Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190101-35130815-cnn-int
1/1(火) 、ヤフーニュースより
東京(CNN) リン・グエンさん(25)が日本語を学んだときに最初に学んだ概念の一つが「ウチ」と「ソト」だった。
これは人々を内部と外部の2つのグループに分ける慣行を指すもので、家族や友人、近しい知人は内部、周辺に追いやられている人は外部の者となる。
日本に夢中なベトナム人留学生にとって、それは警鐘のように感じられた。自分を常に外部の者と捉える、非常に閉ざされた社会に入ろうとしているのかもしれないという感覚だ。
だが、結局、グエンさんはそんな経験をしなかった。グエンさんは日本がゆっくりと変わりつつあることに気づいた。
高齢化と人口減少に直面する中、日本政府は移民に対する非常に保守的な考え方と新たな若い労働力への必要性との間でバランスをとろうと模索している。世論は変化を求める側にある。外国人嫌いの印象もあるが、2018年の世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、日本人の59%は移民が国を強くすると考えている。
日本の国会は先月、安倍政権が提出した新たな在留資格を新設する法案を可決した。外国人が高度な技能を必要とする仕事と低賃金の仕事の両方に就労することを認め、今後5年間で34万人の外国人の受け入れを想定する。
これは日本の移民政策の大きな方針転換を意味するが、多くの専門家が十分ではないと主張している。
人口が減少する国
日本は既に「超高齢化」国だ。総人口に占める65歳以上の割合が20%を超えている。2017年の出生数は94万6060人で、1899年の統計開始以来最低となった。一方、死亡数は増加して人口減少が加速している。
人口減少は福祉や年金を必要とする高齢者を支える労働力人口も減少することを意味している。
この問題に悩んでいるのは日本だけではない。
ドイツも既に超高齢化社会に突入しており、2030年までには米国、英国、シンガポール、フランスも同様になると予想されている。欧州連合(EU)や米国は今、ポピュリズムに傾き反移民のスタンスを取っているが、アジアの国々は新たな人材の獲得を競っていて、移民と受け入れ国のパワーバランスが逆転する可能性もある。
明治大学の経済学部教授は、安倍政権が2060年までに日本の総人口が1億人を割る事態を避けたければ、政府は移民が日本を選ぶのに十分な理由を用意しておく必要があると指摘する。
2015年にピューが実施したアジア・太平洋地域の人々を対象とした調査では、この地域の71%の人々が日本に好意的な印象を抱いており、否定的な人々の数を5倍以上上回った。
グエンさんは日本のしっかりとした環境対策や安全面がアピールポイントになっていると語る。
だが、日本の過去の外国人労働力受け入れの失敗を見ると、移民が日本に来ようと思えるかどうかに疑問も生じてくる。
1990年代に労働力不足に悩んだ日本は、第2次大戦後に南米に移住した日系人の子孫に長期で更新可能な在留資格を認める入管法の改正を行った。
だが、2008年に不況に陥ると、政府はそうした移民にブラジルなど自国に戻るように促した。
テンプル大学で日本研究を行うジェフ・キングストン教授は「日本には外国人労働者をティッシュペーパーのように扱い、使い捨てをする考え方がある」と述べる。
近隣国がたどった他の道
シンガポールは日本と非常に異なる道を歩んできた。1965年の独立以降、この東南アジアの小さな都市国家は、近隣のアジア諸国から大量の移民を受け入れることで多様な社会を築いてきた。
現在、シンガポールの労働力の3分の1以上は外国人が担っている。ただ、技能の低い労働者にとって条件は過酷であり、多くの虐待も存在している。
シンガポール政府はウェブサイトで、非居住者の外国人はシンガポール人が好まない仕事に就き、地元民との間で高い給料の専門職や管理職を争うことはないと説明している。「彼らは我々の家を作り、道路を清掃し、生活を少し快適にするのを手伝うためにここにいる」
専門家は、移民を受け入れる利益を自国民に説明する点で、日本は他の先進国に遅れを取っていると主張する。キングストン氏は「移民が年金や経済成長にどのように貢献するかを政府は売り込んでいく必要がある」と語る。
移民政策が需要に追いつかない状況で、暫定的な措置がギャップを埋める形となっている。例えば、学生ビザで来日する外国人であれば、週28時間まで働くことができる。ただ、学生を労働力の穴埋めに利用しているとの批判の声も日本に対して上がっている。
