2019年1月11日金曜日

世界に逆行、移民拡大で「美しい日本」が問われる日

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190104-00055125-jbpressz-asia 
1/4(金) 、ヤフーニュースより

 「『クールな日本』が大好きという東南アジアの若者たちに会った。彼らが日本で職に就き、日本の魅力を母国の人たちに直接伝えられるようになることは、両国にとって大きな価値となる」

 安倍晋三首相はそう力説し、日本の少子高齢化に伴う深刻な人手不足を背景に、これまで否定していた「単純労働分野」での外国人雇用受入れの解禁に舵を切った。

 2019年は、日本の出入国管理政策の大転換となり、政府は移民を否定しているが事実上、「大移民元年」の歴史的な年になるだろう。

 この“移民受け入れ法案”(出入国管理法改正案)は、在留資格として新たに「特定技能1号」「特定技能2号」を新設するというもので、今後5年間に最大34万5150人の受け入れを計画している。

 在留期間は1号が「最長5年」「家族の帯同はなし」。一方、熟練技能が必要となる2号は、「家族帯同」で、「永住」への道も開かれることになる。

 しかし、資格の要件に加え、どの業種でどう具体的に適用するかなどの詳細が盛り込まれなかったうえに、2万人以上の失踪者を数える「技能実習制度」を残したままでのスタートとなる。

 議論を十分に重ねないまま、外国人労働者の新たな受入れ制度導入が急がれたことに野党が批判を展開した。

 新制度を利用して雇用されるのは、アジアの9カ国(2018年末現在)。アジアの移民大国というと、多民族国家のマレーシアが挙げられる。実は、同国は移民政策では日本の大先輩格だ。

 しかし、昨年5月に61年ぶりに政権交代となった新生マレーシアを率いるマハティール首相は「誰がマレーシア人か分からなくなっている。外国人労働者が多すぎる」と問題視しており、 新政権は2023年までに現行の外国人労働者数をほぼ半減させる方針を明らかにしている。

 この移民大国で一体、何が起きているのか。現地からルポする。
 「外国人労働者がいなくてびっくりした。日本ではレストランやお店の店員さんは皆、日本人。規律正しく、丁寧なサービスで感動した。日本に行ったから味わえる日本流サービスだった」

 クリスマスを日本で迎え、クアラルンプールに戻ってきたばかりの友人が感心しながら日本の従業員の「質の高さ」を褒め称える。

 というのも、マレーシアでは日本で言う3K(マレーシアでは3D「Dirty」「Demanding」「Dangerous」の「汚い」「きつい」「危険」)の仕事は、外国人(移民)が欠かせない労働力になっているからだ。

 レストランや建設業、店舗販売、警備員、メイドなどのサービス業やプランテーションなどの農業、さらには今や日系企業の製造業などでも外国人労働者抜きには考えられないのだ。

 もともとマレーシアは移民国家で、首都・クアラルンプールは、今でこそ高層ビルが散在する大都市だが、19世紀後半に英国の植民地下で、スズを採掘するために開発された鉱山町だった。中国から労働力として大量に移住してきた。

 また、20世紀初頭には英国が南米アマゾンから持ち込んだゴム苗木で、マレーシアを世界一の天然ゴム産出国に変貌させた。このときゴム農園には、英国の植民地だったインドから出稼ぎ移住労働者を連れてきた。

 こうした結果、マレーシアは、約67%のマレー系と、約21%の華人系、約7%のインド系の3大民族から構成される多民族国家となった。

 移住労働者が急増したのは、1980年代以降の急速な経済成長に伴い、日本と同様、労働力不足に直面したため。

 政府は、マレーシア人を優先する政策を展開してきたが、豊かになったマレーシア人はもはや、3K職業には就かなくなった。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)の優等生で1人当たりGDP(国内総生産)でシンガポールに次ぐマレーシア(ブルネイを除く)。

 母国の4倍から5倍もの高額な給与が得られることから、違法ブローカーなどを通じ、インドネシア、タイ、フィリピン、バングラデシュ、ネパールなど周辺国からの移住労働者が後を絶たない。
マレーシアの人口は約3300万人。総就業人口は約1500万人で、外国人の正規労働者は約200万人。

 非正規の不法外国人労働者はその2倍の400万人とも言われ、総外国人労働者は600万人とも700万人とも言われる。実に、「労働人口のほぼ半数が外国人で占められる」という世界でも最も外国人労働者の比率が高い国になった。

 しかし、マレーシアでは、外国人の単純労働者は「18歳から45歳までに限り、家族同伴なし」が条件だ。

 つまり、外国人労働者を主に単純労働の担い手として割り切っていて、「大量移民を受け入れる意向は全くない」ということだ。

 背景には、外国人労働者の増加に伴い、自国労働者の所得へのマイナス影響、医療、教育、社会保障など公的支出への負担増、犯罪率の増加、さらには社会的、文化的価値観の違いによる対立などが挙げられる。

 とはいえ、高級ホテルの厨房まで外国人料理人の波が押し寄せているのが現実。そこで昨年6月、マレーシア政府は「食文化保護のため、国内のすべてのローカルフードレストランの料理人を、マレーシア人に限定する規制を導入する」と発表。

