2020年6月24日水曜日

出稼ぎ外人が集う理由、ワルシャワ限界ホステル物語

Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/36f02b5e8b1e9aa5b1da2d01a3ba275748b2bc73

配信、ヤフーニュースより

Wedge

1泊720円の安宿に17連泊

2019.7.23~9.2 42日間 総費用20万円〈航空券含む〉  8月15日 、グダンスクを朝方発車した超満員列車は昼過ぎにワルシャワ中央駅に到着。予約していた駅近のホステルは15階建て高層マンションの7階の一部を改装したものだった。大部屋の二段ベッドは17泊で470ズローチ、一泊約720円と物価の安いワルシャワでも破格。9月1日発の帰国フライトまで半月ほどワルシャワ見物すると計画だった。

 8月15日午後、スーパーでビール、ワイン、食料品を仕入れて共同キッチンの冷蔵庫にビニール袋に名前とベッド番号を書いて保管。  8月16日、朝食を作ろうと冷蔵庫から食料品を入れた袋を取り出したところ缶ビール1本、ハム200グラムが消えてきた。夜中に誰かが盗んだのだ。過去5年間世界各国の安宿に泊まってきたが食料を盗まれたことは一度もなかった。こうした安宿はバックパッカーと呼ばれる若い旅行者が多いが、他人の物を盗むような種類の人間はいなかった。  8月16日夕刻、近くのベッドで寝泊まりしているフィリピン人のフェルディナンド。彼の家系は福建華僑で一族は移住後にカトリックに改宗。フェルディナンドは漢字も少しは読めるようで、血統的には漢民族。  彼は高校卒業後出稼ぎに出て以来、もう5年以上フィリピンには戻っていない。故郷には仕事もなく、親兄弟の多くは出稼ぎに出ており故郷に帰っても仕方ないという。一億人の人口の10%、即ち一千万人が常に海外で働いている出稼ぎ大国フィリピンの悲しい一面だ。  フェルディナンドによるとEU加盟国で外国人労働者が一番簡単に労働許可証を得られるのがポーランド。彼も正規の労働許可証が下りるのを待っているが、ホステルの宿泊客の大半は労働許可証待ちか、就業先を探している外国人だという。

バングラデッシュから見たポーランド

 8月17日、隣のベッドのバングラデッシュの学生と挨拶。彼の兄はポーランドで3年間も出稼ぎしているという。バングラデッシュは伝統的にサウジなど中東産油国への出稼ぎ労働者が多いが、近年は隣国インドへの出稼ぎが激増。国境を越えて日帰りでインドへ出稼ぎに行くバングラ人だけでも50万人もいるという。  彼はポーランドのポズナン大学で土木工事管理(Management of Civil Engineering)を学んでいる。ポーランドの大学は授業料が安く英語で授業するコースが多いので途上国の留学生が多いらしい。  ポーランドで学位を取得すればEUのドイツ、オランダ、フランス、デンマークといった所得水準の高い国で専門家として就業することが可能になると目を輝かして語った。  8月17日、受付嬢のマリアとおしゃべり。マリアはウクライナ国境近くの森林地帯の寒村の出身。ホステルの宿泊者で一番多いのはウクライナ人労働者で、次がロシア人という。世界中から外国人労働者が来ておりウクライナ、ロシア以外の当日の外国人労働者の宿泊客はバングラデッシュ3人、パキスタン2人、インド人2人、ダゲスタン1人、フィリピン1人、ネパール1人とのこと。  ウクライナ、ロシア、ベラルーシなど東方諸国に対してポーランド政府が特別簡易手続きで労働許可する制度が背景にあるようだ。  8月18日午後5時頃、食料買出しから戻るとホステル内部が騒然としていた。受付嬢のマリアに聞くと宿泊客が酔っ払って騒ぎをおこしたという。午後3時過ぎにチェックインした4人のウクライナ人の若者は一部屋を借りた。4人は直ぐに部屋でウオッカを飲んで騒ぎ始めた。4時頃マリア嬢が注意すると部屋に引きずり込まれ乱暴されそうになった。  辛くも逃れたマリアはオーナーに電話。オーナーは即座に警察を呼ぶように指示して、オーナー自身もホステルに駆け付けた。筆者自身が見聞したところ、パトカーが到着して警察官が四人の身元確認を始めたが、1人が意識を失って倒れてしまい残った3人はオロオロするばかり。 3人はパトカーで連行、意識不明の1人は救急車で搬送という顛末。  ホステルのオーナーは50歳前後であろうか、几帳面な性格のようだ。自ら酔っ払いが暴れていた4人部屋の掃除をしていた。オーナーは数年前にホステルを開業したが、最近次第に客層が悪くなってきたと嘆く。日本のオジサンが「先日冷蔵庫に入れておいた缶ビールとハムが盗難に遭った」とクレームしたら、オーナー氏は逆切れ。  「ロシアやウクライナの連中は何でも持って行っちまう。キッチンの皿、コップ、スプーンは何度補充しても足りないし、砂糖や食用油は丸ごと消えちまう」  「マットレスやカーテンを取り替えてリノベーションしたけど、悪い客ばかり増えちまう」と怒りは収まらない。

