Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/13972692029b9eff689640547ae79fe5a9902891
大きな反対運動が起き、廃案に追い込まれた「入管法改正案」
岸田文雄首相は、通常国会での出入国管理法改正案の再提出を避けることを決定している。これには、今夏の参院選に備えて反対論が巻き起こるような法案を出したくないとの思惑があると言われている。 ⇒【写真】6歳で来日し、22歳で収容されてしまったトルコ国籍クルド人のメルバン・ドゥールスンさん 2021年5月に自民党政権が打ち出してきた入管法改正案が、多くの市民の反対によって廃案になったことは、まだ人々の記憶に新しい。この法案が通れば、日本に助けを求めてきた多くの当事者たちが困難を強いられてしまうところだった。 難民申請が却下され、帰国できない事情があるため再申請していた人たちも、それが3回目になると送還対象になってしまう。また、それを拒否すると刑事罰が与えられてしまう。「監理措置制度」が設けられることで、入管が選んだ監理人が当事者を見張り、責任を伴うことになる。行き場のない人たちを追い詰めることになる、人道的な配慮に欠けた厳しい改正案だった。 これを阻止するべく、市民や弁護士、野党議員、芸能人、著名人、そして当事者たちが国会前でシットインやデモ行進をしたり、抗議のファクスを自民党本部などへ送ったり、SNSで拡散していったりと、さまざまな人たちがあらゆる知恵を絞り、それぞれ自分たちができる方法で廃案へと持っていったのだ。
入管の窓口で泣いている人たちの声は、届かなかった
入管問題については、当初は外国人の人権についての関心は非常に薄いものだった。入管の収容施設には在留資格を失った外国人たちが閉じ込められ、職員による激しい虐待を日々受け続けていた。密室であることをいいことに、職員の好き放題に行われていたのだ。そして、その情報は外部には届かなかった。わずかな支援者はいたが、社会運動の中ではマイノリティ中のマイノリティだったといえる。 少なくとも2017年あたりまでは、この問題はまったくといっていいほど知られていなかった。日の光すら当たらない不衛生な収容施設で、職員による暴言や虐待は日常茶飯事。医療放置によって命を落としたり、境遇に耐えかねて自殺者がでたり、いつ出られるかもわからないストレスで精神疾患にかかってしまったり、まさに“無法地帯”の状態だった。 この頃は東京五輪・パラリンピックが決まったことにより、在留資格のない外国人の収容が急激に増えていた。難民と認められなかった人も、日本人配偶者のいる人も、帰れない事情があるにも関わらず問答無用に強制収容された。家族の誰かが捕まり、残された妻や母、子供たちは頻繁に入管へ出向いて、死に物狂いで家族の解放を求めていた。彼らは入管の建物の外や窓口で、泣きながら声を上げていた。
誰も注目していなかった問題に、いち早く取り組んでいたジャーナリスト
そんな状態にあっても、大手メディアの記者たちのほとんどは入管に見向きもしなかった。そんな中で、フリージャーナリストの志葉玲さんはいち早く入管に足を運び、当事者の取材にかかっていた。 6歳の時にトルコから日本に来て、22歳になった時に収容されてしまったトルコ国籍クルド人のメルバン・ドゥールスンさんに面会して、志葉さんは親身に記事を書き続けていた。しだいにメルバンさんのことが話題となり、大手のメディアもメルバンさんを取材するために、ようやく動き出した。 しかしメルバンさんは注目されても、その影にはメディアに目を向けられなかった被収容者とその家族たちがいた。志葉さんはそんな人たちにも声をかけ、悲痛な訴えに対して取材を続けた。そうした努力のもと、新しい支援団体も次々に台頭してきて、この問題は少しずつではあるが広がっていくこととなった。 2021年3月6日、名古屋入管で起きたスリランカ人留学生、ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)の死亡事件は世間に大きな衝撃を与えた。法務省と入管庁による被収容者の虐待が明るみになり、テレビ番組でも連日取り上げられた。今やこの問題を知らない人は少なくなってきた。
それでもまだ、誰にも知られず苦しんでいる被収容者たちがいる
残念ながら、それでも入管の環境は依然として改善されることはない。まだ、今にも命を落としかねない状態の人たちが収容されている。 東京入管に収容されているスリランカ人ジャヤンタさんもその一人だ。1年以上の収容生活の末、やっと2021年末に仮放免されたものの、わずか2週間後に再収容されてしまった。 ジャヤンタさんは、最初の収容中に2度もコロナに感染してしまい、さらに職員から集団暴力を受けたストレスで食事をとることができない。食事をしても吐いてしまうので、点滴を打たないと危険な状態になっている。しかし、点滴の針の打ち過ぎで腕の皮膚が固くなり、打つのが難しくなっているという。 入管の医師も、これ以上の点滴を行うことに懸念を示している。「これは収容が原因で、今のままでは危険だ」と職員に伝えているという。それでも、いつまでも解放される様子はない。いつ命を落としてもおかしくない状態にあるのだ。 長崎にある大村入管でも、ネパール人男性が現在、寝たきりの状態となっている。2019年4月にフリータイム中のサッカーで人とぶつかって怪我をしたが、適切な治療をしてもらえなかったという。2020年8月、外部の病院で「大腿骨頭壊死症」と診断されたが、痛み止めを処方されただけの処置で症状が悪化し、排尿障害を併発した。 その後、背中などに激しい痛みを訴え、ついには歩けなくなって寝たきり状態となってしまった。支援者との面会にはストレッチャーで運ばれてくるという異様な状況だ。直すためには「手術が必要」と言われているが、入管は一向に対処しようとしない。
今こそ、入管問題を終わらせる絶好の機会?
そんな知られざる入管の実状をレポートし続け、『難民鎖国ニッポン ウィシュマさん事件と入管の闇』(かもがわ出版)を上梓した志葉玲さんはこう語る。 「入管問題で日本は国連などからこの10年、幾度も懸念と改善勧告を受けています。もはや、いつまでもこの問題を放置はできないはずです。入管による人権侵害を終わらせるための国民的な議論が必要で、自分もその一端を担っていきたいと思っています」 志葉さんが目指しているのは、「日本の入管問題を終わらせること」だという。 「ウィシュマさんの事件で、多くの人々が入管問題に目を向けるようになり、昨年の衆院選では主に野党で各党が入管行政の改革を公約にするまでになりました。今こそ、入管問題を終わらせる絶好の機会です。収容の是非を『入管の裁量』ではなく裁判所に委ねる。無期限の収容を止める。難民その他、帰国できない事情を抱える人々を適切に救済していく。国連からの勧告や、野党合同ヒアリング等での改善案も実現していくべきでしょう」 いまだ入管の改善が見られないのは残念なことだが、志葉さんのようなジャーナリストたちによる地道な取材のおかげもあり、前回の入管法改正案は廃案となった。しかし、まだ終わりではない。今まで以上に多くの人々が、入管の人権侵害を終わらせるために声を上げる必要がある。 文・写真/織田朝日 【織田朝日】 おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
日刊SPA!
0 件のコメント:
コメントを投稿