 人気観光地のペナン州では、屋台やローカルフードレストランの料理人をマレーシア人に限るとする規制を導入し始めた。同州では、マレーシアの代表的料理13種類に関して規制が適用されている。

 これに対し、飲食業者は「外国人なしでは営業ができない」と規制導入に猛反発している。マレーシアでは2013年以降、最低賃金が適用されているが、外国人不法労働者は低コストで雇えるため、雇用主にとってはメリットだからだ。

 こうした外国人不法労働者の存在は警官や行政の賄賂や不正の温床にもなっている。そこで汚職や腐敗政冶の撲滅を図りたいマハティール政権は、その引き金になる違法労働者の削減を図る方針だ。

 外国人労働者の数は約700万人の華人系マレーシア人の数に匹敵する勢いで、インド系をはるかに抜いて、人口構成でマレー系に次いで2位に躍り出た。
街には外国人労働者、特に違法労働者が溢れており、入国管理局は昨年7月以降、「オプス・メガ」(巨大作戦)を銘打って、不法外国人労働者の取締りを全国規模で強化しており、3000人以上の不法労働者を逮捕している。

 アジアを代表する移民大国、マレーシアでも最終的には、マハティール政権下で2023年までに、「外国人労働者を現行の700万人からほぼ半減の400万人に削減する方針」(マハティール首相)だ。

 移民大国だからこそ、この「功罪」を痛いほど味わっているマレーシアでは、外国投資や経済に貢献する起業ビザなどは容易だが、「永住権」「帰化」「市民権」となると別だ。

 マレーシア人と結婚しても「永住権取得は容易ではない」国なのだ。

 リタイア移住だけでなく、30代、40代の教育移住などで日本人にも最近人気のマレーシアセカンドホームビザ(MM2H)でさえも同じ。

 同ビザでマレーシアに死ぬまで「長期滞在」できると言っても、それは「10年期間のビザ」が永遠に更新できると仮定した場合だが、当然、永住権や市民権を得られるものではない。

 マレーシアの例のように、いったん外国人に「労働力依存」すると、もはやそれなしでは現場が機能しなくなってしまう。また、日本と比較し東南アジアの多くは「大家族制」だ。

 こうしたことは日本政府も承知のはずだ。そうなれば今後、在留期限もなし崩し的に、大幅緩和されるだろう。

 すでに日本には違法ブローカーが存在し、違法労働者が急速に増加している。

 4月から入管管理局は「入管管理庁」に格上げとなるが、大量の外国人労働者受け入れの準備で、「違法労働者への対処までは覚束ない」(人材企業関係者)のが現状だ。
 人手不足解消という大命題の下、外国人労働者拡大がその救世主になる、という考え方は危険である。むしろ、議論半ばで突っ走る危険性を感じざる得ない。

 巷間では、「優秀なアジア人は欧米諸国に行って、日本にはやって来ない」「“来ていただくように”環境整備しないといけない」などと危機感を煽る風潮にも、日本人の弱い心理を動かそうとする意図が見えて、疑問を感じる。

 人手不足に関しても、まだまだやれることはあるのではないか。

 宅配業のヤマトは、宅配車両(無人)が指定された場所へ荷物を届ける「ロボネコヤマト」の実証実験を始めたほか、佐川急便はタクシー会社「山城ヤサカ交通」(京都府)と共同で、タクシードライバーが荷物を客に配送する事業を展開している。

 東京近郊では昨春、「ラストワンマイル協同組合」が設立された。

 東京、神奈川、千葉、埼玉の大手配送会社の下請け業を行ってた運送会社20数社が参加し、大手企業と比較し、廉価な宅配サービスで業績を挙げている。

 かつて宅配大手の下請けだったので、市場の運賃より低価格で仕事を請け負ってきた。組合関係者は、「廉価でも、利益は十分捻出できる。実は、運転手の給与も確保可能だ」という。

 人手不足というピンチが、上述のような新規参入組を生み、生産性や労働者の賃金向上にもつながる。

 人手不足が深刻化すれば、労働力の切り捨てはできなくなり、人材を大事に「保全」するようになる。イノベーションを模索し、賃金向上も図れる。

 結果、雇用のミスマッチがささやかれる業種にも、自然と労働力が吸収されていくのではないか。
外国人労働者の拡大で得をするのは、現行の賃金やそれ以下で労働力を確保したい経営者だけで、労働者にはプラスの「見返り」はないと見ていいだろう。少なくとも移民大国マレーシアの現状からは断言できる。

 マレーシアやタイなどのアジア諸国の例を見てもそうだが、外国人労働者受入れは、自国の労働者の賃金アップのチャンスを阻害する要因にもなる。

 欧州や豪州が、そしてマレーシアなどの移民大国が移民制限、削減に舵を切る中、日本は大きく移民拡大という新たな船出を決めた。

 「規律ある、質の高いサービスや労働力」なくして、「クールな日本」と海外から尊敬、称賛されるのだろうか。安倍首相に、問うてみたい。

 (取材・文・撮影 末永 恵)

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