2016年3月8日火曜日

周回遅れがお好きな日本、密かに移民政策を実施

Source:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160302-00046189-jbpressz-int

JBpress 3月2日(水)、ヤフーニュースより
 「いらっしゃいませ。冬は日本酒が一番! 身体もポカポカ、温まりますよ」

 お正月、関西空港の免税店でそう声をかけられた。日本酒は海外でも大人気だが、筆者はお酒は、からっきしダメで買う気も飲む気も、さらさらなかったが、その客引きのスタッフの屈託のない笑顔に足を止めた。

 名札には「出口」と書かれており、もう1つ、「実習生」とも書かれていた。出口メリーさんの出身はフィリピン。日本人男性と結婚して20年以上経つという。

 陽気で天真爛漫なラテン系気質で知られるフィリピン人らしく、その笑顔は一際目立ち、長年の日本在住で日本語も流暢だ。関西空港ではこれまで、中国人や韓国人観光客対応の外国人スタッフが勤務していたが、接客の東南アジア出身のスタッフは初めて。

■ 外国人メイド、大阪府でも

 これも、爆買いの中国や韓国以上に“親日”で急増するASEAN(東南アジア諸国連合)地域からの観光客への対応とも取れるが、国家戦略特区の大阪は、「外国人メイド特区」に指定されており、今夏にも3月の神奈川県に次いで、外国人による家事代行サービス業がスタートする。

 「外国人技能実習制度」拡大による今年から本格開始の観光業分野での外国人実習生登用の関連もあるが、さらに外国人メイドサービス実施の地ならしとも取れる日本流接客サービスやおもてなしの「日本流儀の実地訓練」を内外にアピールするものだ。

 現在、日本の総人口は、1億2681万人(総務省、2016年2月1日現在の概算値=同年2月22日発表。前年同月比で18万人減)。

 一方、在留外国人は約213万人(法務省、2015年3月発表=2014年確定数)で、トップは中国人(約65万人)で、韓国・朝鮮人(約51万人)、フィリピン人(約22万人)と続き、日本の総人口に占める在留外国人の割合は1.6%。

 人口に占める外国人の割合は、OECD(経済協力開発機構)主要加盟国中、トップはルクセンブルク(44%)、スイス(22%)と続き、ドイツは8位(9%)で米国は13位(7%)、日本は約2%で25位とほぼ最下位だ。

 日本の場合、在留外国人数の在留資格等別では、「永住者」(特別永住者含=サンフランシスコ講和条約に基づき、朝鮮半島、台湾から戦前・戦中に日本に移住するが、日本国籍を剥奪された人に対し、平成3(1991)年に与えられた資格。同取得権は子孫に至るまで無期限に供与される)が約104万人で最も多く、全体の約半数を占め、在留資格を得た外国人の2人に1人が永住権を保持していることになる。
通常、国際的には長期にわたる居住は「移住」と見なされ、1年以内居住する出稼ぎ労働者も「移民」として扱う場合が多く、国連でも「1年以上にわたり外国に在留する者」を移民と定義している。

 今回解禁する外国人メイド(フィリピン人)の雇用期間は最長3年で、さらには、日本の在留資格の中で永住者以外で、日本人と同様の就労資格の自由など幅広い権利が与えられる「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者等」を考慮すれば、日本政府はこれまで移民政策は存在しないと表向きには主張してきたものの、国際基準からすれば、彼らはれっきとした「移民」に相当する。

 日本政府の移民の定義は、「移民政策を敷かない」という前提の下、これまで国内外に明確にされてきていないが、移民とは将来的に日本国籍を得ようとする「永住を前提とし受け入れる外国人」(法務省関係者)とされており、これらの認識からも、日本では実質、移民政策が存在してきたと言えるだろう。

 さらに、日本ではこれらの外国人以外に、「技能実習生(技能実習1号、2号)」という在留資格がある。日本の製造業や農漁業、繊維業分野で発展途上国の若年労働者に技能と経験を研鑽してもらい、ひいては祖国の産業発展に一役買ってもらうという途上国支援だ。

