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大阪から優れたアジア映画を届ける《第17回大阪アジアン映画祭》(以後OAFF)が、20日(日)まで梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、大阪・福島のABCホールで開催されている。昨年も「特別注視部門」で上映された『ブータン 山の教室』が、劇場公開され、日本時間の28日(月)に開催されるアカデミー賞でも国際長編映画賞にノミネートされるなど、アジアン映画祭で上映された作品が後に劇場公開され、ヒットするのは映画ファンなら周知のはず。 【すべての写真】「第17回大阪アジアン映画祭」見どころ紹介【後編】 17回目を迎える今回は、計77作品と映画祭史上最大規模の出品本数で開催。そんな多種多様な作品について、過去に同映画祭で審査委員も務めたこともあり、毎年映画祭に通っている映画評論家のミルクマン斉藤さんが、暉峻創三プログラミング・ディレクターにインタビュー。世界初上映の23作品を含め、ほとんどが日本初上映となる作品だけに、このインタビューは必読です!後編は、特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》や《台湾:電影ルネッサンス2022》や特別注視部門の中の短編などをご紹介! ──香港映画ですと、OAFF常連監督アモス・ウィーの『僻地へと向かう』がありますね。 暉峻:これも海外初上映なんですが、クオリティ的にはコンペティションに入れても全然良い出来なんです。これと『私のインド男友』の2本で、今年はカーキ・サムという男優を発見する年になるんじゃないかと思います。十代の後半から映画に出ていた人なんですけど、あまり今まで目立ってなくて、『僻地へと向かう』は久々の主演作ですね。香港って狭い都市のようで、意外に僻地と呼ばれるところがいっぱいあって、僕らが知っている香港とは全く違う、見たことのない香港ばっかり映るんですよ。ひとりの男とそれを囲む5~6人の女の話で、女たちがみんな僻地にいるんですよ。そういうところを訪ねていくという話。 ──それは香港映画好きにとっては楽しみです。威勢のよさそうな作品だと『黄昏をぶっ殺せ』がありますね。 暉峻:香港も今すごい高齢化社会なんで、最近いくつか老人ものがアート系も含めてあるものの、だいたい介護されないと生きていけないとかなんです。でも、この映画の老人は超元気なんですね。現役バリバリで。人生の黄昏の時期にさしかかったけど、もう一暴れしてやる!みたいな映画で。この映画の主役はパトリック・ツェーで、ニコラス・ツェーのお父さん。85才くらいですけどアクションも披露していて、香港電影評論学会大奬で最優秀男優賞を受賞したんです。女優もファン・ボーボーら往年のスターが出ていますし、そんな人たちが最後に大活躍する映画ですね。 ──映画祭のリーフレット見ただけでけっこう毒々しいのがベトナム映画の『椿三姉妹』。 暉峻:確かにある意味狂っている。映画祭入選なんてことは考えないで作られた映画に違いなくて、純粋に大衆向けなんですけど無茶苦茶面白い。タイ映画『四天王』も海外に出るのは初めてで。絶対普通は映画祭で上映されないようなタイプ。昔、香港映画で「古惑仔(こわくちゃい)」もの(ストリートの少年チンピラ映画)が流行ったじゃないですか。あの路線なんですよ。タイではかなりの人気者が出ていて、ものすごくヒットしたんですが、この人気者たちがどう見ても高校生に見えない(笑)。大人時代も同じ人が演じているんですけど、高校生時代はかなり無理があるかもしれないです。 ──OAFFでは毎回充実している台湾映画ですが、今年はどうですか? 暉峻:『一人にしないで』には、まだ表には出ていない売りがあって。最近チャン・チェンが新人監督を育てようというコンセプトで作った映画制作会社の作品なんですよ。ですから事実上、彼のプロデュースといえる作品ですね。ただ、映画の中に本人が出てくることは一切ない。『修行』はどっちかというとアート路線ですね。ただ、台湾映画ファン的に言うと、チェン・シャンチーがヒロインで、相手役がチェン・イーウェン。『クーリンチェ少年殺人事件』や『エドワード・ヤンの恋愛時代』に出演していたエドワード・ヤンの門下生が主演をしている映画なんです。 ──ちょっと珍しいところでは、シリーズドラマの第一話、ってのがありますね。