Source:https://www.undp.org/ja/japan/blog/kyoko-yokosuka-interview
![a group of people sitting at a table in front of a crowd](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/undp-tok-yokosuka-interview-2.jpeg)
洪水で被害を受けたカーブレにて
2024年8月からネパール常駐代表としてUNDPで勤務されている横須賀恭子さん。これまでに、ウズベキスタン、ラオス、バングラディシュで常駐副代表を歴任され、UNV事務局次長も務められました。さまざまな国、本部と現場での経験を持つ横須賀さんに聞く、ネパールの課題、現場で働くことの意味とは。
横須賀さんが常駐代表として勤務されているネパールでは、災害・気候変動関連の課題が多くあると聞きます。具体的にどのような課題があるのでしょうか。
まず、ネパールでは地震が多いです。ネパールの北方にあるヒマラヤ山脈は、インド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートに衝突し沈み込んでできたものです。そのため、特に山間部の地域では多くの地震が発生します。2015年には、首都カトマンズの近郊でマグニチュード7.8の地震が発生し、約9,000人の死者が出ました。また2023年には、ネパール西部のジャジャルコットでマグニチュード6.4の地震が発生し、1,000人以上の死者・負傷者が出ました。
![map](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/nepal_map2.png)
ネパールの地図
他には、気候変動の影響で洪水の頻度が高まっています。特に、氷河湖決壊洪水(GLOF: Glacial Lake outburst flood)という、氷河湖が決壊することで起こる洪水は深刻な問題です。ヒマラヤ山脈の氷河が温暖化で溶けてきているので、鉄砲水のような圧力の強い洪水のリスクが高まっています。最近のリサーチでは、ネパールだけでも27の危険な湖があると言われています。洪水や地震の後の地滑りも非常に多いです。山岳地帯に関連した災害が多いという意味では、日本と似ているのではないかと思いますが、日本ほどインフラ整備が進んでおらず、住宅の耐久性も低いため、対策が十分とは言えません。
ネパール政府の対応能力にも、改善点があるように感じます。ネパールは連邦制の国なのですが、その連邦制が2015年の新憲法制定によって始まったばかりで、市町村、州、国レベルの政府の連携やシステムがまだ十分に整っていません。特に災害対応のような優先度の高い分野では、災害時の協力体制の確立が重要な課題だと思います。
![a group of people on a mountain](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/undp-tok-yokosuka-interview-1.jpg)
氷河湖
これらの課題に対するUNDPの取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。
UNDPは1963年からネパールで活動しています。昔から災害が起きやすい国なので、UNDPは長年にわたり、主要な支援の一つとして災害対策に取り組んできました。活動の幅はとても広く、インフラ整備、早期警報システム、意識向上の取り組み、防災関係省庁の能力開発、政策提言、長期的な投資のためのニーズアセスメント、災害対応や早期回復のための労働に対して現金を支給する「キャッシュ・フォー・ワーク」、住宅の再建などを含めた災害の緊急支援などを実施しています。特に、UNDPの強みは能力開発分野です。能力開発とは、個人や組織、社会に能力を与えることで変革を目指すことを指します。例えば、ネパールの災害対応では、災害対応の管理を誰が、どの部分でやるかについての調整などを行い、災害時の行政の対応・連携能力向上を目指しています。これまでは、現地のNGOとのパートナーシップや市町村レベルの政府と連携したアプローチが多かったですが、現在は市町村レベルの政府と連邦政府をどう繋げるか、複数の地域で問題が起こった場合にどう調整していくかなど、手探りで支援を行っています。
ネパールの人間の安全保障と開発を推進する上での日本との連携をどのようにお考えですか?
日本とネパールは1956年から国交を結んでいて、日本はネパールにとって長年の重要なパートナーです。日本も山岳地帯が多く、地震などの災害が多く発生する国ですので、同じ苦悩を共有する国として日本の発言にはすごく重みがあると感じます。ネパールには親日の人も多いので、日本への信頼は厚いと思います。
2023年3月から日本はUNDPと「地域気候行動による人間の安全保障の強化(EHSCA)支援」を実施しました。このプロジェクトは人間の安全保障に焦点を当て、適応農業、エネルギー、早期警報、コミュニティ・インフラ、能力開発などの“ローカルアクション”を通じて、気候変動への適応やレジリエンス向上を目指すものでした。
このプロジェクトを実施する中で印象的なエピソードがありました。2023年に発生した地震でこのプロジェクト現場は大きな被害を受けました。UNDPはプロジェクトの一環で、ちょうど捜索救助のトレーニングを約50人を対象に行ったのですが、そのトレーニングを受けた人々が地震直後、すぐに現場に入って人命救助に貢献することができたのです。これは、このプロジェクトがネパールの人々のレジリエンス向上に貢献した例として挙げられると思います。
他にも、1,100人以上に対しての能力開発を行ったり、地震の被害を受けた3,000世帯に対して改良型調理ストーブや太陽光発電設備を導入したり、多くの成果がありました。 プロジェクトは終了しましたが、2024年12月にこの教訓や成果をネパールの他の地域に共有するためのワークショップを実施しました。ワークショップには政府関係者やネパール7州すべての代表者など、あらゆる開発パートナーが参加しました。このプロジェクトの成果を祝福するとともに、地域レベルでの気候変動適応とレジリエンス向上に対する包括的なアプローチの重要性を共有しました。プロジェクトを紹介するためのフォトブックも発表され、プロジェクト対象地域の災害・気候変動へのレジリエンス向上だけでなく、活動を全土に広げるための基盤を築くことができました。この素晴らしい取り組みがネパール全土に広がることを願っています。
![a group of people posing for the camera](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/pr_coffeebook.jpg)
ワークショップでプロジェクトを紹介するフォトブックが発表された
2024年8月にネパールに赴任された感想は?
