2019年6月24日月曜日

「夜間中学」に増える外国人生徒 そこは「日本の義務教育」の最前線だった 語学学校ではないことの意味

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190617-00000003-withnews-soci
6/19(水) 、ヤフーニュースより
 「夜間中学」を知っていますか? 戦後の混乱で昼に中学校に通えなかった子どもたちが夜に学ぶために作られた、公立中学校の夜間学級です。現在は義務教育を終えられなかったお年寄りや、不登校で十分に学べなかった若者が通っています。一方で、いま生徒の7割は、日本に来て間もない外国人になっています。「義務教育の最後の砦(とりで)」と言われる夜間中学で過ごした外国の若者との出会いから、夜間中学の意義を考えました。(朝日新聞社会部 斉藤佑介)
日本に行った親と離ればなれの子、受け皿になる「夜間中学」
 「僕が赤ちゃんのとき、パパとママは日本へ行った。だからママとパパの顔がよくわからなかった。覚えていなかった。その後、お兄さんとお姉さんが日本へ、行っちゃったんだ。僕は、さみしかったよ」

 昨年夏、三重県松阪市で開かれた外国にルーツを持つ小中学生を招いた「特別授業」を取材して、フィリピン出身の中学3年生と出会いました。日頃伝えられない家族への感謝や思いをビデオメッセージに託す企画で、この男子生徒は、小学5年生で来日するまで家族と離ればなれだった暮らしやそのさみしさをメッセージに込めていたのです。

 「夜間中学」について知ったのは、この時です。授業を企画した愛知淑徳大准教授の小島祥美さん(教育社会学)から、出稼ぎの家族についてきたり、後日呼び寄せられたりする子どもは、小中学生だけではない、と聞きました。義務教育期間を過ぎた学齢超過の若者が増え、その受け皿が「夜間中学」や「定時制高校」になっている、というのです。

 でも、外国人が多く生活する東海地方に、公立の夜間中学はありません。そもそもなぜ、夜間中学なのか。9月に入って、夜間中学について取材を始めました。
「義務教育未修了」の私が日本で選んだ道
  フィリピン・カビテ州出身のテオドロ・ダニカ・タンさん(18)はこの春、川崎市立西中原中学校の夜間学級を卒業して、神奈川県内の公立高校に進学しました。

 「一期一会。それぞれの出会いを大切に、と先生は教えてくれました。出会いと別れを大切にします」

 昨年10月のある夜、教室を訪ねると、ダニカさんが離任する先生に向けて、流ちょうな日本語であいさつをしていました。
 
 壁に目をやると、ダニカさんが日本語で書いた「抱負」が掲示されています。

 「国語では、詩や小説などをふりがななしで読めるようになりたいです」
 「文法を頑張ります。「は」と「が」の使い方をもっとわかるようになりたいです」

 母子家庭で育ったダニカさんは2017年1月、仕事を求めた母についてくる形で来日しました。フィリピンの中学校を卒業できないままだったため、「義務教育未修了」とみなされ、日本では高校に進学できません。また、来日時はすでに高校1年生と同じ年頃で、義務教育を受ける年齢を過ぎて(学齢超過)おり、同じような境遇の人たちが多い夜間中学で学び直すことを選びました。
 
 西中原中の夜間には20人余りが在籍しています。日本の80代のお年寄りや、20代の不登校経験者、そして10~20代のネパールやフィリピン、中国の若者。ダニカさんの同級生の顔ぶれは多様でした。

 ダニカさんには、医者になるという夢があります。

 「大学に入るまでまだ時間がかかる。まずは高校に入ることが目標です」

 一緒に机を並べたフィリピン・マニラ出身のエイドリアン・メニアドさん(19)は、昼間にクリーニング店でアルバイトをしながら、夜間中学で学んでいました。彼にも、夢があります。

 「マニラにいる頃からワンピースとかナルトが好き。いつかアニメーターになりたいです」
学べることは言葉だけじゃない
 西中原中の生徒は1378人(今年4月)。このうち23人いる夜間に通う生徒も、昼間の生徒とともに入学式や運動会、文化祭に参加します。公立夜間中学の学びに共通するのは、「日本語学校ではない」ということ。西中原中でも、言葉を教えるだけでなく、「時間を守る」などルールも身につけてほしい、と教師が日本の文化や慣習を丁寧に教えているようでした。

