2020年1月8日水曜日

【夜間中学はいま】(21)増える外国人生徒 日本社会の縮図

Source: https://www.sankei.com/life/news/191227/lif1912270027-n1.html
日本語学級の授業を受ける外国人の生徒たち=東京都葛飾区の区立双葉中(佐藤徳昭撮影)
日本語学級の授業を受ける外国人の生徒たち=東京都葛飾区の区立双葉中(佐藤徳昭撮影)
 「今の夜間中学は『日本語学校』になっていないか」。かつて夜間中学で教員をしていたという男性から、取材班にこんな声が寄せられた。確かに外国籍の生徒は増え続けており、現在では全体の約8割を占める。中には、在籍者の9割を超す学校もある。これは、母国でも教育を十分に受けられず、日本語がわからないまま暮らしている外国人が増えていることを物語っているのだろうか。
■定住志向
 12月上旬、東京都葛飾区立双葉中学校夜間学級の日本語学級で動詞の活用の授業が行われていた。
 ネパール人ら3人の生徒に、日本語指導歴10年以上の大橋正男先生(65)が「読む」という動詞の活用について問いかけると、生徒たちはつまりながら答えた。大橋先生は「動詞の変化は外国人には難しいようです」と話す。
 外国人生徒の増加を受けて、日本語能力が不十分な生徒のために設けられた日本語学級は、都内8校の夜間中学のうち5校にある。同校では生徒33人のうち28人が外国人で、週20時間のうち15時間を日本語、漢字、会話の学習にあてている。
 生徒の日本語レベルはバラバラで、初心者クラスで半年ほど学習した後、次のクラスでさらに学びを深める。その後、通常学級へと進み、数学や社会などの主要教科を勉強するという流れが一般的だ
昨年6月に入学し、今は通常学級で学ぶネパール人のパウデル・ビベクさん(17)は、家族と暮らすために15歳で来日した。昼の中学校に通ったが、日本語がわからないため級友と会話ができず、学校になじめない。教室で存在しないように扱われた状況を「見えない檻に入っている」とたとえた外国人生徒もいる。
 夜間中学に入学したパウデルさんは「日本語学級ではゼロレベルから教えてもらえた」と笑顔を見せる。外国人生徒にとって日本語がわかるようになれば、進学の道が開け、仕事の幅も広がるのだ。
 森橋利和副校長は「外国人生徒の定住志向が高まっている。日本社会の構成員として生きていくための力を身につけてほしい」と期待する。
■「0時間目」活用
 ただ、日本語学級のある夜間中学は限られているうえ、そもそも夜間中学の教員は日本語を教える専門家ではない。産経新聞が9都府県の全夜間中学33校を対象に行ったアンケートからも、ノウハウのない中で試行錯誤を重ねながら指導にあたっている状況がうかがえた。
 外部の専門家の力を借りている学校もある。神戸市立兵庫中学校北分校は始業前に「0時間目」を設け、日本語教育の施設から派遣された講師が生徒に日本語を教える。そこには夜間中学の教員も加わり、日本語教育のプロの指導法を学んで授業に取り入れている。
一方、多くの学校は習熟度別のクラス編成で独自のプリントや市販の教材などを使って日本語を教えており、ある教員は「体系立てた教え方はできていないと自覚しています。正直、何とかしのいでいるという感じです」と打ち明ける。
 疲弊する現場の声に、文部科学省も昨年度から夜間中学の教員を対象にした研修などで日本語指導の充実を図るが、「まだ改善の余地はある」と認めている。
■どう向き合うか
 生徒自身は夜間中学をどう位置づけているのか。「日本語を勉強したい」という気持ちを原動力に通う生徒が多く、毎日まじめに登校する人がいれば、日本語の授業だけを受けに来る人がいるのも事実だ。
 関西のある夜間中学の男性教員は「ここは無料の日本語学校ではない、税金が投入されている公立の学校で学ぶ意味を繰り返し説明していますが…」と苦い表情を浮かべる。
 一方で、外国籍の生徒の多くは働きながら通学しており、会社から残業を頼まれれば断れず、午後7時に仕事を終えてから最後の授業だけを受けに来る人もいる。また、日本語がわかるようになったことで他の教科への関心を深める人もいる。
 「両面あるのが夜間中学の現実です」と男性教員は指摘する。
 時代状況を映し出すことから「社会の鏡」ともいわれる夜間中学。出入国在留管理庁によると、今年6月末時点の在留外国人数は283万人近くに上り、増加傾向が続く。急増する外国人生徒に夜間中学が戸惑う様子は、日本社会の縮図でもある。
「彼らが日本で自立して暮らしていくために、言葉だけでなく、文化や習慣、マナー、地震や台風のときにはどうすればいいのかなどについても教えています。安価な労働力だけ求めて、国籍で線引きして勉強しに来るなとはいえません」。別の夜間中学の教員はそう話した。
 増加する外国人とどう向き合うのか。問われているのは夜間中学だけでなく、日本社会そのものでもある。
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