Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/988e841d4b4f9a307fb7bc676b3fe04e08d61950
偏見たどると聖書にまで、月経にまつわる沈黙と羞恥の歴史
古代エジプトでは、経血を吸収させるために柔らかくしたパピルスが使用された。いわば、タンポンの原型のようなものだ。これが生理用品の最古の記録だが、これ以外の記録は数少ない。長年にわたって月経がタブー視されてきたからだろう、と専門家は考えている。 ギャラリー:写真で見る避妊具の歴史、古代ローマ時代の品も 米イリノイ大学の文化人類学者であるアルマ・ゴットリーブ氏の話では、月経に関する歴史資料は乏しく、情報源は先住民族コミュニティの証言などの口述記録とわずかだ。さらに、生理用品として使われた素材は有機物なので、歳月の経過とともに分解して失われてしまった。 専門家によれば、女性たちは手に入る材料で自分の着衣に合うものをなんでも活用していた。多くの女性は、長めの布切れ(rag)を折って衣服にピンで止め、使用後は洗って再使用した。米ノースウェスタン大学の月経と生理用品に関する歴史学者であるシャーラ・ボストラル氏は、「『on the rag』が『生理中』を意味する俗語表現は、こうした使用法に端を発している」と話す。 「誰がどのような経験をしたか、取り巻く社会の姿勢はどうだったか、それは場所によっても時代によっても異なります」とボストラル氏は言う。例えば、19世紀後半の米国には、月経を病気とみなす医師もいた。エドワード・クラークという医師は、生理中に登校すると生殖器の発達が妨げられると考えた。 コケや樹皮など吸収性がある植物も、入手できる地域では利用されていた可能性がある。一部のバイキングがミズゴケを使用していたという説もあるが、そのような記録は確認されていない。インターネット上では、生理用品に関する複数の説が広がっている。だが、月経への対応に関する推論を立証することは非常に困難であり、米イリノイ大学の人類学者であるケイト・クランシー氏は、「ほとんどの説はでたらめです」と話している。 経血をそのまま着衣に吸収させるやり方もあった。欧米では数世紀にわたって、幾重ものアンダースカートやドレスで経血を吸収していた。19世紀末頃には、ガーターベルトに似た生理用品が編み出された。伸縮性のあるウエストバンドで、ベルトには布切れを留める穴が前後に開いていた。 当時は大きくふくらんだスカートから細身のスカートへの移行期であり、この工夫は役立ったかもしれないが、「満足できるものではなかった」とボストラル氏は言う。「女性たちは、もっと使いやすい生理用品を求めていました」
月経にまつわるデマ
多くの文化では、長年にわたって月経を否定的にとらえてきた。 拍車をかけたのは理解不足だ。例えば、体液説。中世には、人間の体は血液と黄胆汁、黒胆汁、粘液という4種類の体液から成るという説があり、健康を維持するにはこれらの体液のバランスが重要とされた。英リーズ大学の歴史学者であるレイチェル・ジリブランド氏の話では、女性は男性よりも弱くて体液のバランスを維持できないため、月経で毎月、血を失うことで体液が安定するとされていたという。 こうした考えは「ビクトリア朝時代まで続いた」とジリブランド氏は話す。ほかにも、生理中の女性は毒素を排出して病気の原因になる、経血はけがれている、さらには経血が農作物を全滅させるという説まであった。 月経に対する偏見をたどると、聖書にまでさかのぼる。イブは、唯一の神に背いた罰として苦痛を伴う出産という呪いをかけられたとされている。その後、この呪いという解釈が拡大され、月経も含まれることになった。 「月経への差別的な対応や認識は、文明の誕生以来ずっと続いてきました」。こう語るのは、ネパールの「Global South Coalition for Dignified Menstruation(尊厳ある月経のための途上国同盟)」の設立者であるラダ・ポウデル氏だ。 こうしたスティグマ(差別や偏見)は、人々に恥の意識をもたらした。20世紀初頭に入っても欧米社会では月経について話題にすることはほとんどなかったため、「思春期の少女の多くは、自分の体に何が起きているのか、理解できませんでした」。ノルウェーのアグデル大学で月経の文化を研究しているカミラ・ロストビク氏はこう話す。 そして「(初めての月経で)自分は死ぬのだと思った少女がたくさんいました」とロストビク氏は続ける。「当時を考えてみると、多くの少女にとって、非常に衝撃的な体験だったに違いありません」
根強く残る恥の意識
1930年ごろの米国では、最初の現代的な生理用ナプキンの広告にクーポンが付いており、薬局で黙ってこのクーポンを差し出せばナプキンを購入できるようになっていた。数十年にわたってスリランカからカナダに至るまで各国の文化における月経の認識を調査してきたポウデル氏は、「月経に対する沈黙と羞恥の態度は世界の多くの地域で今も根強い」と話す。 しかし、クランシー氏は「すべての文化が月経をネガティブに受け止めているわけではない」と強調する。例えば、西アフリカ地域に住むベング族の人々は経血を神聖なものと考え、生殖における月経の重要性を認識している。 一方、ボルネオ島北部のルングス族は、月経を中立的に受け止めている。彼らにとって月経は、神聖でもなく、呪われてもいない。月経中は、住居のすのこ状の床のすき間に身を置いて、床下の青々と茂る緑に経血を落とす。「実に淡々とした自然な対応です」とゴットリーブ氏は話している。 今日では生理用品が進化し、タンポン、月経カップ、そして月経ディスクなど、経血を体内でコントロールする製品も出回っている。 しかし、いまだに月経を隠すことが重視されており、「月経に伴う症状など、そのほかの問題に関する対応は不十分だ」とクランシー氏は指摘する。例えば、辛い生理痛では日常生活に支障をきたすこともあるが、こうした問題についてはほとんど議論されていない。 「私から見れば、こうした現状は、いまだに相当なスティグマが存在している証しです」とクランシー氏は話している。
文=JUDE COLEMAN/訳=稲永浩子
0 件のコメント:
コメントを投稿