修士課程で学ぶグエンさんも、日本で学びながら何とか働いて暮らしていこうとする数千人の留学生の一人だ。2018年に日本に住む外国人は過去最高の250万人となったが、日本の総人口に占める割合は2%に過ぎない。
東京のせわしない通りに事務所を構えるのは、日本での暮らしや就職に悩む外国人留学生にコンシェルジュサービスや文化的なサポートを提供する「インバウンドジャパン」だ。
5年前に留学生に安い学生寮を提供する事業を開始。その後、電話の契約や銀行口座の開設、病院への通院やパートの仕事探しなどサービスを拡大してきた。
ここで働くフルミ・ユウスケさんは、日本が徐々に外国人と一緒に働くという考え方を受け入れて、外国人が滞在し経済や社会に貢献しやすくなることを望むと語った。
奥地に入る
高知県室戸市では、技能実習制度(TITP)を利用する外国人が住民の助けになっている。
かつて漁港として栄えた室戸は高齢化が進んでいる。バーが軒を連ねたエリアには空き家が目立ち、病院や小学校など多くの公共施設も閉鎖した。
2017年、自動車販売店を営むキノシタ・ミエさんは自身の店で働く整備工を見つけられなかった。キノシタさんは人材のアウトソーシングをしようと決め、フィリピンからの実習生の受け入れを申請した。
この制度は1993年に作られて以来、度々批判にさらされてきた。理念としては、技能の低い労働者が技術習得のために来日し、自国へ技術を持ち帰ることを掲げている。だが、この制度に反対する者は、国内労働市場のギャップを埋めるための抜け穴として利用されていると批判する。実習生からも、職場での過酷な扱いやいじめの報告が度々上がっている。
キノシタさんはそうした恐い話があることを知っていた。より快適な環境を作ろうと、スタッフのための家を買った。時給762円の最低賃金での雇用となるが、技能が向上したら賃金を上げてあげたいと考えている。
キノシタさんの従業員、ジョン・リッグズ・アンチノさんとマーヴィン・カリランさんは2カ月ほど前にフィリピンから室戸にやってきた。日本到着後、日本語と日本文化の講習を数週間受けた。
フィリピンでタイヤの修理店で働いていたリッグズ・アンチノさんは「ここにいたいと思う」「日本で家族を作れたらうれしい」と語る。
彼らの日本人の同僚も新入り2人を歓迎している。
50代後半の整備士、マエダ・マサヒロさんは「互いの理解にまだ難しい部分もあるが、英語を上達しようとがんばっている」「ここにいてほしいと思う」と言う。
30代後半の整備士、ヤスダ・マサトさんも「フィリピンに行ってみたくなった。彼らに会う前はそんなことは思いもしなかった」と続けた。
現行制度では、実習生は日本で5年間しか働けない。
安倍政権の提案はさらに5年間働けるようにするものだが、一つ問題点がある。そうするためには自国に戻って申請する必要があるのだ。これにより10年間の継続滞在を求める永住権の獲得は否定されることになる。
専門家はこうした条件が政府の提案に多く含まれている可能性があると懸念を示す。現場労働者の来日を促す一方で、長期の定住を防ぐ仕組みのためだ。
日本の職場文化
日本が外国人労働者の魅力にようやく気付いたかもしれない一方で、そうした労働者の全員が日本の職場文化になじんでいるわけではない。
サミル・レビさん(26)は4年前にネパールから来日した。来日前には兄が東京で6週間の文化交流を経験していた。レビさんはラーメン店の皿洗いのバイト、コンビニエンスストアでの深夜勤務を経験した後、東京の日本語学校で採用担当者になった。
同意を示すためにうなずいたり、別れの際にタイミングよくおじきしたりする習慣も身につけ、「だいぶなじんできた。少し日本人になってきた」と語る。
だが日本での滞在が長くなるにつれ、ここにいたいと思う気持ちは薄れていっている。今は会社員として、日本人と同じように長時間労働している。残業を月100時間までに制限するなど、働き方の改革を促す法案が成立したが、レビさんはもっといい選択肢に目が行っている。
米国やオーストラリアへの移住だ。
グエンさんも日本に溶け込み、日本人や外国人の友達もできてきた。だが、長時間労働や「ノミカイ」として知られる同僚との勤務外の重い飲みの付き合いに嫌気がさしている。
グエンさんは、もし両親を日本に呼んで一緒に暮らせるなら日本で暮らしたいと語る。一方、それができないならオーストラリアやカナダに移るか、ベトナムに戻るかもしれないと言う。
「日本に魅力を感じなくなってしまったわけではない。でも、日本はたぶん、逆に日本の方が外国人を必要としているということに気づく必要があるかもしれない」
◇