直前のUNV本部での仕事はとてもやりがいを感じていましたが、現場ネパールに赴任したのは、現場に戻りたいという気持ちが強かったためです。 今実際に現場に戻ってきて、自分にあった決断だったなと思っています。
ネパールに赴任して以来、これまで4回ほど現場視察に行きました。私の場合、資料を読むより、現地現物により、より多くのことを吸収できると考えているので、できるだけ現場に足を運ぶようにしています。
最近では、2023年の地震の被災地であるジャジャルコットに行ったのですが、地震から1年経ってもまだ仮設住宅に住んでいる人たちが沢山いました。そして、彼らのフラストレーションを肌で感じました。私は被災者に対する支援において、住宅支援が特に重要だと思っています。仮設住宅はありますが、子どもや女性にとって、特に冬は、とても厳しい環境です。新しい家を建てたくても、資金へのアクセスが難しいのです。私はこの問題に対してUNDPに支援できることがあるのではと考えています。政府側は被災者を支援する資金を提供しようとしていますが、実際に支援を必要とする人々には届きづらい現状があります。例えば要因として、資金援助申請の複雑なプロセスを途中で断念してしまう人が多いことや、長期的な資金援助体制が整っていないことが挙げられます。資金援助へのアクセスを支援するための資金が割り当てられていないのです。似たようなケースが2015年の大地震の時もあったのですが、当時はコミュニティでボランティアを募って、その人たちを農村に派遣して、必要なデータやIDの取得を手伝ってもらうという活動をしました。今回被災地で、被災から1年経っても資金が割り当てられていない現状を目の当たりにした時に、同じような活動の必要性を感じました。このような具体的な課題は実際に現場に行くことで気付くことができることだと思います。
![a group of people standing on top of a mountain](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/jajarkot-2.jpg)
ジャジャルコットに出向き、現地の人の話を聞く横須賀ネパール常駐代表
UNDPでの活動において横須賀さんの原動力は何ですか?
現場に行った時に現地の人々からエネルギーをもらうことです。この前、司法へのアクセスに関する(Access to Justice)プロジェクトのために現場に行きました。UNDPはこのプロジェクトを通して、特に女性や貧しい人、社会から疎外された人々が自身の権利を知って、有事の際に自分の権利を守れるようにするために様々な活動を行っています。その時に、彼らが自分たちの問題について、とても具体的に話してくれました。ある方は、司法委員会に相談しに行ったことでさまざまなサポートを受け、それがなかったら自殺していたかもしれないという話をしていて衝撃を受けました。このように現場で生の声を聞くことで、私たちの実施しているプロジェクトが人の命に関わっていると実感でき、やっていてよかった、もっと頑張らなきゃという気持ちになります。UNDPは政策レベルでの影響力を持ちつつ、下流での支援もでき、それらをリンクさせることができます。これがUNDPの強みであり、魅力の一つだと思っています。
最後に若い世代へのメッセージをお願いします。
開発問題に興味があるのであれば、若い頃に現場に行って経験を積むというのはとても大切だと思います。特に最貧国や、紛争の起こっているようないわゆるハードシップの国での経験は、若くて体力もあり、フットワークの軽いうちにしておくべきです。そういった土地で、草の根レベルで受益者の方々と直接関わるような仕事をしていく。若いうちにこういう経験をされた方は長期的に強いと感じます。若い世代の人には、なんでも興味を持って、どんどん経験をしてもらいたいです。
![a person standing in front of a group of people posing for a photo](https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2025-01/undp-tok-yokosuka-interview-3.jpg)
横須賀恭子ネパール常駐代表(真ん中)と聞き手のインターン森利紗子(右)、井上大樹(左)
横須賀恭子 ネパール常駐代表
1998年からUNDPにJPOジュニア・プロフェッショナル・オフィサーとしてルーマニアに勤務。ニューヨーク本部開発政策局、欧州・独立国家共同体地域局を経て、ウズベキスタン、ラオス、バングラディシュで常駐副代表を歴任。2019年より国連ボランティア(UNV)本部に移り、2021-2024年はUNV事務局次長を務める。2024年8月からネパール常駐代表としてUNDPで勤務。
0 件のコメント:
コメントを投稿