2016年8月10日水曜日

五輪競泳 「感謝でいっぱい」ネパールの13歳シン


Source:http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160810/k00/00m/050/081000c


女子100メートル背泳ぎに参加した最年少のガウリカ・シン。ネパール地震で被害に遭った=リオデジャネイロで2016年8月7日、梅村直承撮影

 スタートラインにタッチすると、振り返って電光掲示板を何度も見上げた。13歳と255日で競泳女子100メートル背泳ぎ予選(7日)に出場したネパールのガウリカ・シン。約1万1000人が出場する今大会出場選手中の最年少だ。記録は1分8秒45、出場した34人中31位。国内最高記録の自己ベスト更新も予選通過もできなかったが、「ここに来るチャンスをもらえて感謝でいっぱい。だって、この目でタイムを確認したのよ!」と笑顔がはじけた。
     2歳の時、泌尿器科の医師の父親が英国最大規模の総合病院の一つに勤務することになり、家族と共にネパールを離れてロンドンで暮らし始めた。
     ロンドンの水泳クラブでトレーニングに励み、11歳になった2年前から母国の国内選手権に出場。ネパール記録の樹立はすでに30回を数える。ただ、ネパール屈指のスイマーは、約9000人が死亡した昨年4月のネパール大地震の被災者でもある。
     ちょうど、国内選手権に出場するために母親、弟とネパールに戻っていて、5階建ての最上階の部屋で揺れに襲われた。母親がテーブルの下に入れてくれ、奇跡的にけがを免れた。余震が続くなかで階段で外へ避難すると、カトマンズの世界遺産の寺院は修復不可能なほど壊れていた。
     「建物が新しかったから倒壊しなかっただけ。生き残れてラッキーだった」と振り返り、以来、震災後に父親の友人が学校を再建するために設立したネパールの慈善団体に選手権で獲得した賞金を寄付している。
     「たいした額ではないの。役に立ってくれればうれしいのだけれど」。人口の3割に当たる約800万人が被災し、復興途上の遠い母国を思うと顔が曇るが、憧れのスターの話になれば少女のそれに戻る。
     試合前の練習中、隣のコースに同じ背泳ぎで昨年世界選手権男子2冠のミッチ・ラーキン(オーストラリア)が泳いでいるのに気づいた。「うわ、ラーキンだわ」。心が躍ったが、「なんて声をかければいいのか分からなかった……」と残念がる。そしてしまったというようなそぶりでこう付け加えた。「学校が9月6日から始まるんだけれど、宿題を一つもやっていないわ」【石原聖】

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