本プロジェクトはピューリッツァー危機報道センターの支援を受けています。
これは人々を内部と外部の2つのグループに分ける慣行を指すもので、家族や友人、近しい知人は内部、周辺に追いやられている人は外部の者となる。
日本に夢中なベトナム人留学生にとって、それは警鐘のように感じられた。自分を常に外部の者と捉える、非常に閉ざされた社会に入ろうとしているのかもしれないという感覚だ。
だが、結局、グエンさんはそんな経験をしなかった。グエンさんは日本がゆっくりと変わりつつあることに気づいた。
高齢化と人口減少に直面する中、日本政府は移民に対する非常に保守的な考え方と新たな若い労働力への必要性との間でバランスをとろうと模索している。世論は変化を求める側にある。外国人嫌いの印象もあるが、2018年の世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、日本人の59%は移民が国を強くすると考えている。
日本の国会は先月、安倍政権が提出した新たな在留資格を新設する法案を可決した。外国人が高度な技能を必要とする仕事と低賃金の仕事の両方に就労することを認め、今後5年間で34万人の外国人の受け入れを想定する。
これは日本の移民政策の大きな方針転換を意味するが、多くの専門家が十分ではないと主張している。
人口が減少する国
日本は既に「超高齢化」国だ。総人口に占める65歳以上の割合が20%を超えている。2017年の出生数は94万6060人で、1899年の統計開始以来最低となった。一方、死亡数は増加して人口減少が加速している。
人口減少は福祉や年金を必要とする高齢者を支える労働力人口も減少することを意味している。
この問題に悩んでいるのは日本だけではない。
ドイツも既に超高齢化社会に突入しており、2030年までには米国、英国、シンガポール、フランスも同様になると予想されている。欧州連合(EU)や米国は今、ポピュリズムに傾き反移民のスタンスを取っているが、アジアの国々は新たな人材の獲得を競っていて、移民と受け入れ国のパワーバランスが逆転する可能性もある。
明治大学の経済学部教授は、安倍政権が2060年までに日本の総人口が1億人を割る事態を避けたければ、政府は移民が日本を選ぶのに十分な理由を用意しておく必要があると指摘する。
2015年にピューが実施したアジア・太平洋地域の人々を対象とした調査では、この地域の71%の人々が日本に好意的な印象を抱いており、否定的な人々の数を5倍以上上回った。
グエンさんは日本のしっかりとした環境対策や安全面がアピールポイントになっていると語る。
だが、日本の過去の外国人労働力受け入れの失敗を見ると、移民が日本に来ようと思えるかどうかに疑問も生じてくる。
1990年代に労働力不足に悩んだ日本は、第2次大戦後に南米に移住した日系人の子孫に長期で更新可能な在留資格を認める入管法の改正を行った。
だが、2008年に不況に陥ると、政府はそうした移民にブラジルなど自国に戻るように促した。
テンプル大学で日本研究を行うジェフ・キングストン教授は「日本には外国人労働者をティッシュペーパーのように扱い、使い捨てをする考え方がある」と述べる。
近隣国がたどった他の道
シンガポールは日本と非常に異なる道を歩んできた。1965年の独立以降、この東南アジアの小さな都市国家は、近隣のアジア諸国から大量の移民を受け入れることで多様な社会を築いてきた。
現在、シンガポールの労働力の3分の1以上は外国人が担っている。ただ、技能の低い労働者にとって条件は過酷であり、多くの虐待も存在している。
シンガポール政府はウェブサイトで、非居住者の外国人はシンガポール人が好まない仕事に就き、地元民との間で高い給料の専門職や管理職を争うことはないと説明している。「彼らは我々の家を作り、道路を清掃し、生活を少し快適にするのを手伝うためにここにいる」
専門家は、移民を受け入れる利益を自国民に説明する点で、日本は他の先進国に遅れを取っていると主張する。キングストン氏は「移民が年金や経済成長にどのように貢献するかを政府は売り込んでいく必要がある」と語る。
移民政策が需要に追いつかない状況で、暫定的な措置がギャップを埋める形となっている。例えば、学生ビザで来日する外国人であれば、週28時間まで働くことができる。ただ、学生を労働力の穴埋めに利用しているとの批判の声も日本に対して上がっている。
修士課程で学ぶグエンさんも、日本で学びながら何とか働いて暮らしていこうとする数千人の留学生の一人だ。2018年に日本に住む外国人は過去最高の250万人となったが、日本の総人口に占める割合は2%に過ぎない。
