてしまえば、弊害が出てくる。そこで、外国人労働者の出入りを法律によってコントロールしている。
進む入管法改正の目的とは
日本は長らく「人手不足」のための外国人労働力確保を表立ってはしてこなかった。反発の声も少なくなかったからだ。その姿勢を転換し、明確に人手不足解消の一環として外国人人材の活用を解禁したのが2019年施行の特定技能制度だ。この時改正された入管法がいままた、改正へ向け着々と動いている。 「これまで、外国人材活用のひとつに技能実習制度がありました。その名目は、国際貢献を見据えた技術移転です。その後、人材確保を名目にした特定技能制度が2019年に施行され、さらにより日本の情勢と合わせるため、人材確保に加え人材育成を目的とした新たな外国人雇用制度『育成就労』へシフトさせようと動いています。つまり、制度を日本の人材不足の現状によりフィットせるための改正ということです」(杉田弁護士) 「育成就労」では、基本的に3年間の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成していくことを目指す。実質的に技能実習を吸収し、代替する仕組みとなる。特定技能制度は日本の現状に合わせながら適正化を図り、技能実習が担った役割を一部受け継ぐ形で存続する。
日本が「選ばれる国」といえる理由
この法改正にあたっては、「外国人材に選ばれる国に」がキーワードとされている。技能実習では、ブラックな職場やブローカーによる高額な渡航費用などがたびたび問題となっただけに、そうした課題を解消することで、日本で働く魅力につなげ、他国に負けず、より優秀な人材を多数呼び込もうという思惑だ。 「技能実習では確かに、過酷な労働環境や渡航費用が問題になりました。実はそうした企業は外国人材に対してだけそうだったわけでなく、そもそもブラックな性質の職場だったんです。渡航費用の問題も、国際労働市場において、国と国のやりとりになるので中間業者は不可欠で、費用が高額になるのはそれだけ競争が激しい裏返しでもあるんです」と杉田弁護士は、国際労働市場の実状を明かす。 この問題は、日本の実状を点でみてもその本質は捉えられない。例えば、容易に外国人が出稼ぎできる国のひとつにカタールがある。同国ではなんと、1か月数万円の費用で就労できる。そのため、自国で十分に稼げない移民労働人材が同国に殺到するが、そこでは大きな代償が待ち受けている。 「カタールのW杯では多くのネパール人がカタールに出稼ぎに向かいました。ところが、多くの出稼ぎ労働者が死因不明のまま亡くなっています。要はカタールでは人材を”ダース”で考えているんです。そのため低コストで済んでいるという実態があります。育成という観点で外国人材を受け入れる日本のような国は国際労働市場でもまれな存在。安全も大きな付加価値となって、すでに日本は”選ばれる国”としての資質を備えているんです」(杉田弁護士)
毎年22万人の外国人労働者が流入する日本で持つべき発想
オフィス、建設現場、コンビニエンスストア、飲食店…。いまや、日常で目に触れるほとんどの施設や職場で外国人労働者を目にする。その裏では、入管法で必要な分野・人数を計算しながら、外国人労働者の出入りが管理されているわけだ。 「日本には毎年約22万人(※)の外国人労働者が流入しています。もう10年ほど前から日本は国際労働市場につながっているんです。1990年代まであったいわゆる新卒の60万人の労働力がゴッソリなくなったいま、外国人労働者はもはや日本にとって不可欠な存在。そのことは多くの日本人も肌感覚として理解しているのではないでしょうか」(杉田弁護士) ※「外国人雇用状況」の届け出状況(厚労省発表) 外国人労働者が毎年増え続ける一方で、少子高齢化で減っていく日本人…。法務省の最新データでは、2023年末の在留外国人の数は、341万992人(前年末比33万5779人、10.9%増)で、過去最高を更新した。ダイバーシティという言葉を使うまでもなく、日本が外国人労働者との共生が当たり前の社会へとシフトしていくことはもはや必然だ。だからこそ、と杉田弁護士は提言する。 「買い物をしたコンビニのレジに外国人がいたら、『この人はどんな国際労働移動のルートをたどってここにたどり着いたんだろうか』と少しでも意識してほしいですね。国際労働市場においては本当にひどい就労環境がある一方で、日本はとても安全な国。今後、日本を出て海外で働く人も増えていくだろう状況下で、そうした視点を持つことは国際労働市場をしっかりと理解する意味でもより重要になってくると思います」 閉鎖的国家・日本は今や昔。いわゆる外国人問題を考えるにしても、旧来の物差しでなく、抜本的な発想の転換が求められるタイミングにいま、さしかかっている――。
弁護士JP編集部
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