Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8d427a6e0a7ddaf58e8f72c50c98d0d9061fe474
一般に親しまれているレジャー要素の強い登山からは縁遠いが、ヒマラヤなどの高所への登山や未踏の山のピークを目指して難易度の高いルートをクライミングし、限界に挑む登山者たちがいます。そんなアルパインクライマーの世界は一体どんなものでしょうか? ◆【画像】標高5,000mで登山者が列を成す! 日本ではマイナーな中央アジアの山 山岳カメラマンとしても精力的に活動を続ける、クライマーの三戸呂拓也氏に中央アジア、キルギスとタジキスタンの国境に聳える「レーニン峰」登山の様子を語ってもらいました。馴染みのない中央アジア、さらに標高7,000mを超える高所での登山の様子、(ノーマル)ルートの概要や登山装備、必要な技術などはいかに? 「2023年夏、私は単身キルギスに渡りレーニン峰に登った。レーニン峰は国際キャンプの名残があり、様々な国から多くの登山者が集まる人気の山である。特別な能力は不要だが、標高は7,134m。登頂には最低限の体力や雪上技術、幕営生活能力、そして晴天のタイミングを必要とする」:三戸呂拓也氏談
■ノーマルルートの概要
●ルート詳細 各キャンプの標高は、“ベースキャンプ”BC(3,700m)、“上部キャンプ”C1(4,400m)、C2(5,300m)、C3(6,100m)である。ただしエージェントによってキャンプの位置が微妙に異なる。私の利用したエージェントは、全てのキャンプで最も上部に陣地があった。 ・BCまでは車でアクセスすることができる。私はオシュの空港に迎えが来てくれ、到着日はオシュの指定されたホテルに滞在。翌朝に迎えが来て、買い物を済ませた後BCに直行する。オシュ~BC間は6時間ほどである。 ・BC~C1間は砂礫の道を歩き、最終的に氷河の上に乗る。基本的に夏道であり、馬も行き来する。しかし午後は川が増水し渡渉ができないことがあり、その場合は迂回路を余計に歩かなければならない。またシーズン中に大雪が降り、C1に向かえない日が数日あるらしい。 ・C1~C2間は、出発から氷河歩きとなる。このルートで唯一クレバス帯を越えるパートであるため、氷の硬い早朝に出発することが望ましい。クレバス帯は各社のガイドやポーターが頻繁に点検に入り、ルートが作り変えられている。梯子やロープは固定されているが、アンザイレンしていないと滑落の可能性がある場所も多かった。またC2も雪上はクレバス上の可能性があるため、地面が見えている部分に幕営するのが望ましい。 ・C2~C3間は、稜線に出てレーニンの肩まで上がる。最初と最後に長い登りがあり、標高も手伝って足が重くなる。滑落のリスクは少ないが、風を防ぐ場所がなくなるため、荒天時の行動には注意が必要である。 ・C3~山頂間。一度コルまで大きく下り、急な登り返し。6,800m付近に小ピークへの急登があり、ロープが張ってある。その先がプラトーになっており、奥に山頂部分が見えてくる。しかし山頂はかなり奥に隠れており、いくつもの偽ピークを越える。山頂にはルンダル(チベット仏教の旗)が張ってあり、レーニン像が置かれている。行動時間が長いため、出発は未明になる。気温はマイナス15℃ほどだろうが、日の出前に風が強いと凍傷の危険を感じる寒さであった。固定ロープを越えたあたりで陽が当たり、その後は風がなければ暑いくらいになる。降雪後は脛ほどのラッセルが山頂まで続くが、雪崩の危険がある場所はない。だが風は勿論、視界不良時にもルートが不明瞭になることがある。天候が安定しなければ、登頂には大きな危険が伴うだろう。 自分が最後に7,000mを超えてから、4年が経っていた。レーニンのノーマルルートは、ほぼ1,000mずつ標高が上がる。標高に応じて、自分の体の変化を主観的に、時に客観的に確認しようと考えた。結果として、体調管理は順調に進み、高度障害によって行動が滞ることはなかった。登攀要素が少なかったこともあるが、7,000mに立つまでの高度順化のリズムは思い出すことができた。
■レーニン峰ノーマルルート登山の装備
特別に必要となる装備はない。ただ登頂日は衣類の調整が難しい。気温が低く、朝は風もある。防寒着は充実させたいところだが、それ以外の時間はむしろ暑い。ダウンワンピースが必携の日もあれば、ダウンジャケットがいらないほど穏やかな日もあるらしい。今回はダウンジャケットで登ったが、風が強かったこともあり、一日通して脱ぐことはなかった。 BCには一通りの登山装備が揃えられており、貸し出しを行っている。またガスカートリッジも販売しており、空路で入国した登山者はここでガスを購入する。スナック菓子や飲料、土産まで置いてあるため、足を運ぶと楽しめる。ちなみにガスカートリッジは10USD/個で販売しており、未使用で返却すると5USD/個で引き取ってくれる。
■登山を通じて得た刺激・旅の醍醐味
今回の登頂は、登山者としての自分にとって大きな意味は持たない。ただ、良い旅ができた。楽しい時間だった。何歳になっても、一人旅は新鮮な刺激を与えてくれる。この機会に巡り合わせてくれた、全てのことに感謝している。あと何回、こんな旅ができるのだろう。世界は、まだ知らないもの、美しい景色で溢れている。それらに出会う情熱を忘れないでいたい。 三戸呂拓也(みとろたくや) 青春時代より山に没頭し続け現在にいたる。国内の厳冬期難ルートを踏破し、ネパールやパキスタンなどの高所登山の経験多数。2021年、パキスタンの未踏峰だったサミサール(6,020m) 初登頂。山岳カメラマンとしても多くの番組の撮影に携わっている。 2011年 新疆ウイグル自治区・ヤズィックアグル(6,770m)世界初登頂 2013年 ネパール・マナスル(8,168m)『世界の果てまでイッテQ』サポート 2021年 パキスタン・サミサール(6,020m)初登頂 NHK-BSプレミアム『グレートトラバース3』撮影 NHK-BS1『グレートレース』撮影 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』撮影
三戸呂拓也
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