2016年12月20日火曜日

過疎に悩む島に日本語学校 活力期待、設立相次ぐ 留学生のニーズと一致

Source:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161219-00010003-nishinpc-soci
西日本新聞 12/19(月)、ヤフーニュースより
 鹿児島市から南に約380キロ離れた鹿児島県奄美大島。人口約4万4千人の奄美市に昨年10月、外国人向けの日本語学校「カケハシインターナショナルスクール奄美校」が開校した。

 教室は市の中心部、8階建てビルの2階にあり、ベトナム、カンボジア、フィリピンの留学生27人が学ぶ。繁華街「屋仁川通り」は働く留学生の姿が目立つようになった。

 焼き鳥店「てっちゃん」に入ると、ベトナム人留学生、ブーズッケ・マインさん(19)が炭火で焼き鳥を焼いていた。調理場に立つのは週4回で計16時間。留学生の法定就労時間「週28時間」の範囲内だ。
過疎に悩む島と留学生のニーズが一致
 「勉強? 大丈夫。分からない日本語は店の人が教えてくれる」。島料理のゴーヤーみそも作れるようになった。店主の手島郁雄さん(62)も「人手が足りないから、とても助かっている。しかも、留学生は真面目だ」と喜ぶ。

 離島で大学生の就労体験事業に取り組む東京の企業が学校設立を呼び掛け、奄美市で税理士事務所を構える浜崎幸生さんがビル提供などで応じ、「共同運営者」となった。

 島は過疎化が進み、若者の人口は年間200人前後減り続けている。観光客も多い屋仁川通りの飲食店数は県内で鹿児島市の「天文館」に次ぐ規模だが、多くは人手不足という。

 一方、留学生にとっては東京の日本語学校と比べ学費は5~6割、家賃は3割前後で、安さが魅力。過疎に悩む島と留学生のニーズが一致したとも言える。浜崎さんは、留学生が幅広い職種に就けるよう、ビジネススクールの併設も計画している。
「物価も安い佐賀は大好き」
 九州ではここ数年、人口減が進む地方で日本語学校の設立が相次ぎ、自治体が誘致するケースもある。

 佐賀県は、専門学校を手がけるヒューマンアカデミー(東京)を誘致。昨年4月、佐賀市に全国初となる産学官連携の日本語学校が開校し、約90人が学ぶ。

 県は本年度の同校に対する補助事業に1400万円を計上。日本語教師の給与の半分を助成し、留学生にも成績上位25%に月2万円の奨学金を支給する。教室は佐賀市が所有物件を格安で貸与している。

 1期生のベトナム人、ブウ・トゥイ・チャンさん(27)は「奨学金をもらえるので助かる。物価も安い佐賀は大好き」。卒業後は県内の短大進学を目指す。

 「海外の活力を取り入れないと佐賀の発展は見込めない。高度な留学生を集めるための必要な投資だ」。県国際課の山津善直参事は強調する。

 同じ佐賀県では鳥栖市に昨年4月、福岡県小郡市では同年10月、長崎県島原市は今年10月、宮崎県都城市は2013年4月、それぞれ日本語学校が開校した。
留学生19人が生卵をぶつけられる被害
 ただ、留学生と地域との摩擦も起きている。鳥栖市で14年5月、帰宅中のネパール人留学生が生卵をぶつけられた。佐賀県警は少年3人を逮捕。この留学生が通う日本語学校は15年前に設立された老舗だが、13年12月ごろから留学生19人が同様の被害を受けていた。

 鳥栖市の外国人の人口比率は1・3%超と九州で4番目の高さ。市は、住民の外国人に対する理解を深めるため、15年2月から外国人と市民との交流事業を開催し、防災訓練や文化祭に留学生が参加するなど市民と触れ合う機会を増やす。だが、「無関心だったり、外国人を敬遠したりする人々の理解がもっと必要」と同市市民協働推進課の下川有美係長は言う。

 留学生に活性化の担い手を期待する地方。だが、昔ながらの共同体意識も強いだけに、「異民」を受け入れるハードルもまた、高い。
取材班から 共に生き、共に働く
 街角で中国語とも韓国語とも異なるアジアの言語を耳にしたり、褐色の肌の人々を見かけたりすることが、九州でもここ数年で急に増えた。実は、その多くは旅行客ではない。

 来年1月末に厚生労働省が公表する日本の外国人労働者数(就労する留学生含む)は、初の100万人突破が確実視される。九州7県でも計5万人を超える見通しで、特にベトナム人とネパール人は過去5年間で10倍増というハイペースぶりだ。

 「いわゆる移民政策は取らない」。安倍晋三首相はそう明言する一方、原則週28時間まで就労可能な外国人留学生を2020年までに30万人に増やす計画や、外国人を企業や農家などで受け入れ、技術習得を目的に働いてもらう技能実習制度の拡充を進めてきた。

 その結果、国連が「移民」と定義する「12カ月以上居住する外国人」は増加の一途。国籍や文化の異なる民が同じ地域で共に暮らし、働く、新たな「移民時代」を日本は迎えている。

 24時間営業のコンビニで弁当が買え、オンラインショッピングで注文後すぐに商品が届く便利な暮らし。それを支える深夜労働の多くは、アルバイトの留学生が担う。建設や製造、農漁業などの現場では、3K(きつい、汚い、危険)職場を嫌う日本の若者に代わって低賃金で汗を流している実習生も少なくない。

 留学生30万人計画も実習制度も、政府の建前は「先進国日本の国際貢献」。だが、人口減と少子高齢化で人手不足が深刻化する日本社会を支えるため、「発展途上国の安価な労働力で穴埋めしたい」という本音が透けて見えないか。

 そんな政府の施策には、外国人を共に生きる生活者と捉える視点が欠落し、建前と本音のひずみが、留学生の不法就労や実習生の過酷労働の温床となっているのではないか。

 歴史的にも地理的にも文化的にも、九州はアジアから新しい風を受け入れ、地域を活性化させる力を日本中に波及させてきた。西日本新聞の新たなキャンペーン報道「新 移民時代」は、九州で暮らす外国人の実像や、彼らなしには成り立たない日本社会の現実を描く。「共生の道」を読者と一緒に考えたい。
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西日本新聞「新 移民時代」取材班
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