2016年7月11日月曜日

南アジア経済の成長には自由貿易が不可欠だ

Source:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160706-00110415-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 7月6日(水)、ヤフーニュースより
原文はこちら 中国経済の成長鈍化や先進国の景気低迷を受け、アジア各国の政府は自国経済のテコ入れに努めている。私が首相を務めるスリランカの課題は、すでに安定している経済成長を加速させる方法を見つけることだ。

 1つ明確なことがある。かつて中国経済の急速な台頭が歓迎されたり、数十年前に日本や、韓国を含むアジアの虎と言われた諸国の成長が支援されたように、世界がスリランカ経済の野望を応援するとは期待できない。

■ 自由貿易への攻撃は南アジアでも

 アジアでは現在、毎日のように、何億人もの市民を貧困から救出してきた手段や政策に対する激しい政治的攻撃が行われている。実際、今年だけでも、世界中のさまざまな大衆主義者や扇動政治家の間で、自由貿易が非難の的とされているようだ。

 例えば、米国の大統領選挙では、共和党と民主党の両党の第一候補者が、世界貿易拡大について疑問を投げている。英国では欧州連合(EU)離脱キャンペーンのために、欧州市場統一のメリットが過小評価された。他の欧州諸国では、大衆主義者が貿易規制を強めるよう要求している。

 一部のアジア諸国でも、自由貿易は攻撃の的だ。日本の安倍晋三首相は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に反対する国内の特定利益集団の一部を攻撃せざるをえなくなった。同様にインドのモディ首相も、国内の貿易規制緩和に向けた政治家の説得に成功していない。

 スリランカでも、経済統合推進のために政府がインドと締結を予定している「経済と技術契約」が、激しい政治攻撃を受けている。

 しかし、総じて見れば、アジアの政治指導者は自由貿易のメリットに関する非常に肯定的な考えを崩していない。結局のところ、過去40~50年間の着実な成長は、アジア製品が世界市場に受け入れられた事実に大きく起因している。アジアの経済成長に必要なことは、自国の比較優位性を見つけて競争力のある価格で高品質の商品を製造し、可能な限り輸出を増やすことに尽きると思われるのだ。
何十年もの間、この経済モデルが大きな成功をもたらしていた。中国、日本、韓国、その他の東南アジア諸国は、このモデルによって大きく成長できた。世界貿易が低迷している現在でも、地域貿易がそうした諸国の成長戦略で重要な要素であることに変わりはない。

 しかし、南アジアでは、自由貿易の拡大によって得られるチャンスが経済成長に繋がるまでにかなり時間がかかり、残念な結果となっている。世界で最も貧しい人の44%が、この地域で暮らしているのだ。

 われわれには、貿易で国民を貧困から救うため努力する義務がある。しかし、自由貿易が急速に国際問題となっているため、世界市場に入り込むことで成長を促す選択肢が急速に奪われているように思われる。スリランカなど各国の重要な成長促進剤が貿易であるならば、われわれは南アジアを世界で最も経済的に隔離された地域から経済統合された地域へと変えて、自らの手で自由貿易を拡大させねばならないだろう。

 現在、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内貿易が全体の25%を占めるのに対し、南アジアの域内貿易の比率はたった5%だ。世界銀行は昨年、関税やその他の規制が世界貿易機関(WTO)が推奨している水準まで下がれば、インド・パキスタン間の年間貿易額は、現在の10億ドルから100億ドルまで急増すると予測した。

■ SAARCの変革が急務

 関税などの不要な規制のせいで、南アジア諸国の貿易成長は制限されている。世界中のあらゆる地域貿易ブロックの中で最大である20億人近くの人口をカバーする南アジア地域協力連合(SAARC)が機能すれば、こうした障壁は一掃されよう。

 しかし、SAARCは二国間協議を軸としているため交渉ペースが遅く、この地域を必要以上に貧困へと押しやっている。SAARCの成功には、多国間協議による新たな協力体制が不可欠だ。

 気候変動による大被害が発生すれば、状況は悪化する一方であろう。南アジアの大部分はまだ農業国で、領土の大部分が低地の海岸地帯に位置しているため、海水レベルの上昇や異常気象に非常に弱い。ヒマラヤ山脈の氷河が後退すれば、パキスタン、ネパール、インド北部に住む6億人の生命や生活が破滅するであろう。

 効果的な対策を施すにあたっての政治的なハードルは高い。しかし、この地域が抱える問題は大きいため、SAARCの全加盟国は協力を強める方向で動かずにはいられなくなるはずだ。協力することで、東部の近隣諸国と同じような、ダイナミックな経済基盤を構築できるはずだ。
ラニル・ウィクラマシンハ

0 件のコメント:

コメントを投稿