東京のせわしない通りに事務所を構えるのは、日本での暮らしや就職に悩む外国人留学生にコンシェルジュサービスや文化的なサポートを提供する「インバウンドジャパン」だ。
5年前に留学生に安い学生寮を提供する事業を開始。その後、電話の契約や銀行口座の開設、病院への通院やパートの仕事探しなどサービスを拡大してきた。
ここで働くフルミ・ユウスケさんは、日本が徐々に外国人と一緒に働くという考え方を受け入れて、外国人が滞在し経済や社会に貢献しやすくなることを望むと語った。
奥地に入る
高知県室戸市では、技能実習制度(TITP)を利用する外国人が住民の助けになっている。
かつて漁港として栄えた室戸は高齢化が進んでいる。バーが軒を連ねたエリアには空き家が目立ち、病院や小学校など多くの公共施設も閉鎖した。
2017年、自動車販売店を営むキノシタ・ミエさんは自身の店で働く整備工を見つけられなかった。キノシタさんは人材のアウトソーシングをしようと決め、フィリピンからの実習生の受け入れを申請した。
この制度は1993年に作られて以来、度々批判にさらされてきた。理念としては、技能の低い労働者が技術習得のために来日し、自国へ技術を持ち帰ることを掲げている。だが、この制度に反対する者は、国内労働市場のギャップを埋めるための抜け穴として利用されていると批判する。実習生からも、職場での過酷な扱いやいじめの報告が度々上がっている。
キノシタさんはそうした恐い話があることを知っていた。より快適な環境を作ろうと、スタッフのための家を買った。時給762円の最低賃金での雇用となるが、技能が向上したら賃金を上げてあげたいと考えている。
キノシタさんの従業員、ジョン・リッグズ・アンチノさんとマーヴィン・カリランさんは2カ月ほど前にフィリピンから室戸にやってきた。日本到着後、日本語と日本文化の講習を数週間受けた。
フィリピンでタイヤの修理店で働いていたリッグズ・アンチノさんは「ここにいたいと思う」「日本で家族を作れたらうれしい」と語る。
彼らの日本人の同僚も新入り2人を歓迎している。
50代後半の整備士、マエダ・マサヒロさんは「互いの理解にまだ難しい部分もあるが、英語を上達しようとがんばっている」「ここにいてほしいと思う」と言う。
30代後半の整備士、ヤスダ・マサトさんも「フィリピンに行ってみたくなった。彼らに会う前はそんなことは思いもしなかった」と続けた。
現行制度では、実習生は日本で5年間しか働けない。
安倍政権の提案はさらに5年間働けるようにするものだが、一つ問題点がある。そうするためには自国に戻って申請する必要があるのだ。これにより10年間の継続滞在を求める永住権の獲得は否定されることになる。
専門家はこうした条件が政府の提案に多く含まれている可能性があると懸念を示す。現場労働者の来日を促す一方で、長期の定住を防ぐ仕組みのためだ。
日本の職場文化
日本が外国人労働者の魅力にようやく気付いたかもしれない一方で、そうした労働者の全員が日本の職場文化になじんでいるわけではない。
サミル・レビさん(26)は4年前にネパールから来日した。来日前には兄が東京で6週間の文化交流を経験していた。レビさんはラーメン店の皿洗いのバイト、コンビニエンスストアでの深夜勤務を経験した後、東京の日本語学校で採用担当者になった。
同意を示すためにうなずいたり、別れの際にタイミングよくおじきしたりする習慣も身につけ、「だいぶなじんできた。少し日本人になってきた」と語る。
だが日本での滞在が長くなるにつれ、ここにいたいと思う気持ちは薄れていっている。今は会社員として、日本人と同じように長時間労働している。残業を月100時間までに制限するなど、働き方の改革を促す法案が成立したが、レビさんはもっといい選択肢に目が行っている。
米国やオーストラリアへの移住だ。
グエンさんも日本に溶け込み、日本人や外国人の友達もできてきた。だが、長時間労働や「ノミカイ」として知られる同僚との勤務外の重い飲みの付き合いに嫌気がさしている。
グエンさんは、もし両親を日本に呼んで一緒に暮らせるなら日本で暮らしたいと語る。一方、それができないならオーストラリアやカナダに移るか、ベトナムに戻るかもしれないと言う。
「日本に魅力を感じなくなってしまったわけではない。でも、日本はたぶん、逆に日本の方が外国人を必要としているということに気づく必要があるかもしれない」
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本プロジェクトはピューリッツァー危機報道センターの支援を受けています。
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