 今年3月まで通ったダニカさんは、在学中に英検1級もとって高校に進学。安部賢一校長によると、ダニカさんは学力試験の英語で学年1位を取った、と報告に来たそうです。

 「学びに対するモチベーションを維持するのは実は難しくて、高校に行ってもやめてしまう子がいます。勉強についていけない、日本社会や学校の集団になじめない、と個々の抱える課題は異なる。だからこそ、高等教育でも一人一人に応じた手厚い支援が必要なんです」と安部校長は話しました。
「必要なのは日本社会との接点を作ること」
 2人が通ったような公立の夜間中学は、現在、全国に33校あります。最近になって、新たに四国で設置が決まり、北海道でも検討が始まりました。

 埼玉県川口市や千葉県松戸市でもこの春、公立夜間中学が開設されました。

 義務教育未修了のお年寄りは今なおいますが、不登校経験のある生徒や外国人の若者たちが日本での進学や就職の足がかりとして通うなど、ニーズは増えているようです。

 公立夜間中学が加盟する「全国夜間中学校研究会」によると、最近来日した外国人の生徒は、2018年9月時点で1215人になり、夜間中学の生徒全体に占める割合は、過去10年間で3割から7割に増えました。母国で義務教育を修了していなかったり、来日時点ですでに16~18歳と学齢期を超過していたりと、高校進学を求める外国人の若者の姿が浮かび上がります。

 「教育機会確保法」は、国籍や年齢を問わず、義務教育を十分に受けられないまま学齢期を過ぎた人に、夜間中学などでの就学機会の提供を自治体に義務づけています。文部科学省は各都道府県に1校以上の夜間中学の設置を促します。


 それでも、東北や東海、九州はいまのところゼロのまま。東海3県に聞くと、「すでに市町で日本語教室を開いている」「特にニーズは寄せられていない」として、夜間中学設置を検討していません。こうした学びの場がない地域で外国人の若者を支えているのはNPOや自主夜間学級などです。


 外国人が多い愛知県豊田市の新豊田駅近くには、外国にルーツのある子どもたちをサポートするNPO法人「トルシーダ」が運営する「日本語教室CSN」があります。前年度、外国籍の受講生約40人が学びました。伊東浄江代表は「高校進学のため、中学卒業の資格を得ようとする学齢超過の若者は東海地方にも多い」と話し、昼夜を問わず学齢超過の若者が学べる場が必要、と指摘します。

 「必要なのは日本社会や日本人との接点を作ること。それは社会に認められた居場所であり、日本人との関係性を作れる『学校』ではないでしょうか」
日本を支える「外国人材」、その子どもの心に触れて
 ダニカさんに一通り話を聞き終えた後、離ればなれの家族のことを尋ねると、少し表情が硬くなり、こう話しました。


 「フィリピンにいる弟とおばあちゃんに会いたい。友達にも会えない。不安もあるけど、今は勉強を頑張りたいです」


 その心の動きに、私は外国の子どもたちをサポートするNPO関係者の言葉を思い出していました。


 『彼らは突然、日本の社会に放り込まれる。親よりも日本語ができるようになると、親と学校をつなぐ通訳の役割を担わされることもある。日本の子より、早く大人になることを求められるんです』 


 この春、新たな在留資格によって「外国人材」の受け入れ拡大が始まりました。近年、老いていくこの社会を支えているのは外国の人たちです。農家で、工場で、クリーニング店で、ホテルで、コンビニで。その家族や子どもたちもまた日本に来て、夢を抱き、学ぶ場を求めている。


 川崎での取材が終わり、後日、大阪市立天満中学校の夜間中学を訪ねました。長年夜間中学で教鞭をとる竹島章好先生の言葉に、私は何度もうなずきました。


 「日本人であろうが外国人であろうが、それぞれの尊厳やアイデンティティーを尊重し、義務教育の責任を負うのが日本の夜間中学だと思うんです」




【#となりの外国人】
 日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。近くで暮らしているのに、よくわからない。withnewsでは「外国人」の暮らしぶりや本音に迫る企画を進めています。ツイッター(@withnewsjp)などでも発信します。みなさんの「#となりの外国人」のことも聞かせてください。

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