インド人起業家

 8月19日、同室の中年インド男性はインドのハイデラバードで人材派遣会社を共同経営している。現在ポーランドの当局に3年間の期間居住ビザ(Temporary Residential Visa)を申請中。ワルシャワ繁華街のインド料理屋で夕方から皿洗いをして滞在資金に充てている。  ポーランドで就労を希望するインド人のために近い将来ワルシャワに人材派遣会社を設立する計画だ。ポーランドはEUで最も外国人労働者に門戸を開いているので彼はビジネスプランに自信を持っていた。  8月25日、毎日ラウンジで一心不乱に勉強している女子がいた。彼女はウクライナの医大を卒業した歯科医だった。ポーランドの歯科医資格を取るために歯科とポーランド語会話の二つの試験をパスするべく猛勉強中。仲間の女子歯科医三人と一緒に受験するとのこと。  合格後したらポーランドで1年間無給インターンとして勤務してから晴れて歯科医免許を取得できる長い道のりである。ポーランドで歯科医として実績を積めばドイツなど他の国での勤務も可能になる。彼女の最終目標はドイツだった。  グダンスクの薬学部の女学生から聞いた話を思い出した。彼女のボーイフレンドは医学部で学ぶレバノン人留学生。ポーランドの医学部は学費が安く英語授業のコースがあり途上国の学生に人気らしい。  レバノン人の彼氏は卒業後ポーランドで病院勤務をしながらドイツの医師語学検定を受験する計画だった。患者と意思疎通できるレベルのドイツ語なので難易度は比較的低いらしい。二人の将来の夢はドイツでの就業だった。  8月29日夕刻、ラウンジでビールを飲んでいたら、長逗留しているパキスタン人が酔っ払って「お前は気に食わない野郎だ。俺のビジネスの邪魔をしやがって」と因縁をつけてきた。ヤバイ雰囲気なので早々にラウンジを引き上げた。  このパキスタン人は金に困っているらしく、誰かしら捕まえては小遣い稼ぎをしようと狙っていた。数日前にスウェーデン人に「可愛い子(bambina)がいるから照会するよ。50ドルでOKだ」と誘っていた。  翌日夕刻、くだんのパキスタン人が泥酔して部屋に乱入して来た。オジサンに罵詈雑言を浴びせてから壁を拳で叩き始めた。幸いに巨漢のスウェーデン人が上段のベッドから降りてきてパキスタン人を牽制してくれた。  興奮が収まらずエスカレートしたパキスタン人はベッドの鉄の支柱を拳で殴って脅してきた。仕方ないので「私は貴方に対して何か失礼なことをしたのであるなら謝る。大変申し訳ない」と丁寧に頭を下げた。  それからスウェーデン人に促されて部屋を出て行った。翌日よくよく考えてみたら思い当たるふしがあった。1週間くらい前に田舎から出て来た純朴そうなポーランド青年にパキスタン人が繁華街で通行人に配っているレストランの割引券を300円くらいで売りつけようとしていたのだ。  青年がオジサンに意見を求めてきたので「やめておけ」とアドバイスしたのを逆恨みしていたのだ。

高野凌 (定年バックパッカー)

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