Source: http://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/295787
2016年12月15日、GOOGLEニュースより
2016年12月15日、GOOGLEニュースより
福岡県庁に近い福岡市博多区のJR吉塚駅前。11月下旬の薄暮が迫る午後5時すぎ。比較的人通りが少ない東口のロータリーを囲むように、肌の色が違う外国人の若者がぽつぽつと集まってきた。
工場バス、アジア系続々
たばこを吸いながら談笑したり、おにぎりやパン、バナナを頬張ったり、エナジードリンクを飲む姿も見られる。数はどんどん増え、いくつかのグループに分かれた。
落ち葉が散る近くの公園からは、ボール遊びを楽しむ子どもたちの歓声が聞こえる。駅を利用するサラリーマンも客を待つタクシー運転手も、気に留める様子はない。「最初は気味悪かったけど、4、5年前からどんどん増えてきて、もう慣れたよ」。毎日、買い物で駅に来るという近くの男性(73)は、彼らを横目に通り過ぎた。
薄暗くなってきた午後5時20分ごろ。1台目のマイクロバスが到着。「オハヨウ」。片言の日本語が聞こえてきた。若者たちは、吸い込まれるように乗り込み、約40席のバスはすぐ満席になった。
2台目、3台目…。同6時半ごろまでに次々と到着したバスは8台。乗り込んだ外国人はざっと数えても200人を超えた。彼らの大半は、ネパールやベトナムから来た日本語学校に通う留学生たちだ。
業者が用意したバスで、全員が24時間稼働している宅配便の仕分けや、コンビニ弁当、総菜の製造工場などのアルバイトに向かう。
1台のバスにはこんな注意書きがあった。「バスの中では静かに。ルールが守れない人は契約しません」。車中、留学生たちは仮眠を取ったり、外を眺めたり、スマートフォンを触ったりして、バスに揺られた。
渋滞の国道を抜け30分が過ぎたころ、九州自動車道の福岡インターチェンジ(IC)近くに着いた。バスのドアがゆっくりと開いた。身をかがめ、押し黙ったままの留学生たちが列をなして降りていった。
異国で深夜の荷分け
マイクロバスが着いたのは、福岡市郊外にある大手運送会社の仕分け作業の拠点。24時間稼働の「ベース」と呼ばれている。
タイムカードを押して、黒い安全靴を履き、ヘルメットをかぶったネパール人留学生のビカシュさん(23)=仮名=が、ベルトコンベヤーに宅配便を流し始めた。「全部知っている僕がいないと、工場は回らないから」。4千円のリーダー手当をもらい、日本人パートにも指示を出す。月に12万円を稼ぐ。
荷物には配達地域を示す番号が振られ、その番号に沿って荷物を集積させるため、日本語が分からなくても作業ができる。「数字は世界共通語だから」。関係者はこう漏らす。
ベースの荷物量は夜間が特に多く、日付を越えた勤務時間帯は外国人労働者が8割程度を占めるという。ネパール人が最も多く、全員が留学生だ。冷蔵庫、テレビ、自転車などが入った段ボール箱は20キロを超え、1時間に約2千個をさばく。夏場はTシャツが汗びっしょりになり、トイレで絞ってから着直す。
深夜から翌日未明にかけ、勤務を終えた若者たちは再びバスに乗り、JR吉塚駅で降りると、福岡市中央区や南区にある自宅アパートまで自転車をこぐ。午前9時からは日本語学校が始まる。居眠りすることもあるが、ビカシュさんは「今、すごく楽しい」とはにかんだ。
◇ ◇
別のバスが向かった先は、福岡県内でコンビニ弁当の製造を請け負う工場だった。
おかず、漬物、ご飯を盛りつけるベルトコンベヤーのラインには、白いマスク、帽子、作業着姿の約40人が並ぶ。全員がネパール人という。従業員約800人のうち6割が外国人労働者で、ネパール語のバイト規則もあるという。
リーダーを任されているネパール人のラムさん(25)=仮名=は4月の熊本地震後、日勤にもかかわらず朝まで働く日々が続いた。政府の要請を受け、コンビニ各社が被災地に届ける弁当を増やしたため、工場はフル稼働した。大量の支援物資の陰には外国人労働者の存在があった。
ラムさんの勤務は、留学生が働ける時間「週28時間以内」を超えていた。福岡市にある日本語学校の中には、入国管理局に目を付けられることを恐れ、弁当工場からの応援要請を断った所もある。
ラムさんが働くラインには、高齢女性の日本人パートもいる。「日本のお母さんね、楽させたい」。できるだけ業務量が少ない担当を割り振っているという。
◇ ◇
政府は「留学生30万人計画」を掲げ、九州7県の日本語学校は10年前の倍の64校(今年9月末、全国547校)に上る。今年1月には、違法な長時間労働を助長したとして、福岡県警が入管難民法違反容疑で同県直方市の日本語学校「JAPAN国際教育学院」を摘発。学校は3月に閉鎖され、100人近い留学生が東京や福岡に移った。
慢性的な人手不足で、5年前から繁忙期に留学生30~40人を雇っていたが、事件後は“穴埋め”ができなくなったという。
留学生の大半は複数のアルバイトを掛け持ちし、筑豊地区の製造業を中心に約50社が受け入れてきた。5人の留学生を雇っていた直方市のあるコンビニ経営者は言う。「募集しても日本人が来ない深夜帯に、留学生たちはまじめに働いてくれた。店長を任せたいくらいだった」
週28時間を超える労働は「犯罪」。だが、彼らが地方の貴重な労働力となっていたこともまた、現実だ。
連載「新 移民時代」第1部
留学生や技能実習生を含む外国人労働者の数が今年、初めて100万人を突破する見通しだ。「移民政策」を否定する政府の建前と、不可欠な労働力となっている現実―。九州の現場でそのひずみを直視し、共生の道を探る。
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西日本新聞「新 移民時代」取材班
imin@nishinippon-np.jp
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=2016/12/07付 西日本新聞朝刊=
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