■ 失踪者は年間1000人以上

 しかし、本音のところは、日本人が敬遠する3Kの仕事を彼らに“肩代わり”してもらう、いわば「人手不足対策」の一環。

 四半世紀も続く国策だが、国際的には、米国や国連、アムネスティ・インターナショナルなどから、「強制労働や人身売買に相当する」と非難され、年間1000人以上の失踪者が出ていることもあって、その廃止が求められてきた。

 そうしたなか、安倍晋三政権はアベノミクス第3の矢として「日本再興戦略」を策定し、改訂版で「外国人材の活用」を盛り込み、認定要件の緩和などを含め、いわゆる3K分野を中心に対象職種拡大を行うとともに、このほど、実習期間(現行最長3年)の延長(5年)を決め、外国人技能実習制度の見直しを決めた。

 現在、日本で就労する外国人は約80万人で(法務省調べ)、(技能実習生など以外)外国人労働者は高度技能人材に制限されているが、政府は毎年、20万人の移民受け入れを画策しており、「高度人材だけでは、間に合わない」(政府関係者)ことから、これまで事実上、禁止していた単純労働者も受け入れる態勢を整えていく方針だ。

 背景には、世界一の超少子高齢社会の日本が抱える総労働力人口の減少に伴う経済成長鈍化に加え、社会保障費拡大や税収減、さらには財政健全化への悪影響への懸念があり、移民受け入れ拡大の切羽詰った挙句の歴史的な“国策転換”になる。

 外国人技能実習生は現在、国内に約17万人(法務省調べ。中国、ベトナムが全体の8割強。ほかインドネシア、フィリピン、バングラデシュ、ネパールなど)おり、もともと途上国支援だった同制度はいつしか、“先進国・日本支援制度”として、日本社会存続の労働力の要になろうとしている。
 2020年の東京夏季五輪開幕に(2022年の北京冬季五輪を見据え)国家威信を懸ける中、懸念される建築分野での人手不足解消にも実習生が一役買う。

 五輪開幕に間に合うように制度を見直すことで今後5年間(最長)建設作業員の雇用不足の穴埋めを担うことになっただけでなく、惣菜製造業や牛豚食肉処理加工業への登用も新規に決まり、今年度から人員が派遣される予定だ。

 さらに今後は、皆さんの身近な街の人気のコンビニ店長さんにも登用される方向で、日本の至る所で外国人お助けマンがお目見え、五輪開催も、日常生活も、もう今では外国人なくしては始まらず、その争奪戦もすでに始まっている。

 さらに外国人登用は、超高齢社会の日本で最も人材不足が深刻化する労働市場にも参入することになった。

■ 介護実習生、4月に第1陣

 他の業界と同様に、介護福祉の分野で外国人技能実習制度見直しによる対象職種拡大により、この4月から、同制度を使った新規システムの下、外国人介護士が派遣される見込みだ。

 雇用期間は最長5年で、「ある程度の日本語能力」が資格条件。4月には介護実習生の第1陣が来日予定で、中国やベトナムなどから、数百人が見込まれている。

 福祉人材センター・バンクの調べでは、介護市場での有効求人倍率は、約3倍。他業界で雇用状況が年々、少しずつ改善する一方、介護分野では人材不足が慢性化しており、今後は、出入国管理法の改正を行い、介護分野関連の在留資格も拡充する見込みだ。

 具体的には、日本の大学など介護福祉分野の養成機関で学んだ介護福祉士資格者には、資格の更新回数にかかわらず、専門人材としての在留資格を新たに認める方向で今後検討され、実現すれば、日本で長年にわたり就労が可能にもなる。

 外国人介護士は現在、EPA(経済連携協定)下で、インドネシア、フィリピン、ベトナムから、約1500人の介護士候補生の研修生を受け入れているが、介護福祉士の国家試験に合格すれば、期限の制限なく継続して就労できる。

