2019年6月24日月曜日

ヒマラヤの氷河消失が倍の速度に、スパイ衛星で判明、8億人に影響の恐れも

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190621-00010001-nknatiogeo-env
6/21(金)、ヤフーニュースより
機密解除された米国の衛星写真を活用
 世界最高峰のエベレストをはじめ、7000メートル以上の山々がつらなるヒマラヤ山脈。その雪と氷の量は、南極と北極に次いで世界3位だ。そのヒマラヤから、大量の氷河が消えたことが判明した。2000年から2016年にかけて毎年、量にして75億トン、厚さにして43センチもの氷が解け続けたという研究結果が、6月19日付けの学術誌「Science Advances」に発表された。

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 これは1975年から2000年までの2倍のペースであり、氷の消失が気温の上昇とともに加速していることが浮き彫りになった。また今後、氷が消えることによって、ヒマラヤの麓のアジア各地に暮らす何億もの人々が水不足に陥る恐れもある。

 この論文は、過去40年間でヒマラヤの氷河に起きた変化を初めて包括的に調べた研究だ、と論文の著者である米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所のジョシュア・モーラー氏は言う。

「今回の研究は、気候変動による気温の上昇に伴って氷河が消失していることを明確に示しています」と話す同氏の推定では、過去40年間でヒマラヤから4分の1もの氷が失われたという。

 地上の観測所のデータを集めたところ、ヒマラヤの気温は、1975年から2000年の平均より1℃上昇したことがわかった。気温の上昇によってどれだけの雪や氷が解けるかを計算したところ、氷河をこれだけ大量に失わせるのに十分な上げ幅であることが確認された。

「1℃の上昇は、とても大きな変化です」と論文の共著者であるラモント・ドハティ地球観測所のイエルク・シェーファー教授は話す。「最終氷期の最中でさえ、年間平均気温はわずかに3℃低かっただけなのですから」
氷河をスパイ
 米国のスパイ衛星がなければ、気温の上昇によってヒマラヤで氷が解けていることについて、これほど明確な証拠は得られなかっただろう。複数打ち上げられた軍事衛星KH-9ヘキサゴンが、1973年から1980年にかけて、この地域を撮影していたのである。

 モーラー氏らは、1970年代当時の氷河の厚さと大きさを知るために、機密解除された衛星画像を基に3Dモデルを作り上げた。これを最近のNASAの衛星画像と比較し、氷の厚さの推移を調べた。この方法により、ヒマラヤにある氷の55%を占める、比較的規模の大きい650もの氷河について、過去40年間の変化を調べることができた。

 ヒマラヤの氷河は、物理的にも政治的にも近づくのが難しい危険な地域にあるため、グリーンランドの氷河に比べるとはるかに研究が少ない、と同氏は言う。総延長2400キロのヒマラヤ山脈は、インド、パキスタン、アフガニスタン、中国、ブータン、ネパールの5つの国にまたがっている。

 ヒマラヤの氷や雪は、インダス川、長江、ガンジス川、ブラマプトラ川といった大河の水源だ。今回の研究対象には、隣接する広大な高山地帯であるパミール高原、ヒンドゥークシュ山脈、天山山脈などは含まれていないが、それらの地域でも同じように氷の融解が進行中であることを示す研究結果がある。

 5月29日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された別の論文によれば、目下のところ、氷河が安定しているときの1.6倍もの水が解け出しているという。そのため、季節的に洪水が発生し、氷河湖もいくつも形成されており、決壊して壊滅的な洪水を招く危険性がある。2012年5月にネパールのポカラ近郊の村々を襲った洪水では、60人超が犠牲となり、家屋やインフラも破壊された。
内側から解けている
 およそ8億人が、灌漑や水力発電、飲料水の一部をヒマラヤの氷河から流れ出す雪解け水に依存していることを考えると、今回の論文は非常に重要であるとともに、憂慮すべき内容だと英リーズ大学の雪氷学者ダンカン・クインシー氏は言う。

 同氏が主催する「エバードリル(EverDrill)」という研究プロジェクトでは、ネパールのクーンブ氷河に深い穴をあけ、氷の温度をモニタリングしている。測定データを見ると、氷河内部の温度が上昇しており、大量の氷がすでに融点に近づいているかもしれない、と同氏は言う。

 2月に発表された報告書によると、化石燃料による排出ガスを大幅に削減しなければ、ヒマラヤの氷は2100年までに64%も失われる可能性があるという。

「地球温暖化により、氷河に覆われた山々の極寒の頂は、100年もしないうちに岩肌に変わってしまうでしょう」。報告書をまとめた国際総合山岳開発センター(ICIMOD)のフィリップス・ウェスター氏はそう述べた。
水不足の恐れ
 多くの氷が解けているせいで、今のところは、暖かい季節に雪解け水が増えている。だが、氷河が消失するにつれて、雪解け水は数十年以内に次第に減ってゆくと予測される。

「アジアは、極端な熱波とヒマラヤからの水の不足という、未曾有の災害に直面しているのです」とシェーファー氏は語る。「私たちが直面している壊滅的な危機を回避するには、社会が問題意識に目覚め、相当額を投じて対策することが必要です」

文=STEPHEN LEAHY/訳=牧野建志

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