Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9bae0ad8bd00a6fda64fd4ef8bc53c24fda79681
一般に親しまれているレジャー要素の強い登山からは縁遠いが、ヒマラヤなどの高所への登山や未踏の山のピークを目指して難易度の高いルートをクライミングし、限界に挑む登山者たちがいます。そんなアルパインクライマーの世界は一体どんなものでしょうか? ◆【画像】富士山とほぼ同じ標高のベースキャンプ! 豪華なコース料理に舌鼓 山岳カメラマンとしても精力的に活動を続ける、クライマーの三戸呂拓也氏に中央アジア、キルギスとタジキスタンの国境に聳える「レーニン峰」登山の様子を語ってもらいました。馴染みのない中央アジア、さらに標高7,000mを超える高所での登山の様子、滞在中の過ごし方や気になる食事やトイレ事情、予算などはどんな感じでしょうか? 「2023年夏、私は単身キルギスに渡りレーニン峰に登った。レーニン峰は国際キャンプの名残があり、様々な国から多くの登山者が集まる人気の山である。特別な能力は不要だが、標高は7,134m。登頂には最低限の体力や雪上技術、幕営生活能力、そして晴天のタイミングを必要とする」:三戸呂拓也氏談
■下部キャンプでの生活
●下部キャンプ 私はベースキャンプ(BC)、上部キャンプ(C1)で常設テントを利用し、食事をオーダーした。食事の時間は決まっており、その時間にキャンプにいればダイニングテントで食事ができる。内容は充実しており、スープやサラダから始まり、メイン、デザートまで出た。どれも美味しく、日本人が食べにくいものもなかった。ダイニングは自由に利用でき、ポットに入ったお湯とティーパックが常備されている。充電も問題なくでき、BCではSIMカードを入れ替えれば日本とテレビ電話ができた(BC、C1では有料でWi-Fi利用可能)。 BCはレーニン峰が良く見える、気持ちの良い草原にある。熱いシャワーも使うことができ、何も不自由しなかった。登山をせずとも1か月間BCでのんびりするだけで、料金の価値があると感じた。 ●トイレ事情 BCには10個、C1には2個の仮設トイレがある。BCは水洗で、毎日清掃が入る綺麗なトイレであった。C2には大きな岩の裏に決まった場所があったものの、そこはクレバス帯の真ん中であり、いつ崩壊してもおかしくないように思われた。シーズン終盤には安全な雪上にブロックを積んで作ったトイレがいくつもできていた。C3は雪のブロックを積んだトイレが周辺に点在している。 ただ気温が下がると雪面は氷化し滑落の恐れがあるため、夜中にテントシューズなどで向かうのは危険である。 ●他の登山者はどんな感じ? 様々な国から登山者が集まっていたが、日本人は私一人であった。圧倒的に多いのはロシア人とイラン人。比較的距離の近いキルギスは彼らにとって足を運びやすく、最近では様々な理由から登山ができる国が限られていることも大きな理由となっている。スタッフはキルギスとカザフスタン出身者が殆どだが、皆英語は話すことができる。ムスリムの登山者も多いが、ダイニングで提供される食事は肉も多く、BCでは酒も販売している。
■気になる予算!
今回はCentral Asia Travel 社の Business Plan(900USD)で参加した。入山料、空港からの送迎、BCとC1での常設テント、食事、ダイニングテントの使用などが、この料金に含まれている(詳細はHP参照)。この他で登山をするために現地でかかった料金は、ガスカートリッジ(10USD/個)、オシュでの宿泊費(40USD/日)、飲料や嗜好品を合わせて150USDほどであった。物価が安いとはいえ、この料金は破格である。BCのスタッフに理由を聞くと、原則的にヘリを使わないことが大きな要因だという。有事の際も、最も近い場所のガイドやポーターが救助活動を行い、安全な場所まで下ろすらしい。ヘリを呼ぶラインがどこにあるのかはわからないが、逆に重傷を負ってもすぐには平地の病院に搬送してもらえないというリスクがあるのかも知れない。 現地でかかる金額は少ないが、今回は航空券が34万円した。2つの大きな理由があり、まずは円安(1USD=148円)であること、もう一つは戦争中であるロシアを経由することができず、ドバイ経由になってしまったこと。キルギスの国内線はインターネットで購入することができず、旅行会社に手配してもらう必要がある。
■世界から集う登山者たち
一人で何かをしようとすると、感覚が研ぎ澄まされる。何があっても、基本的には自分一人で何とかしなければいけないからだ。それ故、全てが新鮮で、刺激的である。そして、その中でコミュニケーションを取ってできた友人は、特別な存在になる。今回も、様々な国、言葉、体格、目の色、文化の友人ができた。一度きりの人生で、色んな国で友人ができるのは素敵なことだと思う。 レーニンにはロシア人も多くいた。ロシアの現状は複雑だ。正直なところ、他国に登山に来ていることにも驚いた。彼らとどう接して良いかわからなかった。しかし登山を通じて同じ時間を過ごす中で、彼らは私に言った。「お前と友達になれて嬉しい。ロシアと日本も、仲良くいてほしい。人を攻撃したいと思っているのは一部の人間だ。早く戦争が終わり、お前がロシアの私の家族を訪ねてくれる日を待ち望んでいる」 人々の争いはなくならないかも知れない。何が正しいのかもわからない。しかし、私は彼らの言葉を信じたい。励ましあって登山ができた彼らを、これからも仲間と呼びたい。それが平和を願うということならば、その小さな一歩がレーニンにあった気がする。 三戸呂拓也(みとろたくや) 青春時代より山に没頭し続け現在にいたる。国内の厳冬期難ルートを踏破し、ネパールやパキスタンなどの高所登山の経験多数。2021年、パキスタンの未踏峰だったサミサール(6,020m) 初登頂。山岳カメラマンとしても多くの番組の撮影に携わっている。 2011年 新疆ウイグル自治区・ヤズィックアグル(6,770m)世界初登頂 2013年 ネパール・マナスル(8,168m)『世界の果てまでイッテQ』サポート 2021年 パキスタン・サミサール(6,020m)初登頂 NHK-BSプレミアム『グレートトラバース3』撮影 NHK-BS1『グレートレース』撮影 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』撮影
三戸呂拓也
0 件のコメント:
コメントを投稿