『縁起良き時(第1話)』。 暉峻:台湾のキャッチプレイという向こうでは有名な配信サービスとHBO Asiaが組んで作ったんですが、まだ配信前なのでワールドプレミアになります。フォーマットとしては映画じゃないんですけれども、圧倒的に台湾映画界の有力者を集めて作っています。プロデューサーがホウ・シャオシェンで、監督は『台北暮色』のホアン・シー、そして主演がリー・カンション。シルヴィア・チャンも出ていて、どうやら彼女は全部のエピソードに出るらしい。台湾映画界の超注目の人たちが集まってこういうシリーズドラマを作るというのは、台湾政府的にも期待がかかっているみたいですね。 ──’82年のクラシック作品がデジタル・リマスターで上映される『女子学校(デジタル・リマスター版)』は? 暉峻:自分が知る限り、レズビアン題材を扱った台湾映画でこれが一番古いもの。この映画に関してはもう一個動機として揺り動かされたのがミミ・リーって監督なんですね。台湾映画に詳しいつもりだったんですけれども、今まで意識したことがなく、台湾でもほとんど忘れられていた監督で。1946年生まれなのでホウ・シャオシェンとほぼ同世代、『光陰的故事』や『坊やの人形』で台湾ニューウェイヴが現れたのと同時代の作品なんですよ。監督が自分で持っているプリントをフィルムアーカイヴに寄贈して、それでデジタル修復が完成したんです。
──今年は例年になく短編が多いですよね。横浜聡子特集も含めると、なんと9プログラム。お客さんもずいぶん入っていますもんね。 暉峻:自分も含めて、映画祭で何を見ようかとなった時に、ついつい短編プログラムってスルーしちゃうじゃないですか。でも今年だけは絶対にスルーしない方が良い。短編が傑作揃いなので。さっきの続きで言うと、タイの作品で『理想の国』というのがあるんですけど、これもレズビアン題材で。どの映画にも共通しているのはレズビアンを特別なこととして扱ってないということですね。インドの『母のガールフレンド』もタイトル通りです。 ──台湾の短編は毎年紹介されますが、総じてレヴェルが高いですねえ。 暉峻:よくご存じで。『三月的南国之南』は台湾の歴史を描いている作品で、現在と過去を短い時間の中で現実を反映して作っている作品で、すごいスケール感があります。『凪』の監督は香港の人で、更に面白いのが言語はほとんど日本語なんですね。台湾を舞台に、おそらく香港の情勢を嫌ってやってきた女と日本人の男の出会いがあって恋愛物語になるというような話なんですけれど。直接的に香港情勢を語ってはいないけれど、背景にはそういうことも密かに示している。 ──そういえば今、世界中が注視しているウクライナ映画もありますね。 暉峻:『二度と一緒にさまよわない』ですね。監督はモスクワで映画を勉強したウクライナ人、出演者もウクライナ人なんだけど、話は完全にトルコで展開するんです。一方で、短編だけれども有名人が出ている映画もあって、『バグマティ リバー』はクロージング作品にも出ている阿部純子で、こちらは主演作。監督は日本人ですが、全編ネパール撮影ですね。『アウトソーシング』は監督が坂下雄一郎(『決戦は日曜日』等)だし、俳優も前野朋哉に小川紗良。 ──短編だけじゃなく、長編も日本映画が例年より多いですが。 暉峻:インディ・フォーラム部門でまだ無名な監督の作品がわりと入っていますけど、ざっくり言えば無名な監督の作品ほど面白いものがいっぱい。例えば『スイッチバック』とか。ワークショップ的に作られた作品なんですけれども、監督の才能は紹介しておきたいと思ったので。冒頭の数ショットだけでもぜひ見てみていただきたい。『ランダム・コール』は大神田リキって言う監督ですが、シカゴ生まれのハンガリー系アメリカ人なんですよ。NHKの朝ドラ「おちょやん」にも出演の渋谷天笑、『ひとくず』の上西雄大監督らが出演した、完全な日本語映画です。 ──面白いですねえ。そうしたボーダレス感こそがOAFFの最大の魅力で。楽しみにしています! 第17回大阪アジアン映画祭 3月20日(日)まで開催中 会場:梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、国立国際美術館 [問] 大阪市総合コールセンター(なにわコール) 06-4301-7285 http://www.oaff.jp 取材・文/ミルクマン斉藤
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