 しかし、高いハードルの国家試験などへの躊躇もあり、フィリピンなどからの研修生希望者は目標就労人数に達しないという現実にも直面。「人材不足解消には程遠い。今後、大幅に人員が拡大することも望めない」(介護福祉関係者)と人材不足はかなり深刻だ。
 その最大の理由は、低賃金。そのため、日本人で介護士の資格や経験があっても、介護分野で働かない「隠れ介護士」がかなりいると言われ、この隠れ介護士を職場に戻すことを考えなければ、根本的な人手不足の解決にもならない。

 そんな現状下で実際、2025年前後、団塊の世代が75歳になると、現行制度維持で介護士を雇用しても、「30万人あるいはそれ以上の介護士が不足する」(前述の関係者)ことから、「将来的には介護士の半分、あるいはそれ以上を外国人が担うことを想定している」(厚生労働官僚)というから、驚きだ。

 国民の知らないところで、労働力不足の解消という大命題を公明正大に掲げる国策を背景に、実は進められているのが、外国人労働者雇用拡大による移民国家の創生である。

 そのモデルになっているのが、移民先進国のシンガポールや香港。今回の「外国人メイド解禁」も建前は、家事や育児などの過重労働負担から女性を支援し、就労を促す狙いと言うが、現存の家事代行サービスの需要はほんの2%。

■ 内閣官房参与が本音をポロリ

 利用料金が高額で、しかも日本人が消極的な外国人メイド解禁に踏み切ったのは、就労や子育て支援を最も必要な日本の中産階級の共働き世帯の救済ではなく、米国企業の要請で、ホワイトカラー族の駐在員への外国人メイド派遣を余儀なくされたからだ。

 国内への説明とは裏腹に、昨年、安倍首相の経済政策アドバイザーで内閣官房参与の本田悦朗氏がシンガポールに出向き、地元財界人を前に、外国人メイド解禁は「高度人材の外国人家庭支援」と言い切っていることからも明らかだ(参照)。

 日本人家庭でも(海外駐在経験者含)一部の富裕層の中で、今後、その利便性などで利用者は増えるかもしれないが、結局のところ日本政府は自国民の雇用環境の改善のためではなく、対日直接投資を促進するため、これまで厳しく統制してきた外国人単純労働者受け入れを急ぎ、“開国”に踏み切ったというわけだ。

 エクスパット(外国企業駐在員)に快適な環境を作り出すことで、経済を大きく成長させたシンガポールをモデルにしようというのだ。

 さらに、日本政府が外国人メイド解禁に踏み切った最大の理由は、高齢者介護の担い手を作り出すということ。以前、当コラムでも連載した(1、2、3)が、アジア諸国で突出して日本以上の超ハイスピードで少子高齢化が進んでいるのがシンガポール。

 公的な介護施設が少ないうえ、日本と同様、家族が介護の中心の担い手である現状から、「加速する高齢化への対応で、2030年には30万人以上のメイド(家政婦)が必要」(シンガポール首相府)と推測するほか、年金暮らしの高齢者単身世帯が外国人メイドを雇用する社会現象が顕著化。
 今では、10年以上前の2倍以上に相当する同世帯の約15%が1人以上のメイドを雇用しているという実態も浮き彫りになっているほどだ。

 さらに、日本政府はこのような外国からの単純労働者の受け入れだけでなく、シンガポールに見習い、外国からの高度人材登用拡大も視野に入れている。

 高度人材の要件に関する基準緩和が実施され、東京や大阪などの国家戦略特区での外国人起業促進や高度人材の積極活用のための新基準設定、さらには永住権取得要件の居住期間を5年から3年に短縮するなど、外国人高度人材の移民を促していこうと考えている。

 しかし、日本がお手本とする移民先進国のシンガポールは今、移民政策の修正を余儀なくされ、外国人受け入れの抑制政策を次々に打ち出すという、移民推進の国策転換を迫られている。

 次回はその実態を中心にリポートする。
末永 恵

0 件のコメント:

コメントを投稿